アントレプレナー1 主人公
アントレプレナー:主人公
『全ては誰かの仕事でできている』
アリス・ニパンカという少女は、それを格言としていた。
今いるこの古書店の、建物そのもの。内装にある本棚、ランプ、机、椅子。今手に取っている、リンゴ栽培に関する本。それから、自分が履いている靴。その他諸々。
挙げればキリがない。
それらを作ったのは、見知らぬ誰か。名前も知らぬ赤の他人。
それだけは間違いのない事実なのだ。
『全ては誰かの仕事でできている』
生産する農家。
流通させる商人。
販売する小売店。
料理する飲食店。
物を作って売るだけだはではない。
依頼を仲介するサービスを提供する冒険者ギルドもまた、仕事の一部である。
いつからだろう、自分で仕事を生み出したいと思うようになったのは。
アリスは自分だけの仕事をしたいと思っていた。それは小売店でも、サービスでも、なんでも構わなかった。自分で動かす、意思決定するという部分が重要だったのだ。
どんな仕事であれ、始めるのにはお金がいる。食費を切り詰め、衣類費を抑え、住居費を安くした。とりあえず、三年掛かって3000ゼニを貯めた。
だが、現実は甘くはなかった。
これまで行動する意思があっても、素人がおいそれと参入できるほど、世界中の仕事は甘くはない。
もっと自分に知識があれば。
そう思わずにはいられなかった。
だから、これは奇跡だったのだろうか。
次に偶然手にした本が、召喚の魔術書だったのは――。
◇◇◇
『始めることが一番難しい』
中野颯真という若者は、それを格言としていた。
社会人になって二年が過ぎた春。
地方のソフトウェア会社に大卒で入社し、今年で三年目。仕事にも慣れ、上司に怒られることもなく、日々を粛々と過ごしていた。
いつか自分の会社を持ちたい。
そう思うようになったのは、いつからだったか。確か、高校生の時、たまたま見つけた本の影響だったような記憶がある。
ベンチャー企業を紹介した本。決して目立つようなものではない本だ。
だが、強烈に惹かれるものがあった。
そこに書かれている人たちが、自分の仕事に誇りを持ち、楽しく仕事をしている様が、とても輝いて見えたのだ。
それ以降、起業、ベンチャー企業に興味を持った。起業、ビジネスモデル、経営戦略、その手の勉強をいろいろした。学ぶことは苦ではなく、むしろ楽しくもあった。
『始めることが一番難しい』
だが、何もかもを捨ててまで、起業を選択することは今までできなかった。
今の生活、親の気持ち、そして自分自身の不安。それらの要素が行く手を阻むのだった。
それだけではない。商品を開発する技術も、新しいサービスのアイデアも、持っているものは何一つなかった。
いや、言い訳か。
自分に技術がなければ技術がある人を雇えばいいだけ。サービスのアイデアがないのは、必死に考えていないから。既存のサービスだったとしても、付加価値や強みを変えていけばいくらでもチャンスはある。
実際のところ、行動できなかっただけなのだ。
もちろん現実はそう甘くはない。しかし、悲観するほど辛くもないのだ。
だから意外にも、行動してみればなんとかなるのかもしれない。
もしそうなら、これは運命だったのだろうか。
自宅に帰り、ベッドに転がろうとしたら、召喚の魔法陣が発生したのは――。
少しでも起業とかビジネスに興味を持ってもらえる作品にする予定です。
頑張ります。