2日目〜美しい少女〜
「…俺、寝ぼけてんのかな…」
何でこんなところで寝ていたのか。どうしてもわからない。ならば寝ぼけていると考えるのが普通だ。
「…ん?なんだこれ」
俺はいつから握りしめていたのか。手には小さい文字が連なっている、書類のようなものがあった。
夢が覚めるまではどうしようもないな。と思い、とりあえず俺はその書類を読んでみることにした。
「えーっと、『城田柊真様 宛。』…俺?
『ご注文の異世界をご用意しました。この世界では何をされるのもご自由です。』
ど…っうぞ、こんっのっ…せかっ…!」
俺は途中で読むのをやめた。いや、嬉しすぎてもう読めなかった。
あのサイト、本当だったのか…!
待った甲斐があった。だってやっと、やっと異世界に来れたんだ…!!
まぁまさかこんな形で書類が届くとは思わなかったが…だが念願の異世界暮らし。早く楽しまなきゃ損だ!!
俺は書類をぐしゃぐしゃとポケットに突っ込み、背筋をのばしてたちあがった。
のだが、目の前が暗くなる。影だ。俺の後に誰かが居る。
どうせこんな草原の中じゃ方角もわからないし、丁度良かった。街への道のりを聞く事にしよう。
うん、第一印象は笑顔だ。笑顔で話しかけられて嫌がる人なんて居ないはずだ。
俺はありったけの勇気を精一杯振り絞り、好印象な少年の振る舞いを見せた。
「すみません!街へはどうやっ…て…」
俺は言葉を失った。これは話しかける相手を間違えた。
いや、勘違いしないように言うと別に美人なお姉さんだったから緊張してそうなのではない。美人なお姉さんだったら嬉し半分恐ろしさ半分で緊張するのだろう。
でも俺には嬉し半分が全く無い。だって俺が話しかけていたのは_
「ガァ…グゥウウウ…」
いかにも強そうな、モンスターだったからだ。
「…え?俺まだこの世界来たばっかだよな?初めてのバトルでこんな強そうな…え?」
サァーっと血の気が引いていくのがわかった。
そして焦りながらも、なんとかこの状況に対応しようともがく。
「あっコマンドの入力ってどうするんだ!?俺の操作する機械はねぇし…」
ゲームみたいな異世界で戦うのは簡単だと。そう思っていた。
テレビに繋いだゲーム機や、小型ゲーム機のように、コマンドなどを入力したら簡単に戦えると。
「…いや、待てよ。俺がこの異世界に来ているという事は、俺が操作される側のキャラクターに回ったようなもんだ。」
コマンドを入力するように、簡単に戦えるという俺の考えは大きく違った。的外れな考えだった。
ここは異世界。俺の他に俺を操作する人は居ない。
自分で自分を動かす…つまり異世界に来たと言っても、実際は現実世界で戦うのと同じように戦えと。
にわかに信じたくない話だが…もしかしてもしかすると。そういうことなのだろうか。
「…平凡な男子高校生だった俺が、戦える強さって…
もしかしてこの世界だと最弱レベルじゃね?」
俺が冷や汗を流しながら言い終わると同時にモンスターは襲いかかってきた。
「グゥオオオオ!」
「やべっ!」
今のはなんとかギリギリ避けれたが、このままモンスターの攻撃を回避していくのには無理がある…
ずっと回避し続ける体力も速さも、自分にあるとは思えない。
…やはりどうにかしてコイツを倒さなきゃならないってことか!?
「え、えっと…っ!ブリザガ!メテオ!」
攻撃方法なんて、現時点では何も思いつかないので、とりあえずありそうな魔法の名前を叫んでみる。
モンスターはこちらに近づく。何も起こらない。モンスターはこちらに近づく。何も起こらない。モンスターはこちらに近づく。何も起こ
「ちくしょう魔法使えねぇのかよ!!」
掌を前に突き出して力込めてた俺が恥ずかしかったわ!!モンスターとなんとか一定の距離を確保しつつ、思わず大声で叫んでしまう。
しかし魔法が使えないとなると…同じく叫んだとしてもスキルは使えそうにないか。正直、俺は俺の事を高レベルの魔法が使えるチートキャラだと信じていたのが。
「…いや、チートじゃないと諦めるのはまだ早い!!」
俺は魔法は無理でも物理攻撃分野でのチート可能性がある!
今の俺はダガーすら持ってないし。ということは、もしかしたらモンクや武闘家系で、才能や力を発揮できるんじゃないか!?
俺は距離をとっていたモンスターに対し、今度は振り返って睨む。
もうひとつの可能性が見えてきた…!
「よし、こうなったら早速行くぜ…!っうおおおおおおおおお!!」
走る。モンスターに向かって、躊躇わず。
そして拳が。最強の可能性のある拳が。ギュッと強く握りしめた拳が。
今、モンスターに向かって__!
ぽすん
「…んっ?」
あれ、もしかして…こんな音しちゃうってことはそれはつまり…
「…全然効いてない?」
ちらっとモンスターを見上げると、もう攻撃のための一手を取っているところだった。
やばい…あんなんまともに受ければ死ぬ!!
初めての強敵モンスター相手に、一つも装備無し。現実世界からそのまま引き継いだ自分の能力で、戦闘力が試される。そんな異世界。そんなの、って…
「…流石にこれは鬼畜仕様すぎないか?」
こんなぼやきが人生最期になるとは思わなかった。なんだこの最期は、最悪じゃないか。
異世界での最期は。チートな俺だったが、仲間のためを思って庇い「笑って…生きろよ…」なんてかっこいいセリフを言いながら目を閉じるのだと思っていた。
でも、そんな美しい最期はありそうにない。
「グルルル………ンガァァッッ!!」
モンスターがこちらに牙を向けて…あっ、もうダメだ。死ぬ。これ受けて絶対死ぬ。
モンスターとの距離はもうあと10cmもない。俺が来たかったのはこんな世界じゃない!と逃げ出すべく目を瞑る。
嗚呼、さようなら、お母さん。さようなら、お父さん。今まで親孝行らしい事をしてあげられずすみませんでした。僕がいなくても元気でやってください。そして最期に__
ガキィンッ!!
金属音。それは紛れもない金属音だった。
シュウウゥ…という、金属音が聞こえたその周りから、また別も音がする。おそらく金属とぶつかった衝撃が生んだ音。
あの硬そうなモンスターの牙に、そんな衝撃音が聞こえるって事は。互角かそれ以上の力があるって事だ。
それはつまり、かなり腕前のある人物が__「ねぇ」
「はっ、はいぃ!?」
思わず声がひっくり返る。
だって、今度は本当の美人だったから。
凛々しく吸い込まれそうな金色がかった瞳。モンスターを前にした真剣な表情。顔の横にかかる髪を後ろで束ね、後ろ髪はストレートに下ろしている。
「大丈夫だった?」
「あっ…はい!お、おれは大丈夫ですっ!」
美しいお姉さんと言うよりも、美しい少女が近いだろうか。思わず敬語で話しているが、外見からの年齢は俺と大差ないように思える。
勝手な推測をしているうちにも、少女の動きは素早い。斬れ味のありそうな剣をモンスターに向かって数発振るう。
あれだけ強そうだった。いや、実際俺の全力パンチで倒せなかったモンスターを数発で倒した。
俺は庇ってくれた時の事と考えても、予想が確信に変わった。
この女の子__やっぱかなり強い!!