第4話 エピローグ
誘拐事件から1年が過ぎ、マリーと呼ばれた少女は13歳になった。子供から大人へと差し掛かる過渡期に入り、背は少しだけ伸びて、体つきは少し女性らしくなる。
あどけない子供らしさが減り、大人びた美しさが楚々とした仕草に現れていた。
その日の朝、目を覚ました少女は顔を洗い、寝間着から部屋着に着替えた。綺麗だと言ってくれた少年の言葉を気にして、少しは女の子らしく見えるように、1年前から伸ばしている髪が、緩やかな縦ロールを描いて方から流れ落ちた。
寝室から出ると、既に扉の前に待機していた侍女が、挨拶と共に一礼する。
少女は挨拶を返しながら、家族の待つ部屋へ足を向けた。
「もうすぐ1年になりますね」と侍女は少女の背中に声をかける。辛い思い出になるはずの誘拐事件は、1人の悪役屋の手によって少女の中で消化された。
誘拐事件から、少女は少し変わった。前より一層真剣に勉学に励み、身を守るために運動も積極的にするようになった。
ある少年に言われたとおり、朝食時に新聞を読むことは習慣になっている。
ただ、たった1つの心残りは、あの日、王都から転落死したと思われている少年の消息がつかめないことだった。落下する直前、心配するなと言ってくれた彼を信じ、少女は彼が生きていることを信じている。
一番怖い時に、一番寄り添ってくれた彼の姿を少女は昨日のように思い出せた。淡く、温かい気持ちが今日も胸の中に息づいている。
侍女を後ろに従えて少女が廊下を歩む姿は凛々しく、強い意志を秘めた瞳は前を見据えていた。
部屋に入り両親と挨拶を交わす。朝食が運ばれてくるまでの間、少女は侍女が差し出した新聞に目を通した。
白く細い指が紙面をなぞり、政治面から社会面へと流れていく。
そして、少女の手が止まった。
「お嬢様?」と少女の様子を気に掛ける侍女の問いは耳に入らず、少女はその紙面を凝視する。
どこの酔狂な人間がやったのか、新聞の見開き1面を利用して、広告が掲載されていた。真っ白な紙面の中央に、短い一文がある。
少女はその1文を指でなぞった。
「親愛なるマリーへ――――ぎゃふん」
少女が満面の笑みを見せた。
「やっと、連絡が来た」と小さく少女は呟いた。たぶん、広告を載せるだけのお金がたまるまで時間が必要だったのだと思う。
翌日、新聞の見開き一面にまたも酔狂な広告が掲載された。
それは短い1文で、
「親愛なる怪盗さんへ――――ざまぁ」
作者としましては、この話は恋愛のジャンルだと思ってます。
この2人が再会する話がいつかかければいいな。