冒険者ギルド3 観察
室内にいる冒険者がどんなふうに動くのか、しばらく観察してみた。
一人でさっさと冒険者受付に行く人。仲間を待って集団で冒険者受付に行く人。様々な人がいるが、二つしかない受付に対してそれなりの数の受付希望者がいた。すでに順番待ちの列ができている。
そして続々と、他の冒険者もギルドにやってきていた。これからさらに冒険者が増える時間帯となるとすると、冒険者受付はかなりの混雑が起きる気がした。
その中でも特に順番待ちの原因となっていたのが、三人もしくは四人のチームで受付をしている人たちである。明確なリーダーがいないためなのか、依頼内容を比較して各々が自分の意見を言っているため、決定にかかる時間が長い。また、たとえ一人でも、依頼内容を入念に比較する場合は、それなりの時間を要しているようである。
颯真はふと気になったことをアリスに訊いた。
「冒険者のランク付けとかってあるのか?」
「あるわよ。一番下がウッド、それからアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、一番上がダイアモンド」
「依頼によっては、ランクでの制限とかあったりするのか?」
「ある。ブロンズ以上が対象とか。例えば、凶悪な魔物の討伐とかね」
その辺りの概念はきちんとあるらしい。ビギナーに困難な依頼を与えても、失敗する可能性の方が高い。それが魔物の討伐であれば、最悪死人が出てもおかしくない。仲介業――マッチングビジネスとして、ミスマッチは最大限避けなければならない。
「あ、依頼者っぽい人が来たわよ」
アリスのその声で、颯真は入り口を見た。
冒険者ではなさそうな服装の人が入り口に立っていた。長いスカートに薄い上着の女性である。
女性は辺りを見回す。それから緑の依頼者受付へ歩いていった。一瞬見えた顔が、どうにも居心地が悪そうな顔に見えた。
女性は依頼者受付で受付員と話を始めた。さすがにここからでは話の内容までは分からない。次に、女性は懐から布袋を取り出すと、それをカウンターの上に置いた。受付員が袋を開ける。中から取り出されたのは銀貨だった。
颯真は依頼者女性を観察しながら、アリスに訊いた。
「なぁ、アリス。依頼の発生から完了までの流れを教えてくれないか? もちろん、知ってる範囲でいいんだが」
「えーっと、まず、依頼者が依頼者受付に行くでしょ。依頼の簡単な内容を話して、それと同時にその依頼の報酬を出す。そうすると、受付の人が依頼を書面化し始める。それから、さらに詳細な依頼内容をやりとりして、晴れて依頼書ができあがる。依頼書ができると、受注証明書と達成証明書が作られて、達成証明書面は依頼者に渡されるわ。依頼の発生はここまで」
一息ついてからアリスは話を再開。
「んで、依頼書と受注証明書は冒険者受付に引き渡される。依頼書を見て依頼を受けると、その冒険者には受注証明書が渡されるわ。冒険者は依頼をこなして、依頼の達成を依頼者に報告。依頼者はちゃんと依頼が遂行されたかを確認して、確認できたら達成証明書を冒険者に渡す。冒険者は冒険者受付に受注証明書と達成証明書を渡して、依頼の完了を報告する。冒険者受付で完了の証明印を二つの証明書に押してもらって、それを青の会計に持っていく。そしてそこで報酬が支払われると、依頼は晴れて終了となる。以上!」
「なるほど」
意外にもしっかりとしたシステムになっていた。簡単ではあるが、不正防止の仕組みも組み込まれている。まあ、天下の冒険者ギルドがそんな酷い業務体制なわけがないのだが。
しばらくして、観察していた女性に動きがあった。依頼発注が終わったのか、アリスの言っていた達成証明書らしきものを受け取っていた。その後、女性は出口に向かって歩き始めた。
「ちょっとアリスに頼みたいことがあるんだけど」
「何?」
「あの依頼者の女性に、冒険者ギルドで依頼をするにあたっての不満点を訊いてきてくれないか?」
「いいけど」
「外に出てから、話しやすい雰囲気になってから訊いてきてくれ。本音が訊きたい」
「分かった」
アリスに指示を与えると、依頼者女性がちょうど建物を出ていくところだった。
「俺はちょっと依頼者受付で訊きたいことがあるから、別行動な」
「了解」
アリスは出口に向かい、颯真は依頼者受付へ向かう。スーツ(ジャケットなし)の二人――この世界から見れば謎の服装の二人が動いたため、多少なりとも視線が集まる。
依頼者受付前に颯真が行く。かなり注目されているのが分かった。目の前にいる受付員の女性も、わずかに警戒しているのを感じる。
「あの、少しお聞きしたいんですけど……」
「なんでしょう」
「依頼を出す時って、どんな料金が発生しますか? 仲介料とか掛かりますか?」
「はい、掛かります。詳細をお話ししましょうか?」
「お願いします」
※以下の内容は現在すでに修正済みです。
颯真「いきなりなんだけど、やっぱり冒険者協会を冒険者ギルドに変えていい?」
アリス「ああん? 何で?」
颯真「思いつきで協会したけど、意味的には組合の方が正しいし、だったらギルドでいいかなって」
アリス「それも思いつき?」
颯真「思いつき」
アリス「小説をブラウザゲームのアップデートか何かと思ってない?」
颯真「それがネット小説の良いところだよね」
アリス「はいはい」
というわけで、冒険者協会は冒険者ギルドに名称変更していきます。
すでに公開した部分に関しても、随時修正します。