物件探し4 お部屋チェック
これが……それなのか?
「二番目の買い主の女性の血?」
アリスも同じ疑問を持ったようだった。
「血って、落ちないものなのか?」
「このくらい乾いて黒くなっちゃうと、水拭きしてもなかなか落ちないと思う」
「なら、この状態で次の買い主も暮らし続けたってことか?」
「そうじゃない?」
「こんな血痕、嫌だと思うんだけど」
「なんか上に敷くとか、方法はあるでしょ」
「あ、そうか」
話しているうちに緊張もなくなり、アリスと颯真はついに部屋に足を踏み入れた。とりあえず血痕の前まで移動する。
この部屋の広さは、人が二十人は入れるくらいあった。奥の壁に扉が二つ付いており、左奥には二階へ続く階段がある。
二人は最初に、二つあるうちの右側の扉へ向かった。扉を開けると、別の部屋に繋がっている。その部屋は長方形をしており、入ってきた広い部屋の三分の一もない空間だった。
「ここはキッチンね」
とアリスが言った。
「キッチンか」
「火と水の装置もあるし」
「火と水の装置?」
颯真が首を傾げると、アリスは「あれ」と言って壁際のあるものを指差した。
それは、率直に言うとシンクとコンロに近いものだった。色もシルバーでいかにもそれっぽい。
「料理に使うのか?」
「そうよ」
完全にシンクとコンロだった。
この部屋には、先ほど入ってきた扉の対角線の位置に、別の扉がある。二人はその扉に歩み寄った。
薄いツマミを回し、回転式の鍵を内側から開ける。続けて扉を開けた。ここは勝手口らしく、扉の先は裏通りに通じていた。
二人は台所を抜け、広い居間に戻る。次は、入り口から向かって左の扉を開けてみた。
二畳くらいの狭い部屋だった。平べったいオフホワイトの陶器のようなものが、床に半分埋め込まれている。前方には鉄製のレバーがあり、右奥の壁には黒い箱のようなものががある。
完全に和式のトイレだった。
「これはトイレだろ?」
「えっ、正解。なんで分かったの?」
「俺の世界でもこんな感じだし」
「へー、そうなんだ」
まあ、今は洋式が主流だけどね。
トイレを出る。階段を上り、二階へ。二階は区切りのない一つの空間だった。一階の総面積の七から八割くらいの空間が、そのまま一つの部屋となっている。
「広いわね」
家具や調度品が一つもないため、余計に広く感じる。
階段を降り、一階へ。一通り見て回った。
なんとなく血痕の前に立つ。颯真はふと思ったことを口にする。
「これさ、なんで新しくしないんだろうな?」
「ん? 新しくって?」
「家を買えるくらいならさ、血の付いた部分くらいも取り替えて新しくできるだろ?」
「確かに。……あれじゃない? 大事な証拠だから弄っちゃいけないとか」
「あー、理由としてはありえる」
アリスと颯真は家の中を見回した。今のところ何か起きる気配はない。
不可解な現象の謎を解明しなくては、この家は手に入らない。解明の糸口として、何か起こることを家を回りながら待っていたのだが、そう都合よくはいかないようだ。
「何か起きてくれないかしら」
そう言って、アリスが血痕の端に沿ってグルグル歩く。
「意識を失う、人格が変わるって、どういうことなのかしらね?」
「憑依でもされたとか」
「何に?」
「二番目の買い主の霊」
「そんなまさ、か……」
アリスの無駄なグルグル歩きが突如として止まる。
「あ、れ? 何か、おか……しい、わ…………」
アリスの目が大きく開かれる。崩れるように両膝をつき、次の瞬間――。
――バタリと、うつ伏せに倒れ込んだ。
「アリス!?」
颯真が声を掛けるが、返事はない。
ついに何かが起こった。起きてしまった。起きることを待ってはいたが、実際に起こると焦りが止まらない。颯真はアリスに駆け寄った。