九
「仕方ない。やるしかないようね。フィア!」
「うん!」
フィアは右手を前へかざす。
「雷よ!」
その言葉と共に、宙に斧の刃部分だけが複数現れる。
「我が敵を一掃せよ! 飛雷!」
雷の斧は、それぞれ回転しながら異形の群れに向かっていく。
そのまま、狼型の異形群に命中していった。
だが、倒れない。
微かな傷は、負っているようだが。
「無駄だ! この異形共は、普通のとは違い強化されているのだ! そして、儂の言うことにも従順じゃ。さあ、蹴散らせ!」
男は、ゴリラの大型異形が差し伸べた手の上に乗る。
他の異形達は、ローシェ達に襲い掛かっていく。
「フィア! 態勢を整えるわよ!」
ローシェは撤退していく。
「分かった!」
フィアも追随する。
二人は建物から出て、止めてある馬に近付く。
馬に乗ると急いで走らせた。
東に向けて。
背後では、大型の異形達が先導して、建物を壊し出てきた。
「ローシェ、どうするの!?」
「王都に行くわ! そこまで行けば、ヴァイスの援軍が期待できるから」
「分かった。そこまで行けば良いんだね。」
十数分後、異形達との距離が縮まっていた。
「やばいよ! ローシェ!」
「焦らないで、フィア。なんとかするわ。波打つ剣よ。熱き力と共に顕現せよ。フランベルジュ」
ローシェの手に、波打った両刃の剣が現れる。
「燃えなさい!」
その言葉通り、ローシェ達の後方に炎の壁が出来上がる。
だが異形達は、難なく炎の壁を突破していった。
「······なんとかならなかったわね」
「そんな!? 期待してたのに!」
「仕方ないじゃない」
「ローシェ、どうするの!? このままじゃ追い付かれるよ!」
フィアは後ろを一瞥する。
「やばっ!」
フィアは、思わず声が出てしまった。
会話している間に、後方の異形達が眼前にまで迫ってきているからだ。
狼の、大型異形の牙が二人に襲い掛かる。
「ローシェ! 後ろ!」
フィアは、攻撃が迫ってきているのを知らせた。
二人はなんとか、馬を斜めに走らせて回避する。
だが、攻撃はまだ終わらなかった。
さらに、狼の異形群がローシェ達の馬に群がり、噛み付いていく。
馬は、鳴き声を上げ暴れていき、横に倒れていった。
二人は咄嗟に、自ら背から落ちて受身を取り、転がっていく。
転がるのが止まると、二人はすぐさま起き上がる。
その起き上がりざまの隙を狙うかのように、フィア目掛けて蜂の大型異形が迫っていく。
「フィア!」
ローシェはエストックを顕現して、助けようと駆ける。
蜂の異形の方が速いので、間に合いそうにないが。
蜂の針がフィアに当たりそうな瞬間。
巨大な盾が現れた。
正確には、南西の方角から飛んできたのだ。
その盾は、蜂の針を防ぐ。
ローシェとフィアは、驚きの表情を浮かべる。
「間に合いましたわね!」
ローシェは、この声を聞いて誰か分かった。
この状況を、何とかしてくれた者が誰かを。
声のした方を見れば、右側面だけ髪を結った金髪の女性がいた。
上着は、裁司者を示す剣と天秤の紋章が入った物であり、裁司軍ヴァイスに所属している者だった。
そうセリス・K・ファイスニッドだ。
それと隣にはフランツ・アノマールがいた。
フィアの兄であり、同じ琥珀色の瞳を持っている。
彼もまた、セリスと同じ裁司軍ヴァイスに所属している。
「あんた達、何で······」
ローシェは呟く。
「そんなことより、目の前の異形を片しますわよ!」
セリスは右手を前へかざす。
「顕現せよ。我が盾」
すると、宙に巨大な盾が現れる。
「転ぜよ」
セリスがそう言うと、盾の端々に刃が生えた。
「倒してしまいなさい!」
刃の生えた盾は、水平になると蜂の大型異形目掛けて、進んでいく。
そのまま、大型の異形に命中。
身体を切り裂いていった。
「まず、一匹目ですわね」
「ふん! たかが一匹倒した位で勝った気かな?」
ゴリラの大型異形の手に乗った男は、薄笑いを浮かべる。
「これでもそんなことが言えるのかしら」
セリスは後方を見る。
後ろには二百数名の裁司兵達がいた。
「なっ! だがこちらも数はいる。さあ異形共、蹴散らしてしまえ!」
異形の群れが、セリス達に向かって前進していく。
「近接型の裁司者は前進なさい! 砲台型は後方で攻撃を、技巧型、バランス型は支援ですわ!」
「了解です! 中隊長!」
「了解であります! セリス中隊長!」
セリスの指示通りに、皆動いていく。
「私達もやるわよ、フィア!」
「うん、ローシェ!」
各々、戦いに臨む態勢に入っていった。




