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 風を切る音は、男の放った刃ではなかった。

 音の正体は男の胴にあった。

 その腹部から剣が突き出ている。

 誰かが剣を飛ばしたのだ。

 風切り音の正体は、この剣だろう。


 男は驚愕の表情で自分の腹部を見ていた。

 「うっ、が······!」

 男は呻き声を洩らして、ゆっくりと後ろに倒れこんだ。


 「何だ? 何が起こった!?」

 屈強そうな男は、事態を呑み込めず叫ぶ。

 「上です! 館の天辺にいます!」

 もう一人の男が、指で指し示す。


 指し示した先にはローシェがいた。

 腰まである黒髪はなびき、赤い瞳は月明かりに照らされ、輝いている。

 「心配して、来て良かったわ」

 ローシェは微笑を浮かべた。

 「ローシェ······」

 フィアは、地べたに座り込んで相棒を見上げる。


 「さて、片付けないといけないわね」

 ローシェは、そう言うと右手をかざす。

 そして、「幾重となりて顕現し、我が敵を貫け。(つるぎ)投擲(とうてき)」と言葉を発した。

 

 すると複数の剣が宙に現れ、敵の裁司者目掛けて放たれる。

 敵二人は、防いだりかわしていく。

 だが、一人の男は次第に苦しい表情を見せていく。

 「くっ!」

 次の瞬間、男の胸部を剣が貫いた。

 血を吐き出しながら、剣に貫かれた勢いで倒れる。

 もう一人の屈強な男は、炎の手甲で剣を(さば)いて防ぎきった。


 「ふうん······中々やるのね。でも、一人で何が出来るのかしら」

 その時、館の中から敵の裁司者が出てくる。

 「いえ、一人ではないわね。仕方ない」

 ローシェは、地に向けて階段状になるように、剣を宙に顕現していく。

 その剣を踏み台にして颯爽と下りていき、地面に着地する。


 「フィア! いい加減立ち上がりなさい!」

 ローシェは、()えて厳しく叱咤する。

 「あなたが、何で悩んでいるのか知ってるわ。けど、これは任務よ! 失敗は何を意味するのか分かるわよね?」

 ローシェは、その先の言葉を伏せる。

 任務失敗は死を意味するということを。


 突如、敵の裁司者達が襲い掛かって来る。

 「顕現せよ」

 ローシェは、敏捷性と正確性が上がるエストックを顕現する。

 その剣を手に取り、敵の攻撃をかわしつつ喉元を貫く。

 敵の数は残り六人。


 「フィア! お願いだから立ち上がって!」

 ローシェは敵の攻撃をかわしていく。

 だが、横から急に屈強な男が突進してくる。

 ローシェは脇腹に衝撃を受け、吹っ飛ぶ。

 炎の手甲によって殴られたからだ。


 「うっ」

 ローシェは、脇腹を左手で押さえながら、ゆっくりと起き上がる。

 「私は生憎(あいにく)、まだ死ぬ訳にはいかないの。······周囲に、私の力だって認めてもらうまでは」

 ローシェは右手をかざす。

 「顕現せよ」


 ローシェの手に、筋力が上がるツヴァイハンダーが出現する。

 その剣を両手で持つと、屈強な男目掛け突っ込んでいく。

 だが、敵の裁司者達が進行方向に立ちはだかる。

 ローシェは、邪魔な裁司者達を斬り伏せていく。

 両手剣を左に振って一人、右に振って二人。

 残り三人。


 ローシェはそのまま突き進み、屈強な男に向けて剣を振る。

 男は、その剣を前に転がることでかわし、続けざまに足払いをかます。

 「なっ!?」

 ローシェは、地に倒れる。

 屈強な男はその上にまたがり、炎を纏った拳を後ろに引く。

 「何か言い残すことはあるか?」


 ローシェは腹を決めた表情をした。

 「フィア! 伝えたいことがあるの。······施設でフィアと出会ってから数年後に、私が悩んでいた時があったわよね? あなたは覚えてないかもしれないけど、私はフィアの言葉で救われたのよ······。感謝してもしきれないわ」


 その言葉にフィアは答えない。

 だが、微かにぴくっと動いた。


 「それで終わりか? もう言うことがないなら、死んでもらおう」

 屈強な男は、拳に力を入れる。


 フィアは俯きながら、思いを()せていた。

 私のせいで不仲になってしまい、別れることになった両親。

 私が暗殺部隊シュヴァルツの目に止まらなければ······。

 育成施設に預けることを巡って、両親が喧嘩することもなかったのに······。

 七歳の頃育成施設に入り、ローシェと出会ってから半年後位だったかな。

 私は、会いたい家族を思い浮かべ泣いていた。

 でも、会えない。

 家庭を壊した張本人だから。

 その時ローシェは言ってくれたんだよ?


 「あんた、泣くときもうるさいのね」

 いつものように毒を吐いて、その後は······。

 「そもそも、家族全員がフィアに対して、良くない感情を持ってるわけじゃないでしょ。聞いた話によると、お母さんは味方なわけだし」

 最後にローシェは照れつつ、「それに······あんたが元気ないと調子狂うでしょ」と励ましてくれた。


 (だから、救われたのはローシェだけじゃないんだよ。私もなんだよ? それに先に救ってくれたのは、ローシェだから······。私は、恩を返しただけだよ?)

 気付けば、自身の頬を伝っている何かに、フィアは右手で触れる。

 それは、目から(あふ)れ出る(しずく)だった。

 (涙······)




 「終わりだ! 死ぬがいい!」

 屈強な男はローシェ目掛けて、炎を纏った拳を振り下ろしていく。

 その時、男は後方に吹っ飛んだ。

 足が飛んで来たからだ。

 いや正確には、フィアが飛び蹴りを食らわしたのだ。

 「ローシェに手を出すな!」


 ローシェは手を突いて立ち上がる。

 「フィア、ようやく目を覚ましたのね」

 その表情は、どこか嬉しそうだ。

 「······ローシェ、迷惑かけたね。もう大丈夫だから」

 「本当、迷惑だったわよ?」

 「ひどい!」

 「冗談よ」

 ローシェはそう言って微笑んだ。


 突如、和やかな雰囲気を壊すかのように、声が響く。    

 「これで倒されると思わないことだな」

 屈強な男は起き上がる。

 「来たれ!」

 男はそう言うと、両拳に炎を纏う。

 「裁司軍ヴァイス、元中隊長を舐めないことだ」


 「さて。フィア、いくわよ!」

 「うん、分かったよ! ローシェ!」

 二人は臨戦態勢に入った。 





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