第23話 あっちは三つ首、こっちは三人
そこから先は、俺たちと三頭犬、双方一進一退の攻防が続いた。
俺の右手にはデュラム、左手にはサーラ。三人で肩を並べて、魔犬の三つ首に立ち向かう。俺たちが攻めれば三頭犬が退き、魔犬が押せばこっちが退いた。
単なる力比べなら、あっちに分があるだろう。だが、向こうは一匹、こっちは三人だ。力を合わせて戦えば、俺たちにも勝ち目はある!
三頭犬がサーラに噛みつこうとすりゃ、即座に俺の剣が閃いて、魔犬のこめかみを切り裂く。怒れる六つの瞳がこっちに向けられると、今度はデュラムの槍が一閃し、三頭犬の肩を抉った。さらに、サーラの杖が勢いよく振り下ろされて、魔犬の眉間を殴打する。
魔犬がひるんだところで、俺は肩を噛まれたお返しとばかりに、思いっきり剣を振り上げた。狙うは三つ首のうち、首領格らしい真ん中の首。のしかかられて、片手しか使えなかったときとは違う。今度は足を踏ん張り、両手を使って全力で――打ち下ろす!
鮮血が飛び散った。鋼の刃が骨まで食い込み、鈍い感触が刀身を伝わってくる。
一拍置いて、魔犬が絶叫した! 三つの頭をめちゃくちゃに振って、牙を盛んに噛み鳴らす。傷の痛みに我を忘れて、目の前のもんを手当たり次第に噛み砕こうとしてるようだ。
右の頭に、デュラムが危うく噛み裂かれそうになった。サーラも上から降ってきた左の頭に潰されかけ、真横に飛んでかろうじて避ける。かく言う俺も、真ん中の頭に跳ね飛ばされて、どすんと尻餅つく羽目に。
「いっててて……」
「ほらメリック、しっかりしなさいよ!」
サーラが駆けつけ、助け起こしてくれた。
「へっ、こんなときまで『弟分』の世話焼きかよ……いてっ!」
「生意気言ってないで、さっさと立つ!」
少し遅れてデュラムも駆けつけ、槍を構えて俺とサーラをかばった。それを見て、ますます猛り狂う三頭犬。
「まずい、怒らせちまったか?」
手負いの魔物ほど怖いもんはねえ。ましてやそれが、あんな大物となりゃなおさらだ。
「――下がってください。危ないですよ?」
背後から、誰かが声をかけてきた。これまた初めて聞く、若い男の声だ。
三人そろって振り返ると、いつからそこにいたのか、細身で色白の少年がこっちを見てた。
年は俺やサーラと同じか、一つ下くらいだろう。真ん中できちんと分けた、癖のねえ金髪。柔和で人懐っこそうな青金石の瞳にゃ、星明かりにも似た清かな輝きがある。女の子と見紛う甘い容貌や優しげな雰囲気に似合わず、身を包むのは夜の闇を思わせる濃紺の甲冑。そして、右手にゃさっきまでデュラムやサーラを縛ってた、魔法の縄が握られてるじゃねえか。
「あんた……さっきまで、あの女の後ろに立ってた奴か?」
俺が幾分警戒してたずねると、サーラが隣に来て、耳打ちした。
「多分、悪い人じゃないわ。魔法の縄を切って、あたしとデュラム君を助けてくれたもの」
「え……本当かよ?」
だとしたら、俺にとっても恩人ってことになるが。
甲冑の少年は、はにかみながらうなずいた。
「――はい。それから、父上と母さんには、ひとまず休戦してもらいました。だから、もう大丈夫です。すぐに決着がつきますから、それまで星でも眺めて、休んでてください」
父上と母さんって、そりゃ誰のことだ? そんな疑問を口に出す前に、俺たちの左右を二つの人影が駆け抜けた。




