十四
フィアは、裁司軍ヴァイスの戦いぶりを遠目に見ていた。
(すごい······あれがヴァイスの実力······)
感心していると、ローシェの唸り声が聞こえ出す。
「ローシェ? ······どうしたの?」
フィアは、心配のあまり呼び掛ける。
だが、返事はない。
彼女、ローシェは今、夢を見ていた。
とある都市の開けた広場で、人だかりが出来ていた。
人だかりの中心には、一人の五才位の小女がいる。
肩まである黒髪に赤色の瞳。
小女は、周りの人に披露するように、剣を宙に顕現する。
次に、十数メートル先にある丸太目掛けて、剣を放つ。
剣は丸太に命中し、周囲の人達は拍手で称えた。
だが、まだ終わらなかった。
小女はさらに、一八〇センチ位の両手剣を顕現して手にする。
なぜ、こんな小女が自分の身の丈以上もある剣を、持っていられるか不思議だ。
それは、この両手剣には不思議な力があるからに他ならない。
その不思議な力は、剣を持つ者の筋力を上げるからだ。
小女は丸太へ向かって、駆け出す。
そして、距離がある程度詰まると上へ跳んだ。
あとは、下に落ちる勢いを利用して両手剣を振り下ろす。
すると両手剣は、丸太を真っ二つに切断した。
さらに周囲の人達から、拍手が沸き起こる。
「凄い! 流石、英雄と同じ力を持つ子だ!」
だが、小女の表情はどこか優れない。
その時、二人の男女が小女に近付いてきた。
小女は、表情を明るくする。
「お母さん、お父さん! 見てくれた?」
どうやら、小女の両親らしい。
「見たわよ、ローちゃん。流石、英雄と同じ力を持つ私の娘ね」
母親は、娘の頭を撫でる。
そこで、小女の表情が優れなくなってきた。
「そうだな。英雄と同じ力を持つなんて、父さんは鼻が高いぞ。ローシェ」
父親はそう言って、娘を抱える。
さらに、小女の表情が優れなくなる。
(どうして······。わたしの力なのに······どうして。英雄と同じ力、なんて言うの······? お父さんもお母さんもみんなも、なんでそれしか見てくれないの? わたしの力なのに······!)
小女がそう思うと、唐突に場面が変わる。
周囲には木々があり、目の前には川が流れていた。
九才位の小女は一人で、その場に佇んでいる。
浮かない表情で。
三十分もそうしていると、木の枝を踏む音がした。
小女は、音のした方を見る。
そこには、見知った顔がいた。
暗殺者育成施設で一緒のフィア・オーヴァルだ。
フィアが何を言おうか思案していると、先に小女が口を開く。
「そんな所にいないで、こっちに来たら?」
「うん······」
フィアは、小女の隣に行くとゆっくりと言葉を発する。
「あのさ······ローシェ。何かあった?」
「何もないわよ······」
「嘘だよね? さっき、様子が変だった。いつもなら、わたしが勝負を挑むと受けるくせに······さっきは、無視した」
「たまには、そんなこともあるわ」
小女は軽くあしらった。
フィアはそれでも、さらに追及する。
「たまにはあるかもしれないけど、やっぱり様子が変だよ。何かあるなら話してよ。力になれるかもしれないし」
「何もないって言ってるでしょ」
小女はそう答えるが、フィアは譲る気がないのか、強い眼差しで見詰める。
暫くそうしていると、小女は息を吐き口を開く。
「フィア、あんたはわたしのこと、どう思う?」
「どうって······性格悪いよね。あと、ローシェはライバルかな」
フィアは、微笑みを浮かべ答えた。
「そうじゃなくて······わたしの裁きの力については?」
「ローシェの裁きの力? うーんと······強いよね。でも、今度こそ勝つんだから!」
フィアのその返答に、小女は口をぽかんと開ける。
小女は数秒経って、ようやく言葉を発した。
「それだけ? 他にないの?」
「ううん、ないよ」
小女は思わず、ふふっと失笑する。
「どうしたの、ローシェ?」
フィアは、訳が分からず問う。
「何でもないわ。それよりありがとう」
「······?」
フィアはやっぱり訳が分からなかったが、ローシェが元気になったのを見て、まあいいよねと思った。
(なんか悩んでいたのが馬鹿みたい。まさか······わたしの力を英雄と同じ力としてじゃなく、ただ強い力と見てくれる人がいたなんて)
小女がそう思っていると、周りの木々や川、フィアの姿が薄らいでいく。
それらが完全に消える頃には、自分の後頭部に柔らかさと温かさを感じた。
ローシェが目を開けると、そこには心配そうにしているフィアの顔があった。
その時、柔らかさと温かさの正体が分かった。
フィアが膝枕をしてくれていたらしい。
(今までのは夢だったみたいね······)
「ローシェ、目が覚めたんだね! 体は大丈夫?」
「まだ、本調子ではないわね。それより、戦いはどうなったの?」




