三
休んで数分が経った頃、突如足音が響く。
その足音は複数ある。
二人は、音のする入口に顔を向けた。
すると、ローシェは冷たい目付きへ変わる。
フィアは逆に、弱々しいまでに顔を俯かせる。
入口にいたのは、白の上着を羽織り、白のシャツに黒ネクタイ、下はグレーのズボンと黒のベルト、黒のショートブーツを身に付けた連中だ。
そして左胸には一様に、下に天秤、上に一本の剣といった紋章がある。
その胸の紋章は、裁司者であることを示している。
一人の男が進み出る。
「おい! ここは俺達、裁司軍ヴァイスが使う! シュヴァルツの奴らは出てけ!」
艶やかな明るい茶髪の男性は、ポケットに手を入れながら、強く言い放つ。
「あら、随分な物言いね。アノマール。ここは、私達暗殺部隊シュヴァルツの訓練場なんだから、出ていく必要はないわ」
ローシェは、女豹のような目元をきつくし、相手を睨む。
「あいにく、空いてるヴァイスの訓練場がなくてな。出ていって貰わないと困るんだ。それとも裁司者同士、闘いで決着をつけるか? アイスハイト」
アノマールも、琥珀色をした切れ長の目で睨み返す。
「望むところよ」
「ふんっ、英雄と同じ力を持ってるからっていい気になるなよ?」
「あんた殺されたいの?」
ローシェの態度が急に変わる。
先程とは違い、殺気を感じる位凄みがある。
ローシェは右手をかざす。
「ちょっと待って! ローシェ!」
フィアは、ローシェの前を塞いで止める。
「なんだ。お前もいたのか、フィア」
アノマールは、嫌悪するかのようにフィアを見る。
フィアが相手に向き直ると、その口から「フランツ兄さん······」と言葉が発せられた。
「兄さん等と呼ぶな。虫酸が走る」
フランツは、嫌悪と怒りをあらわにしている。
「······」
フィアは、その言葉を聞いて押し黙る。
「アノマール! あんた!」
ローシェは右手をかざして裁きの力を使おうとする。
「そこまでですわ!」
突然響いた声は、ローシェを制止する。
その気品を感じさせる声の主は、外見も同様だった。
波打った金髪の右側面を結わいており、前髪は左に分けている。
瞳は宝石のように透明な青。
耳には、黒い十字架のイヤリングを付けている。
服装は白の上着、左胸には裁司者を示す紋章がある。
中に着ているのは、上下一繋がりのタイトなミニスカートで、紫色の三本のラインが縦に走っている。
足元には、膝丈程まである黒いブーツを着用している。
その容姿を見たローシェは、「げっ、あんた」と言葉を洩らした。
「止めるな、セリス」
「そうはいきませんわ、フランツ。私、中隊長としていさかいを見過ごせません。やると言うのなら、上に報告しますわよ?」
「ちっ、分かったよ。」
フランツは、ローシェに対して背を向ける。
その場を去る際、「いい気になるなよ。七光りのセリス、それに英雄もどきのアイスハイト」と微かな声で呟いていった。
「ふう、さて。ローシェ・アイスハイト! また会いましたわね!」
セリスは右手で指差す。
「私は会いたくないけどね、ファイスニッド」
「くっ!」
セリスは精神的に、打撃を食らったようで言葉に詰まる。
数秒後、セリスは唐突に口を開く。
「私、負けませんからね! セリス・K・ファイスニッドの名に誓って! それでは、また会いましょう」
そう言いきると去っていった。
「なんなの? 一体······」
ローシェは疲れた表情をあらわにした。




