第1話
初期アイテムの<開発者からの手紙>には、こう書かれていた。
『このゲームは特定のアイテムを見つけなければログアウトできません。
また、LPが0になった場合、現実世界の肉体も死亡します。
くれぐれも注意して、ゲームをお楽しみください』
「楽しめるか!」
とりあえず、ノリ突っ込みをした黒髪、小柄、童顔な少年。
キャラクターネーム<ミズチ>である。
ここはVRMMORPG<セカンド・ワールド>の世界だ。
VRMMO・・・通常のMMOと違い仮想空間に入り込み、その世界を体感する。
そんな夢物語なような技術を、どこかの大富豪が作り上げ、その第一弾として<セカンド・ワールド>ができ、テストプレイヤー10万人の1人としてミズチは選ばれた。
志願した覚えも、応募した記憶も無いので、怪しいなとは思ったが、元来あまり物事を深く考えない性質なので、ゲームの説明書だけ読んで、面白そうだったので参加することに決めた。
で、現在の状況に陥ったという訳だ。
試しに<メニュー>画面を開き、<ログアウト>ボタンを押してみたが、反応はない。
次に現実世界の肉体が心配だが、<ログイン>した場所は、開発者側が用意した施設で、SFに出てくるコールドスリープ用のカプセルのようなものに寝かされた。
殺すつもりがないなら、あれが肉体を最善の状態にしといてくれるのだろう。
どちらにしても、このままでは埒があかない。
今後の方針を決める必要がある。
ミズチが辺りを見回すと、スタート地点である<はじまりの街>では、他のプレイヤーは泣いているか、喚いているか、呆然としている。
頼りになりそうな者は一見するといない。
そして手紙には、『特定のアイテムを見つけなければ・・・』と書かれていた。
このアイテムが簡単に手に入るものとは思えない。場合によっては個数制限があるかもしれない。
なら、単独で今すぐ行動したほうがいいと考えた。
幸いというべきか、ミズチはゲームのマニュアルは全て暗記していた。
「<ナビゲーションピクシー>」
『はいはい。お呼びでしょうか?ご主人様』
体長15センチの4枚羽がついた人が、空中に現れた。
これは<ナビゲーションピクシー>と呼ばれる妖精型の会話によるヘルプ、サポート機能だ。
ちなみに容姿は金髪の美少女だ。おそらく作り手側の趣味だと邪推する。
「<片手剣スキル>のスクロールが欲しい」
『了解しました』
妖精は空中に巻物を出現させる。
これは<スキル>のスクロールで、キャラクターに使用することで、様々な技能や能力上昇の助けになる。
本来、<スキルスクロール>はクエストの報酬か、ダンジョンの宝物、ボス級モンスターのドロップアイテムなどでしか手に入らない。
それは、このゲームの根幹を成すもので、多くの<スキル>を手に入れることで、より広範囲の冒険をするのが、このゲームの主目的だからだ。
だが<スキル>が0個だと冒険するのにも、かなり苦労する。
そこで<ナビゲーションピクシー>に頼めば、<片手剣スキルスクロール>、<両手剣スキルスクロール>、<槍スキルスクロール>、<斧スキルスクロール>、<弓矢スキルスクロール>のいずれか1つを手に入れることができる。
片手剣を選んだのは奇抜なのより、堅実な方がいいと思い選んだ。
次はアイテム、武器の購入だ。
驚いたのはNPCが普通の人間のような対応をしたことだ。
一瞬プレイヤーか?とも思ったが、ゲームにログインしていると言うより、この世界で生まれているという感じなのでNPCだと思う。
おそらくAIにそういう設定を入れているのだろう。
それにしても高度な設定だった。
いろいろとオススメも紹介されたし、オマケくれたり、雑談してきたり・・・。
ちなみに購入したアイテムは。
鉄の剣(攻撃力:6 耐久力50/50)
旅人の服(黒)(防御力:3 耐久力30/30)
HPポーションLv1 X15
SPポーションLv1 X5
解毒ポーションLv1 X5
である。初期の所持金は、ほぼ0になった。
最後にボーナスポイントの割り振りだ。
このゲームではレベル制とスキル制の両方が採用されているが、レベルを上げるだけではキャラクターは強くならない。
レベルが上がるとBPが得られる。
BPを使用することで各能力を上昇させることができるのだ。
ミズチは当然Lv1だが、BPは初期時に5ポイント配布される。
なので、そのポイントを割り振り強化する。
ステータス画面
名前:ミズチ
Lv:1
HP:300/300 → 350/350
SP:150/150 → 160/160
LP:10/10(能力値固定)
BP:5 → 0
筋力:10 → 11
耐久:10 → 11
俊敏:10 → 11
スキル1:片手剣スキルLv1
スキル2:なし
スキル3:なし
スキル4:なし
スキル5:なし
スキル6:なし
スキル7:なし
スキル8:なし
スキル9:なし
スキル10:なし
予備スキル:なし
装備:鉄の剣(攻撃力:6 耐久力50/50)、旅人の服(黒)(防御力:3 耐久力30/30)
経験値:0/50
所持金:15G
「こんなもんか?」
とりあえず上げられる能力値は1づつ振っておいた。
本当はLPに割り振りたいが、固定なので仕方ない。
LPはHPが0になると1減少して、最後に立ち寄った街に転移する。
LPがなくなると本当に死ぬらしいので、負けられるのは実質9回。
逆に言えば9回は無茶をできる。
「2~3回くらいは無理無茶をやるかな?」
そうと決めたらフィールドにでて、次の街に行くとしよう。
<はじまりの街>の周辺では多くのプレイヤーが探索を始めるだろう。
そうすればアイテムや経験値の奪い合いが起こるのは必至。
そうなる前に別の街や村、できれば発見されにくい所で自身を強化する必要があるだろう。
ミズチは街の外へと向かい城門を潜る。
「す、すまない。少し、よろしい・・・か」
と声を掛けられる。
振り向くと。
血塗れの男がいた。