Two people in the rain‐――本当に大切なのは、なに?
霊域の森の番人である人狼・凍夜は、ある雨の日に行き倒れていた、余命幾ばくもない薄幸な少女・香音を助けた。
惹かれ合う2人……しかし、ある日香音に見合い話が。
果たして2人の恋は、実るのだろうか?
『維月シリーズ』の最新作!
鈍色の空から、銀の糸が降っている。
そんな天気は、悲しげに曇った空がこぼす、晩夏の雨。
香音は溜息混じりに、視線を、大理石のテーブルに堆く積まれた見合い写真に向けた。
父曰く、自分は柊家の一人娘……以前なら、病のせいで諦めていたが、全快した今ならば、早く婿を取らせるつもりらしい。
結局、抵抗はことごとく受け入れられなかった。
あたしは嫌なのに、他に、愛する人がいるのに……。
見知らぬ男の妻なんかに……なりたいわけがない!
凍夜‐―‐―。
居間の窓際に、頬杖をついていた香音は、窓の外に佇んでこちらを見あげる凍夜を見つけ、慌てて雨の中に走り出していった。
「凍夜っ、凍夜!」
「っ……香音」
香音は、雨が全身を叩くのも構わずに、きつく凍夜に抱きつく。
力強く、抱き返してくれる彼の胸に寄り添いながら、香音はそっと目を閉じた。
「会いに来てくれたの、初めてね? 嬉しいわっ」
「しばらく、顔出さなかったから……体壊したのかと思った。けど何ともないみたいだな、よかったよ」
「凍夜……」
このままでは‐―‐―‐彼との逢瀬も、今日が最後になってしまうかも知れない。
そんなのは嫌だ、絶対にあって欲しくない。
どうすれば……ずっと彼の傍にいられる?
彼の……凍夜の傍に、ずっといたい。
「凍夜、逃げて」
香音が静かに呟くと、びくりと凍夜が震えるのが分かった。
「いいのか? ホントに」
意味が分かったのか、驚いたアイスブルーの瞳がじっと香音を見つめる。
「……どうしてって、聞かないのね?」
俯いた香音を、さらにきつく抱き締めてから、凍夜は儚く微笑んだ。
「聞いて欲しいんだな」
凍夜は、こくりと頷いた彼女の頭を、優しく撫でてやる。
「お父様が、あたしにお見合いしろって、写真ばかり持ってくるの。そんなのごめんよっ、あたしは……凍夜が好きなのにっ」
「香音」
その時、香音の目が大きく見開かれた。
凍夜が、香音の唇を奪ったからだ。
「愛してる」
「……え?」
香音は、ややしばらく、状況が理解できていなかった。
「俺も嬉しい……香音、一緒になろう。必ず迎えに行く、だから待っててくれ」
香音は立っていられずに、ぺたんと座り込んでしまった。
雨の中を、走っていってしまった彼を見送る香音の頬は、夜目にも赤い。
「夢かしら、これ……ううん、それにしてはできすぎてるもの。でも嬉しいっ」
その後、ずぶ濡れで騒いでいるところを、用事から戻った父親に見つかって酷く叱られても、ちっとも悲しくなかった。
窓の外の雨は、いつの間にか止んでいた。
一方、霊域のすみかに戻った凍夜も、同じように騒いでいた。
「言っちまった、遂に言っちまったぁ! ホントに、香音が妻になるんだ〜〜っ」
霊域の森の最奥で、凍夜はぴょこぴょこと跳ね回る。
居候の、黒栗鼠に『やかましい!』と胡桃をぶつけられるまで、お祭り騒ぎは続いた。
幸せな未来がありそうな二人だが、その後に起きる悲しい事件を、まだ、知る由もなかった。
こんばんわ、維月です。
『Bear of love』新章です。
↑題名の意味は、「忍び恋」と言う意味ですね。
難しくて済みませんです。(>_<)
凍夜と香音、香音はともかくとして、凍夜!
クサいセリフを吐かせてしまいましたよ(汗)
こんな話ですが、読んでくださった読者様には感謝感謝です。
よろしければ、次回もご覧くださいませね。
それでは、失礼します。