act5「全て動き出す」
いろいろ名称募集。
これは素人が書いた駄文フィクションです。出てくる国や人物は現実とは一切関係ありません。
能力測定学校ウルシード校 特別訓練空域 1104時
sideout
全方位対応攻撃特化型AAVS“ラストーチカ”2機が互いの全砲門を向けあっていた。ちりちりと火花が散っているような緊張感を醸し出し、鋭い目付きのデュアルアイが怪しげに輝く。
近戦前衛型装備“ツヴァイク”を装備するラストーチカは、両手にもった銃剣つきアサルトライフルを油断なく構え、後衛支援装備“グラチカール”を装備したラストーチカは大量に開いたミサイルポットと狙撃砲を重たげに構えて、互いにじっと動かなかった。
不意に、“ツヴァイクラストーチカ”が動き出した。アサルトライフルで牽制しながら、一直線に“グラチカールラストーチカ”に迫る。それにたじろぐ気配さえ見せず、“グラチカールラストーチカ”は解放したままだったミサイルポットから無線誘導ミサイルを発射。数十発のミサイルが突撃中の“ツヴァイクラストーチカ”に向かって飛んでいく。
『…ッ!』
そこで初めて“ツヴァイクラストーチカ”の操縦者が焦った。“彼女”が息を飲む音声が解放状態の通信機を介して“グラチカールラストーチカ”の操縦者の耳にはいる。
――なんだ、この程度で。もっとキレイに舞って見せろ。
苛立ちながら、彼女は肩に乗った2門の投射砲――レールガンを発射。どうにか回避しようとスラスターを吹かし機動する“ツヴァイクラストーチカ”だが、ミサイルによって行動を制限されているため、避けることができなかった。“しまった”と思う間も無く、レールガンの120ミリ砲の雨を食らう。あっという間に装甲が破壊され、防御シャッターを突き破り、操縦者区画“パイロットエリア”に侵入する。
――なんだ、なんて無様なッ! 私より、ずっと動ける筈だッ! もっと……私を楽しませろぉぉッッ! そのきれいな翼で、もっと舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ!舞えッ! そして煮えたぎる闘志を私に、魅せてみろぉぉぉぉぉッッ!
硬直し、破壊されていく“ツヴァイクラストーチカ”に間髪いれず彼女は両手で保持している大型狙撃砲を叩き込む。
『~~ッッ! やめてやめてえぇぇッッ! いやああああああああああああああああああああっ!!!』
絶叫が、響き渡る。
――見える、見えるぞ、私にはッッ! 貴様の身体が、焼かれていく様がッ! 美しいッ! なんて美しいんだッ! ああ、やはり恐怖はいい、最高だッ! なあ?そうだろう?
能力測定学校ウルシード士官学校 1132時
sideステラ
士官学校に入り、3日。お昼までもう少し、という時に騒ぎが起きた。
なんと、訓練空域を哨戒していたウルシード防衛隊の1機が、墜ちたらしいのだ。まだ配備して間もない“ラストーチカ”という機種らしい。
「授業は中止、貴様らは自室待機、わかったかッ!」
了解、と元気よく返事する生徒達を一瞥することなく教官は部屋を飛び出していった。
完全防音な上に、カーテンを閉めていたため、先ほどの校内放送で教官はこの騒動を知ったんだろうな、私もそうだけど。慌てて開けた窓からは、炎上する機体が出しているであろう真っ黒な煙が見えた。
「大丈夫なのかな、あれの操縦者」
シャルドネが眉を潜めながら言う。その顔には不安がはっきり見える。
「いや、生きていないだろう。よく見てみろ、すでにパイロットエリアは跡形もない、即死だ」
「即死………ッ!」
キルシュの冷静な見立てにシャルドネはさらに顔を歪め、震えていたヴォレットが悲鳴のような声を絞り出す。
私は涙目になったのだろうか、視界が、霞んでいる。
「で…でも、脱出してるかも…!?」
「残念だが…ブロック(隔壁)はおろか、AMFSの骨格も残っている、生存していない」
キルシュが僅かに震えている。珍しい光景だ、こんな事がなければきっと皆からかって遊んだことだろう。
格納庫から基地の訓練機の“フィギュアキャット”が飛びだっていく。カメラやレーダーなどを装備しているところをみると、多分あの墜ちた機体の偵察かなにかだろう。
「……」
皆、顔を不安や恐怖に染めて、食い入るように燃え盛る“ラストーチカ”や、飛びだっていく“フィギュアキャット”をただ見つめた。
さらに“ラストーチカ”が爆発したらしい。爆音が鼓膜を大きく振動させた。
「…私は、あんなのに乗るの…ッ!?、イヤ、イヤよそんなのッ!」
“徴兵組”の女子生徒がかすれた声で、押し出すように漏らす。
「だって…ッ!戦争屋だものッッ!死ぬのは、イヤッ!」
泣き叫ぶ女子生徒の悲痛な声に、ようやく我にかえった生徒達はざわついた。
皆、彼女に同意を示し、泣き叫び始めたのだ。
あれ?
そこではたと思い出す。
彼女の名は、アリソン・ヴィチスト。ようやく思い出したよ。“裏切者”アステア・ヴィチスト大佐の長女。
「~~ッ!」
ヴォレットがアリソンを睨む。その目には“裏切者”を嘲るような気配があった。
能力測定学校ウルシード校 ??? 同時刻
sideout
エルーシャとイウーシャはそれそれ専用機に搭乗して、墜ちた“ラストーチカ”を見下ろしていた。
今回の“事故原因”を調査すると言うのが今回彼女たちに与えられた任務なのだが、実質的には“跡形もない機体をただ見つめる”というものだった。
『フレスベルグ各機に継ぐ、任務終了だ』
『フレスベルグ01、了解』
『フレスベルグ02了解…ッ!』
命令に従い、2人の機体が返事と共に急反転、ソ連に与えられた格納区画へ飛んでいく。
「ん~」
その光景を見ながら、ヴイジャジンスカは離発着場で二人を待つ。いつもの事ではあるのだが、整備兵にとっても、指揮所要員とっても相変わらずやりにくい環境だ。
何て言ったって、エルーシャ達が乗っている機体“フレスベルグ”の開発者がヴイジャジンスカ本人なのだ。やりにくい以外になんていえばいいのだろう。
整備兵たちは、時々批難の籠った目で彼女をみやるのだが、そんなのは普通に無視して「おーい」などと上空にいる2機の“フレスベルグ”に向かって手を振っている。
『フレスベルグ01、着陸を許可します』
『フレスベルグ01了解』
お、とヴイジャジンスカは反応し、耳に仕込ませたインカムに意識をやった。正直、ウサギの耳がびくっと動くような光景である。
ヴイジャジンスカの首席副官たるフィカーツィア・コズロフスキー中佐はそんな光景にため息をつきつつ、上空に迫る“フレスベルグ”を見やった。
全身がパールホワイトで塗装された1番機が減速体制に入っている。足を前につきだし、オプティカル・ウィング(光翼)を目一杯広げて、そして――、ズシンッ。
重たい音と共に着地した“フレスベルグ・アインス”は脚部に負担をかけないよう、軽くスラスターを吹かして数センチほどホバリングしながら格納庫へ消えていく。
続いて“フレスベルグ・ツヴァイ”が着地。
「おー、流石私が造った“玩具”だあ、やっぱすごいね~私」
子供のような声を上げて、ひとり跳ねて喜ぶヴイジャジンスカを見て、コズロフスキー中佐は再びため息をつく。その首筋には汗が光っていた。
「…博士」
「んー?」
ニコリという擬音がつきそうな笑みを浮かべてヴイジャジンスカは振り返る。銀色の髪が輝きながらたなびく。
「そろそろ“彼”がきますよ」
「あ、そうね」
ぽんっ、と手を打ってヴイジャジンスカは反応した。あまりにも子供っぽい反応だ。身長が低いのに加えて童顔なためか、現にコズロフスキー中佐をはじめとした関係者以外にはよく子供と勘違いされた事がある。それぐらい、彼女の姿は子供だった。
「んじゃあいこっかあ」
ヴイジャジンスカはニコニコしたままちょこちょこ歩き出す。慌ててコズロフスキー中佐は後を追う。
「で? 今度は何だろうね」
「…不明です。しかし、宜しいのですか?」
「別にぃ。“あの子”はいろいろ面白いからねぇ、流石英雄だよ」
ヴイジャジンスカの言う“面白い”はコズロフスキー中佐たちにとっては“厄介事”以外の何物でもない。はあ、とため息混じりの相討ちを中佐は打つ。
「それと、何故“彼女たち”に偵察を? 偵察なら、私たちでも出来ます。それに“フレスベルグ”は保険の筈ですが? 機密保持の都合上、出すべきではなかったと思いますが」
「……」
不意に、ヴイジャジンスカの足が止まる。
「……、“フレスベルグ”は真似できないよ、絶対に。真似させない」
「…」
「それに……“あの子”が――っと、他国でこんなこと言っちゃいけないか」
無表情だった顔を笑顔に戻すヴイジャジンスカ。再び歩き出す。
「党からの命令だよ。“ラストーチカ”は全世界に最新鋭機として私たちソ連が売り出している。最新鋭、つまるところの最先端。つまり、“ラストーチカ”が墜ちた、イコール最強という各国の評価を落とすことになる。おわかり?」
「はい、ハイエンドという宣伝文句も落ちます。つまり、事故として処理させよ、ということですね」
「そっ。というわけで忙しくなるねー」
けらけらと笑いながらヴイジャジンスカはさらりと頭がいたくなるような一言を付け足した。コズロフスキー中佐はそんな彼女を睨む。だがいつもの“子供姿勢”で笑い続けていた。
気を取り直し、その他相談事をしながら騒然とした基地内を歩く。
「警備を強化しなければいけませんね」
「ん~、そだねぇ」
便宜状の“国境”となっているフェンスをちらりと見やるコズロフスキー中佐。そこにはスウェーデン軍人達がこちらに向かって何かをがなり立てていた。わざわざ聴覚強化魔法を使って聞くまでもない、とコズロフスキー中佐は無視を決め込む。
だが、ヴイジャジンスカはそうではないらしかった。
「ん~~~~ッ! うっさいなあもう」
そう言いながら、無造作に指を振る。指を機転に、魔力が飛ぶ。
……何も起きない。魔力を飛ばしたのに、何も起きない。発動しようとした魔法を緊急キャンセルしたのだろうか。
いや……、“異変は起きている”、とコズロフスキー中佐は認識を改める。
彼らが発する“雑音”が、聞こえないのだ。彼らの声だけが。中佐には、がなり立てる軍人の声がまったく、聞こえなかった。
「……博士」
「なあに?」
いつも通りの子供っぽい笑みで答えるヴイジャジンスカ。
「使用許可のないフィールド魔法は法により罰せられますが」
ヴイジャジンスカの肩が大きくビククッと動いた。顔には大きく“しまった”の表情。
そんな反応を尻目に、中佐はため息を漏らしつつ思う。よくこんな無意味でガス食い虫な魔法をけろっと使えるのだろうか。
ヴイジャジンスカが今使っている魔法は“フィールド系”に属す魔法だ。フィールド系魔法は広域に“空気”のように作用するのが特徴的である。その為、威力は絶大だが魔力を垂れ流す必要があるので、行使できる人は殆どいない。
「“ピンサイレント・フィールド”はlevelAAの使用制限があります」
“ピンサイレント・フィールド”。その効果は“特定の音源または特定周波数から発せられる音をフィールド内部にいるかきりカットする”。フィールド系ということもあり、かなり魔力消費が大きいうえに、効果が上記のようにただ“音を消す”だけなので、フィールド系行使者の中でも使う人はいない。
また、魔力を飛散させるフィールド系魔法は高い攻撃力を誇る故に、使用制限が課せられるが、これは個別に与えられる。ヴイジャジンスカの”ピンサイレント・フィールド“に与えられている使用制限レベルはAAクラスで中でも高い使用制限設定されている。
「……内緒だよ?ツィア」
ヴイジャジンスカは気まずそうな笑みを浮かべてコズロフスキー中佐の愛称を呼ぶ。その顔はまるで悪戯がバレた子供のようだ。
「…はぁ、しかたないですね」
コズロフスキー中佐は子供のような博士を見て、ため息をついた。
彼女の性格上、普通は断るだろうが、何故か断ろうとしなかった。何故かと言えば、ただ単に跡が怖いのだ。公的にも、私的にも。
「ん、いい子いい子~~~♪」
コズロフスキー中佐を撫でようと足を止めて手を伸ばしてくるヴイジャジンスカをするりとかわし、本部が入った建物にはいる。
なおも悪戯をしようと必死なヴイジャジンスカを避けながら、狭い簡素な階段を上がる。
「とにかく、そろそろ戻って来てください、博士」
階段を上がったところにある簡素な休憩スペースの前でコズロフスキー中佐はきっぱりと言い放つ。
ヴイジャジンスカは「うーん」などと唸ってそれに反応。
「んん~~~~。仕方ないか。今回は諦めるよ」
そう言い、ヴイジャジンスカは不満そうな顔で執務室へ繋がる廊下を歩いた。
能力測定学校ウルシード校 ソビエト連邦借用陣地内ヴイジャジンスカ博士執務室 1150時
「……ッ!」
「………、あら」
ヴイジャジンスカの執務室でスウェーデン軍人の英雄、カリウス・ハンネトルン大尉の息を飲む音と、何かを楽しむように笑うこの部屋の主の声が響く。
二人の前に無造作に置かれたノートブックが映すのは、先ほど帰投した2機の“フレスベルグ”が持ち帰った情報と、ソ連がこっそり回収した“セカンドレコーダー”が記録していたガンカメラ映像だ。
「しかし…、抜かりましたね、フィアトラーカ中将も」
「まったくよ。フィアトラーカの馬鹿の首が飛ぶだけじゃなく、こっちにもとばっちりだわ」
「現に受けています、幸い“ラストーチカ”1機で済みましたが」
「残念、表だと私たちソ連は関係ないわ」
つんとそっぽを向くヴイジャジンスカだが、その顔に張り付いた笑顔は不機嫌を表していた。
ソ連が進める“2つの計画”の片方が脱落した今、これからを支えるのは彼女の計画なのだ。縛られるのが嫌いな彼女にとって、面白くないのは当然だ。
「あちらのMa-26/F“クチラトーニァ”とこちらのXJs32/P“フレスベルグ”は互いに抑止力として共にあるべき機体…、策が裏目に出たね」
笑顔のまま、ギリリと唇を噛み締める。
ますます面白くない。“ラストーチカ”に“2つ目の記録装置”を着けた技師をおもいっきり痛め付けてやりたい、とヴイジャジンスカはつくづく思った。
「……、そうですね。しかし、そうは言ってられない。先程からそう博士も言っていますよ」
「まあね、しかし…“クチラトーニァ”の代替機かぁ」
難しいなあ、と続けながら、ヴイジャジンスカは自らが造った”フレスベルグ“に与えられた意味を思い出す。
”消費させる機体“。それが”フレスベルグ“。そして、逆に“生産する”機体が“クチラトーニァ”だ。つまり、2機が揃って初めて“1機”になるのだ。
数多くの火器と装備、特性、装甲を使っている“フレスベルグ”は、必然的にエネルギーたる魔力が足らなくなる。逆に最低限の装備しかない“クチラトーニァ”は魔力をほぼ無限に産み出す。それ故、もて余した魔力の処理がしきれなくなり、自壊する。互いが抑止力になるのはその為である。
ヴイジャジンスカの元には“クチラトーニァ”の情報も勿論ある。しかし、“クチラトーニァ”の中枢たる変換装置“チェンバー”の情報だけがないのだ。それ故、ヴイジャジンスカが頭を悩ましているのである。
とにかく、今必要なのは“魔力生産技術”。“ラストーチカ”墜落事故など些細な問題だ、とヴイジャジンスカは考え、隣にいるカリウスを見やる。
彼は少し意外そうな顔をヴイジャジンスカに向けていた。
「…ちょっと、何じっとしてるのよ」
「…あぁ、すみません。ちょっと意外で」
意外そうな、ではなく本当に意外だったらしい。その事に少し腹をたてつつ、ヴイジャジンスカはいったい何が意外だったのだろうと思った。
「……ん、別に気にしてないからいいけど」
口を尖らせながら言うヴイジャジンスカ。その姿を見て、ニヤリと趣味の悪い笑みを浮かべるカリウス。
「気にしているから言ったんじゃないんですか?」
「むっ…」
ジトッとカリウスを睨むヴイジャジンスカ。何をいっているのとその目は訴えている。
「…まあ、いいですけど。それで?難しいとは?」
重たいため息で話を引き戻すカリウス。その言葉で、計画責任者という立場を思い出すヴイジャジンスカ。
「ん…、あぁ」
軽く延びをしてヴイジャジンスカは続ける。
「いくら私のうちなる“僕”だとしても、他国の士官に話せないよ」