表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛鳥の守護神   作者: 葉月みこと
第六章
39/41

石舞台古墳

 翌朝。

 明日香村は快晴だった。雲一つない、紺碧の空。

「ほらぁ。今日も良い天気。

 うちの晴れ女伝説。未だ健在や」

朋子はドヤ顔で、空を見上げた。天気が良いのは、自分のおかげと言わんばかりだ。

「最初から、晴れの予報やんか」

仁子とかおりは、速攻でつっこんだ。


 元気なおばちゃんたちと正反対に、サトルとキミは寝ぼけた顔をしていた。

 サトルの話は深夜までかかった。さらに、二人ともベッドに入っても、なかなか寝付けなかったのだ。目の下に大きなクマを作り、あくびを連発させた。


 今日も5人で観光に出かける事になった。

 

「今日はまず、石舞台古墳やろ。岡寺(おかでら)と、飛鳥寺(あすかでら)亀形石造物(かめがたせきぞうぶつ)酒船石(さかふねいし)ってとこかな。

 サトルくんたちは、どこか行きたいとこあるんか。

そうや。いつ帰るん? うちらはもう一泊するんやけど」

かおりは手書きの旅行計画書を見ながら言った。

「私たちも、もう一泊します。多分……。

 行き先は本当にお任せでいいですか。車まで乗せてもらって。本当にありがとうございます」

「そんなん、いいって。気にせんとき。

 サトルくんは、なんかリクエストある?」

「わがまま言っていいですか。

 俺、甘樫丘(あまかしのおか)に行ってみたいです」

「そこ! もちろん行くって」

かおりの声が響いた。

「そこな。夕焼けスポットなん。

 今日はお天気もええし、素晴らしい夕陽が見られるでぇ。

 でも、なんで甘樫丘?」

「……。 景色、きれいですよね。飛鳥を一望できるし」

「どーしたん? サトルくん。見たことあるんか?」

「えっと、調べたんです。色々」

「素晴らしい! ええ事や」

仁子に肩をバシッと叩かれた。

「痛っ」

(どうして、すぐ叩くんだろ。しかも、手加減なしだし)

サトルは叩かれた所をさすりながら苦笑いする。

 上機嫌になったおばちゃん達は、いそいそと車に乗り込んだ。

 一行は石舞台古墳に向かって出発した。


「うわー! ホンマ、でかいわー」

隣にいて恥ずかしくなる程の大声。

 駐車場に車を停めると、丘の上に古墳が見えてきた。歴史好きのおばちゃん達は興奮して、駐車場から走り出していた。3人は入場料金を支払うと、一目散に駆け出した。

 サトルとキミはゆっくりと歩いた。走る気は全くなかった。


 古墳まで歩道が登いている。道の先に岩山が見えてきた。

「おばちゃん達じゃないけど、本当に大きいのね。これも石じゃなくって、岩よね」

キミも感嘆の声をあげた。

 墓の間近まで来ると、その大きさが実感できる。

 高さは人の倍以上あり、横幅は7、8メートルはありそうだ。大きな岩が数10個、絶妙のバランスで積み重なっている。

「大地震とかきたら、崩れそうですね」

サトルは石の塊を見上げた。2人で見学をし始めたところで、おばちゃんの大きな声が響いてきた。

「キミちゃーん。写真撮ってぇな」

「なんで、写真撮るのは私なのかしら。

 ってか、私たち、写真係で誘われたのかもって思っちゃった。3人揃って写真撮るのに、都合いいのかもしれないし。多分、自撮りとかできなさそうだし」

「キミちゃーん!」

「早く行かないと、永遠に呼ばれますよ」

「そうね」

キミとサトルは笑いながら3人の所へ急いだ。


 来た方とは反対側に入り口があり、古墳の中に入れるようになっていた。入り口には石の階段があり、数段下に降る。5人は縦に並んで石の部屋の中に入った。

 中は薄暗く、外気よりさらにひんやりとしている。石と石の隙間から、少しの光が差し込んでくるだけである。石の内側はじっとりと濡れているような質感だ。

 中には数人の観光客がいた。

 

「これな、石室なんよ」

かおりは中を見渡しながら言った。

「石室、ですか?」

サトルが首を傾げる。

「そう。遺体を安置する所や」

「じゃ、これ、棺なん?」

「棺を入れる部屋みたいなもんかな」

「一体、何人、埋葬するんや。デカすぎやろ」


「ち、ちょっと、待ってください。

 ってことは。ここに遺体が置いてあったってことですよね」

サトルは今更ながらに気がついた。顔がすっかりこわばっている。

「俺、無理です。マジで、無理です。なっ、出よ」

サトルは玄武を見て、友達にでも話しかけるようにして言い、逃げるようにして階段に向かった。キミもあとを追いかけるようにして出ようとした。

「ああ、待ってぇな。キミちゃん。写真、撮って」

キミは止められてしまった。


 写真を撮り終えたのか、ほどなくキミも石室から出て来た。中からは、おばちゃん達の大きな話し声が響いてくる。

「いや。お墓の中で、写真って、ありえないでしょう。なんか、写りそうで怖いですよね」

「サトルくん。ほんと、怖がりなのね」

キミはクスクスと笑った。

「でも、あんな不思議な事があっても、落ち着いていていたのに。古墳はダメなの?」

「えっ。不思議なって?」

「加夜奈留美命神社での事。

 私はすっかりパニクっちゃったけど。サトルくん、全然普通にしていたし。たのもしかった。そう。頼り甲斐があって……」

「えっ?」

サトルは一気に赤面した。真っ赤な顔のサトルに気がつき、キミも赤くなった。


「お待たせ!」

賑々しく3人が出て来た。サトルとキミは、慌てて顔を背け、2人の間に少し距離を作った。

 5人は巨大な古墳から離れ、遊歩道を歩き始めた。古墳全体が見渡せる。

「これって、舞台みたいな形しとるから、石舞台古墳って言うんやろ」

朋子が古墳の全体を写真に撮りながら聞いた。

「そうそう。

 この古墳の屋根っていうか、上の方な。平らやんか。だからあそこで狐が夜な夜な踊ってたって伝説があったんや」


「なぁ。おーこちゃん。これって、馬子の墓やったっけ?」

仁子が尋ねる。

「そや」

「えっ? 蘇我馬子?」

突拍子もないサトルの声に、皆が驚いた。

「どしたん?」

「なんで、こんな風になっちゃったんですか? 馬子のお墓って、大きな山みたいな墓だったのに」

「はっ?」

一瞬、サトルを見る3人のおばちゃんの動きとトークが止まった。

「サトルくん。そのお墓、見てきたんかい」

仁子が裏手でサトルの胸を叩いた。

(しまった。過去で見てきた事だった)

ちらっと玄武を見たが、素知らぬ顔でフワフワと浮かんでいた。

「いえ。すみません。

 いや、あの、そうじゃなくって。あのですね。

 昨日、いろいろ古墳とか見て来たんですけど、どのお墓も山みたいになっていたんですよ。だから、こんなむき出しの墓って、一体なんだろうって」


「おお。すっかり歴史少年やな。

 この墓な。悪人の蘇我家の物だって事で、破壊されたんよ。鎌足とかにやられたんやなかったかな。盛ってあった土はみんな、取っ払ってしまったんや。

 罰っていうか、見せしめっていうかやな。そんで、本来神聖なはずの石室がむき出しにされたって話や」

「ひどい……」

サトルは眉をひそめた。

「結局、勝てば官軍(かんぐん)、負ければ賊軍(ぞくぐん)って事ですね」

「やっぱ。T大生の言うことは、一味違うわぁ」

(もう、言い返すのも面倒だ)

サトルは玄武を見ながら、ため息をついた。


「そうだ。じゃあ、大郎さんの墓ってどこにあるんでしょう?」

「はっ? 大郎さん? どこの友達や!」

3人は声をそろえて大笑いした。

(あっ。また、やってしまった)

過去の世界の長い旅が、サトルの思考を混乱させる。

「大郎って、そのぉ、蘇我入鹿の本名ですよね。俺、そっちで覚えちゃって」

苦しい言い訳をして、「大郎さん」発言はしらばっくれることにした。

「いやぁ。笑かしてもろたわ。それは、まぁ、置いといて」

(あっ。置いてくれるんだ)

サトルはホッとした。かおりは真顔になって話を続ける。


蝦夷(えみし)と入鹿の墓は、大陵(おおみささぎ)小陵(こみささぎ)って言って、2人が生前に作ったっていわれとるんやけどな。実際に、その墓ん中に遺体を入れてもろたんかもわからん。

 ただな、最近、えっと、小山田(こやまだ)古墳いうたかな。その古墳が、そうかもしれんって言われとるんや」

「そこって、見に行けますかね」

「時間あったらな。まぁ、明日でもかめへんけど。

 そうそう、その古墳な。養護学校のグラウンドで見つかったんやで。さすが明日香村や」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ