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飛鳥の守護神   作者: 葉月みこと
第六章
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甘樫丘

 夕暮れが近づいてきた。


 一行は甘樫丘に急いでいた。

「水落遺跡とか、資料館とか、欲張りすぎたな。日の入りに間に合うかな。

 明日は帰るから、今日夕焼け見ないとあかんのに」

かおりが焦っている。

「大丈夫と思うけどな。最近の日没って5時半くらいやんか。あと30分以上ある」

朋子が時計を見ながら言った。

「でもな、地図によると、駐車場から結構歩くんや。それに、結構な登りやし」

「えっ?」

サトルが小さな声をあげた。

「サトルくんはまた車ん中で休んどるか?」

「いえ。今回は行きます」

「無理せんとき」

朋子が声をかける。

「はい。ありがとうございます。でも、行きます。どうしても、甘樫丘からの景色を見てみたいんです」

「並々ならぬ決意を感じるな」

車内で笑いが起きた。


 キミは笑えなかった。

 昨晩聞いた、サトルの話を思い出していた。

(大郎さんの中でも、甘樫丘は特別な場所だったのよね。加夜さんを守ろうって誓った場所。そのために建てた家があった所。

 でも、その家もこの鳥が燃やしちゃった)

キミは隣にいる朱雀に、ちらっと視線を走らせた。

 

 甘樫丘の展望台までの坂道はそれほど急ではなかった。だが、やはり距離があった。

「大丈夫? サトルくん」

キミが心配そうに声をかけてきた。

「はい。なんとか。今日は玄武の力を使ったわけじゃないし。体力温存してきたし」

サトルは笑ってみせた。

「それならよかった。もう少しみたいよ。がんばろ」

キミが手を差し出した。サトルは自然にキミの手を取った。2人は手を繋いで、展望台を目指した。


 5人は日没前に、展望台に到着できた。

 それ程広くはないスペースに、4、5人が日没の瞬間を待っていた。中には三脚を立ててカメラをかまえている人もいる。

サトルはかなり息が切れているものの、喘息の発作は起きていなかった。


「きれいやーー」

「幻想的!」

「眩しいわーー」

それまで静かだった展望台が、3人のおばちゃんの登場で、一気ににぎやかになった。


サトルは設置してある石のベンチに腰掛けた。

 眼下に明日香村が広がっている。サトルはピンと背筋を伸ばして、景色に見入った。

「薄暗いから、あんまりよく見えないわね」

写真撮影からようやく解放されたキミは、サトルの隣にゆっくりと腰掛けた。

「はい。でも建物とかも見えないから、大郎さんが見ていた景色と、変わりがないです。緑もたくさんあるし」

サトルは正面を向いたまま答えた。


「ほら、キミさん。

 あの、正面の綺麗な三角形の山が耳成山。で、その右にある、尾根がなだらかな山が天香久山です」

人差し指でさしながら説明する。

「天香久山。じゃあ、青龍は今、あそこにいるのね」

「ああ、そうですね。

 そうだ。カービィ。お前はあの綺麗な山からやって来たんだ」

サトルは玄武に話しかけた。玄武も耳成山を見つめていた。まるで我が家を懐かしんでいるようだ。

「それと、畝傍山ですね。

ちょっと、左側を見て下さい。あの高い山の手前。山頂が2つあるように見える山があるじゃないですか。あれが、畝傍山です」

 

 冬の夕暮れはせっかちだった。

あっという間に、太陽は山に隠れようとした。

 太陽の周りには薄い金色の円と、強く輝く金色の光の直線が放射状に描かれた。

 甘樫丘の空気も黄金色に染められた。


「飛鳥には、本当に神様がいるんですね」

サトルは光景に目を奪われたままだった。

太陽の光がスパークした時、サトルは1度目を細め、ゆっくりと立ち上がった。そして隣のキミに手を差し伸べた。

キミは穏やかに微笑み、その手を取った。キミも静かに立ち上がり、2人は向き合った。


「キミさん」

 背の低いサトルはキミを少し見上げ、2人は瞳をまっすぐに合わせた。

 2人の顔は金色の光で照らされていた。

サトルは意を決したようにして、語り始めた。

「俺。この地を守りたいと思います」

キミは小さくうなずいた。

「そうね。私も。

だって私たちには、物部と中臣の血が流れているんだもの」

サトルはまっすぐにキミの目を見つめた。

「はい。

だから、カービィもキミさんの朱雀も飛鳥にいるべきだと思うんです。

俺。卒業したら、明日香村に戻って来ます。

 だから、キミさんも一緒に来て下さい」

「はい」

キミはもう1度うなずき、はにかんで微笑んだ。

サトルはぎゅっとキミの手を握りしめた。

 そして2人は同時に、朱雀と玄武に視線を移した。


 黒い玄武と赤い朱雀も、金色に煌いていた。

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