冒険者ギルド2 冒険者ギルド訪問
風呂を終えると、次は朝食を求めて屋台通りへ向かった。
アリスがとある屋台の前で立ち止まる。
米(のようなもの)を拳くらいの大きさに丸めたものを売っている屋台だった。おにぎりのような見た目でとても安心する。中にはほぐした干し肉が入っているらしい。
「この国には米もあるんだな」
「あるわよ? それがどうしたの?」
「いや、嬉しいだけ」
外国とかだと、よく米は見た目が受け付けられなかったりするらしい。例えばウジ虫に見えたりとか。その手の文化があったら米は絶望的だったが、幸いこの国には米が受け入れられていた。
干し肉おにぎりを買い、中央広場へ行く。噴水の縁に二人で腰掛けた。
おにぎりを頬張る。常温の米と干し肉が、口の中で良い感じに混ざり合う。干し肉は甘辛く、十分におかずとしての効果があった。
食事を進めると、水が欲しくなる。今は風呂あがりもあって、なおさら体が水を求めていた。しかし、水は買っていないし、持ってきてもいない。
「なあ、アリス。水はないのか?」
「あるわよ」
「え、どこに?」
アリスは後ろを指差した。後ろには噴水しかない。……噴水?
「噴水の水を飲めっていうのか?」
「何? 信用できないの?」
「できないでしょう」
アリスはフンと鼻を鳴らすと、片手で噴水の水をすくい、それを口に運んだ。
「大丈夫、今まで何もなかったから」
「お前の胃袋が鉄だからじゃね?」
「水いるの? いらないの?」
「いります」
水は綺麗な透明で、変な臭いもしない。川の水でさえ、ヤバい時もあれば大丈夫な時もある。颯真は観念して噴水の水を飲んだ。
朝食を終えると、颯真はアリスに訊いた。
「アリスはいつもどんな仕事をしているんだ?」
「あたし? あたしは冒険者をしているわよ? 冒険者でいろいろな仕事をしてる」
「お前が……冒険者?」
「あれ? 冒険者を知ってるの?」
ファンタジー小説で。とは、もちろん言えなかった。
「簡単に言うと、依頼者から頼まれた仕事をやるやつだろ?」
「合ってるわ。まあ、あたしがやるのはほとんど簡単な仕事だけだけど」
アリスがある建物を指差した。
「あれが冒険者ギルドの建物」
中央広場周りの一等地には、大きな建物が軒を連ねている。冒険者ギルドはその中でもより一層大きな建物だった。
建物の側面に二本の旗が掲げられている。一本は白を基調として、三日月と太陽が描かれたこの国の旗。もう一本は青を基調として、剣と盾が描かれた冒険者ギルドの旗。
二つの旗は、冒険者ギルドが国と民間の共同体制で経営されていることを意味している。
扉を開け、冒険者ギルドに足を踏み入れる。
騒がしさが身を――包まなかった。
事務的な声や交渉の声が断続的に聞こえるだけで、颯真の思い描いていた冒険者ギルドの様相とは少し差があった。
冒険者ギルドの中といえば、屈強そうな男たちが豪快にたむろしているというイメージかあったのだが、現実はそうではないらしい。
ギルド内部には四角形のテーブルと長椅子のセットが複数設置されている。おそらく依頼受付の順番待ちとか、誰かとの待ち合わせとか、あるいは地図を広げて打ち合わせなどに使っているのだろう。
アリスに連れられ、適当な長椅子に隣り合って座る。
周囲には、日の出からすぐに今日の依頼――もとい生活費を稼ごうとした冒険者が十五人以上いた。服装は様々で、武器などをまったく持っていない軽装の人から、大きな剣を背負った革鎧の人までいた。
室内は右奥に赤色の受付、中央奥に青色の受付、左奥に緑色の受付があった。各ブースは二つずつあり、窓口のカウンターに各色のテーブルクロスが使われている。そして受付の女性の服装にも、各ブースの識別色が使われていた。
「右の赤の冒険者受付で依頼を受けたり、達成の報告をする。真ん中の青の会計で報酬の受け取りをする。左の緑の依頼者受付は、文字通り依頼者の依頼を受け付けるところよ」
「なるほど」
「んで」
アリスが室内の左側を指で示す。室内の左側には別の部屋に繋がる扉が二つあった。
「右の扉は、よく知らないけど倉庫に続いてるらしいわ。左の扉は書室に繋がっていて、いろいろな情報の本を見ることができるわ。魔物の情報とか植物の情報とか、いろいろ見ることができる。情報は冒険者にとって重要だから」
どんな世界であれ、情報というものの重要性に変わりはないらしい。