表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

禁忌

霊域の森の番人である狼‐―‐彼はある雨の日に、行き倒れの少女を拾った。

彼女を助けたい。しかし、それは森の掟に反すること、霊域の森の番人である責務を忘れることだ。

彼は、葛藤を強いられる。

「なんで人間がここに……!? 結界が破られるなんて、まさか」

少女の傍を、大きな銀狼が決めかねるように、しきりにうろついていた。

「魔力や、呪力の類は感じられないが、さて……どうしたモンか」

(このまま、放っておくのもどうかと思う……ここであったのも、なにかの縁かもしれん。弔いくらいはしてやろう)

「女……まだ若いというのに、残念だったな」

鼻面をそっと押しつけてから、銀狼は一つ身震いをして、その形を変えた。

するすると、狼の姿が解けるようになり、一瞬後には銀髪の、しなやかで凛々しい青年が現れた。

彼は、ふと小さな息づかいを捉えて、少女の背を抱え起こす。

少女が、息を吹き返したのだ。

「生きてるんだな! よかった。どれ、ここでは寒かろう……場所を移らねば。ここに来た人間は、そなたが初めてだ、必ず助けてやる。だから、もう少しだけ頑張れ」

銀の髪の青年は、そっと少女を抱き締めた後、抱え直し、再び濃くたちこめ始めた霧の中に消えて行った。


これは、禁忌だ。

死に行く者は、そっと見送るのが森の掟。

消えかけている命に、手を差し伸べる。

これだけは、してはならない。

あの少女を見た瞬間、その顔があまりにも悲しすぎて。

霊域の番人である責を、一時だけ忘れてしまった。

気をつけなければ、気をつけなければいけない!

こんな事は、あってはならないのだ。

けど、それが分かっているのに……放っておけなかったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ