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第48話 やっぱり許せねえ!

 炎の壁の向こうに、フォレストラ王国の王女様がいる。床にぺたんと座り込んで、放心したように(くう)を見つめてる。とっくの昔に逃げたと思ってたんだが、まだいたのかよ。

 四方を炎に囲まれてるにもかかわらず、姫さんは無傷だった。きれいな顔はすすで汚れちゃいるが、火傷一つ負ってねえ。森の神ガレッセオの加護があったのか、それとも運がよかっただけか。どっちにしても、とりあえず一安心だ。

 だが、俺が声をかけても返事がねえ。あの人、蛇髪女(ゴルゴン)の石化の眼差しでも受けたみてえに、その場で固まってやがる。


「おい姫さん、なにボーッとしてんだよ! シャキッとしねえと、()られちまうぞ!」


 もう一度、語気を強めて呼びかける。すると姫さんは、のろのろと顔を上げて、こっちに目を向けた。

 その目を見た瞬間、俺は悟る。何かを見てるようで実は何も映してねえ、虚ろな瞳。さっきまでの、我の強そうなつり目とは似ても似つかねえ。

 あれは……絶望に打ちひしがれた人間の目だ。


「……カリコー、どうして……」


 姫さんの口から漏れたのは、ついさっき、自分に反旗をひるがえした腹心の名前。あいつに裏切られたことが、よっぽど衝撃(ショック)だったみてえだ。

 痛々しくて見てらんねえ! なんとか元気づけようと、励ましの言葉をかけてみる。


「あんな奴に裏切られたくらいで、くよくよしてんじゃねえよ! 生きてここを出て、もっと信頼できる奴を見つけりゃいいじゃねえか!」

「あんな奴だとっ……!」


 姫さんが眉を上げ、俺をきっとにらみつける。


「お前にカリコーの何がわかるっ! 異国人(とつくにびと)のお前に、カリコーの、何がっ……!」


 途中から涙声になって、最後にゃぼろぼろと泣き崩れちまった。落ち込んでたかと思えば、突然怒って、いきなり泣いて……感情の起伏が激しい人だぜ。


「お、おい! こんなところで泣くなって!」


 姫さんに泣かれて、俺はとまどった。女の子と手をつないだこともねえ剣術馬鹿にゃ、こういうとき、どうしたらいいのかさっぱりだ。


「……我が国が今、混乱のただ中にあることは貴様も知っているだろう?」

「……え? ああ、そりゃまあ……」


 とりあえず、姫さんが何やら話し始めたんで、聞いてやることにした。幸い魔法使いはすっかり舞い上がってて、当分こっちを狙ってくる様子もねえし、今俺にできることって言えば、それくらいだしな。


「父上は重い病の身で、重臣たちは権力をめぐって争うばかり。国内では魔物どもが暴れ回り、国外からはサンドレオ帝国をはじめとする異国(とつくに)が、露骨に侵略の手を伸ばしてくる……」


 語りながら、姫さんは膝元に落ちてた狼皮の外套(マント)をつかんで、引き寄せた。


「神授の武器を手に入れれば、その力で異国(とつくに)の侵略を阻止できるし、魔物どもも一掃できる。神々も、私の努力を認めてくださると思っていたのに……!」


 姫さんの手が、狼の毛皮をぎゅっと握り締め、小刻みに震える。


「……カリコーは、私が信頼するただ一人の異国人(とつくにびと)だった! 三年前に我がフォレストラ王家の宮廷魔法使いとなって以来、陰に日向に私を支えてくれたっ! なのに……どうして?」


 この姫さん、親父とそっくりじゃねえか。親父もあの魔法使いにゃ全幅の信頼を置いてた。奴は頼りになる男だって、いつも言ってた。口癖みてえに、何度も何度も。自分とカリコー・ルカリコンを、伝説の英雄王とその宮廷魔法使いにでもなぞらえてたのかもしれねえ。

 だが、そこまで信頼した結果が、三年前のあの夜だ。そして今――あのときと同じことが、俺の目の前で起こってる。


「……あの野郎、やっぱり許せねえ!」


 俺の脳裏で、ある決意が固まった。これからどうするか、ようやく決心がついたんだ。


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