十六
「それじゃ、始めないとね」
ローシェは三人が散っていったのを見ると、そう言いつつ右手を前へかざす。
「顕現せしは、封じの剣」
ローシェがそう言葉を発すると、頭上高くに四本の巨剣が現れていく。
「あれは巨大な剣か?」
男は、遠くに現れた四本の巨剣を見てそう言うと、思案する。
暫くすると、「大型の異形よ、あの巨剣を顕現した裁司者を殺すのだ! 行け!」と命じた。
巨大なゴリラの異形は、命じられるままにローシェへ向かって進みだす。
「そうはさせないよ!」
フィアは、雷状のハルバートから雷槍を迸らせた。
ゴリラの異形は、手で軽く払う。
「そんな!?」
次にゴリラの異形は、フィア目掛けて拳を振るった。
フィアは、横へ跳んで拳をかわす。
「こんな強い異形、どうすれば······」
フィアは呟いた後、後方上空から風を感じた。
仰いで見れば、フランツの力が顕現した嵐の戦車が存在していた。
上半身は人、下半身は馬の、嵐の戦車はゴリラの異形へ向かって駆け下りていく。
「今だ! セリス!」
フランツはセリスを促す。
セリスは右手を前へかざしながら、「切り裂かれなさい!」と刃の生えた巨大な盾を放つ。
まず先に、嵐の戦車が命中しゴリラの異形を刻んでいく。
その後に、刃の盾が異形を切り裂こうと間近に迫る。
だがゴリラの異形は、嵐の戦車に刻まれながらも、刃の盾を両手で挟んで受け止めた。
次第に、嵐の戦車の風が弱まっていき、消滅していく。
ゴリラの異形は、刃の盾を横に放り投げる。
その様子を見て、フランツとセリスは驚いた。
何せ、二人の最大の攻撃を、同時にぶつけて駄目なのだから。
だが一番驚愕していたのは、異形の近くにいたフィアだった。
「あれだけの力を全て受けきるなんて······」
フィアは諦めそうになる。
「だけど、時間さえ稼げばローシェが······」
フィアは振り返って、自分の兄フランツを見つめる。
「あいつ······」
(仕方ないな。あいつの援護をするか)
フランツは、フィアの意図を汲み取ったようで、再び力を使おうとする。
右手を前へかざしながら、「荒ぶる自然よ、力を貸したまえ! 風の刃!」と言葉を発し、無数の風の刃を放っていく。
風の刃は、異形の顔面に命中する。
その攻撃が、目眩ましになったのを見たフィアは、異形の目に狙いを定め、雷状のハルバートを放り投げた。
ハルバートは異形の右目に突き刺さる。
その瞬間、ハルバートから電流が迸り、異形の身体へと流れていく。
「よし! でも、まだ倒れないんだろうな」
(それでも、右目に傷は負わせられたはず)
電流が止まり、するとゴリラの異形は、咆哮を上げる。
右目に傷を負ったためだろう。
ゴリラの異形は、フィアを脚で踏み潰そうとする。
フィアは横に転がって回避して、起きざまに力を使おうと右手をかざした。
「雷よ、我が敵を一掃せよ! 飛雷!」
すると、無数の雷の斧の刃が宙に現れて、異形へ向かっていく。
ゴリラの異形は、一部の雷の斧は手で防ぐが、残りは胴や顔面に受けてしまう。
勿論、大した傷を負ってはいないのだが。
フィアは、遥か後方にいるローシェを見る。
どこまで、準備が出来ているか気になったのだろう。
ローシェは今、二段階目の詠唱に入っていた。
「裁くは、断罪の剣」
ローシェがそう唱えると、上空に同じく巨剣が顕現していく。
(あと少し······)
ローシェは微かに汗をかいていた。
ゴリラの異形は、両の拳をフィア目掛けて振り下ろしていく。
その攻撃を、フィアはぎりぎりでかわしていった。
セリスとフランツは、この隙を見逃さず力を使おうと右手を前へかざす。
「我が盾、顕現せよ! 転ぜよ!」
「荒ぶる自然よ、力を貸したまえ! 風の刃!」
二人がそう唱えると、刃の生えた盾と風の刃が無数現れ、異形目掛けて放たれていく。
刃の盾と風の刃は、異形の左脚に命中し集中的に刻む。
すると、左脚に効いたらしく、異形は身体のバランスを崩して倒れ込んだ。
すかさずフィアが、跳ぶと同時にハルバートを振り上げる。
後は、落ちる勢いを利用してハルバートを振り下ろしていく。
その時だった。
異形の手がフィアを掴んだ。
「なっ!?」
ゴリラの異形は、フィアを掴んだまま立ち上がる。
そして力一杯に、フィアを地面に叩き付けようとする。
刹那、声が響く。
「汝を剣でもって封じ!」
ローシェがそう唱えると、四本の巨剣が大型の異形目掛け向かっていく。
四本の巨剣はそれぞれ、異形の両腕、両脚に突き刺さる。
すると、ゴリラの異形は動きを止めた。
どうやら、今の四本の巨剣には動きを封じる効果があるらしい。
フィアはこの隙に、異形の手をすり抜けて地面に着地する。
「私のフィアを殺そうとした罪は重いわよ」
ローシェは怒りを顕にすると、詠唱の続きを再開する。
「その罪を、剣で断たん!」
そう唱え終えると、上空に待機していた一本の巨剣は、ゴリラの異形目掛けて降り注ぐ。
そして、胸部を貫いた。
ゴリラの異形は、地響きを立てて後方に倒れ込んでいく。
異形が倒れた後も、皆暫くの間、様子を見ていた。
だが、異形が一向に起き上がらないのを見ると、裁司兵達が歓声を上げる。
フィア、セリス、フランツはローシェの元へ集まっていく。
「やりましたわね」
「やったね、ローシェ!」
セリスとフィアに、声を掛けられたところでローシェは安堵する。
戦いは終わったのだと。
すると、立ち眩みを覚える。
ローシェは地面に倒れ込んだ。
フィアは、ローシェが倒れたのを見て驚愕する。
「ローシェ!? 大丈夫!? すごい汗······!」
「一度倒れたのに、また無理をするからですわ。至急運ばせますわ」
ローシェは、薄れゆく意識の中、フィアの心配そうな表情を目にした。




