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AAVS‐アーヴズ‐ 若き星と落ちた星‐  作者: 藤原ヒカリ
ウルシード訓練校編
5/9

act4「予感と期待」

ウルシード士官学校 第一校堂前ホール 1140時



side ステラ


結果から言おう。

選抜試験の結果は――士官学校入り。

嬉しい。とてつもなく嬉しいッ!これで、憧れのAAVSパイロットにッ!

まあ、まだいろいろあるんだけどね。G試験とか、魔力測定とか。校長が言うには、これでランキングを作成し、上位40人がAAVSパイロットになれるらしい。

ちなみに余談だけど、ここは能力測定学校ウルシード校の中にある為、寮は変わらないそうだ。

「まあたあんたとおんなじい~」

「まったく、転校すればよかった」

後ろでシャルドネとヴォレットが笑いながら口をへの字にしていた。

この前の選抜試験では対戦相手のC小隊の伏兵に苦戦した。サポートすべき後衛が喧嘩を繰り広げたため、本当に大変だった。キルシュが一緒でよかったあと思ったくらいの暴走だったよ。流石は入試首席、四発同時の誘導弾は凄かった。キルシュがいなかったら支えきれなかったよ。

そういえば、とキルシュに目を向ける。

「なんでしょうか」

黒い瞳が私を見やる。

「ん?別にぃ。その、選抜試験の時は凄かったなあって思って」

私は素直に思っていたことを言う。するとキルシュは何故か顔を赤くして俯いた。

「…そういえばキルシュ?」

「はい?」「なんでさっきから敬語なの?」


「…」

そこで私は初めて見る現象に目を丸くした。

顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いてしまったのだ。

「キルシュ?」

なんだろう、トイレかな?

それとも――。

「ぶりッ子キャラに鞍替え?」

突如、私は頭に鈍器で殴られたかのような衝撃に見舞われた。

しかも、一度や二度じゃない。何回も、ガンッガンッッ!と。

「~~~ッ!」

私は涙目になって、声にならない悲鳴を上げた。

痛い。本当に痛い。痛い痛い。何回も殴らないでよ、痛いから。

私は横目でキルシュを睨む。相変わらず顔が真っ赤だが、流石にもう俯いていなかった。何が痛いのか、涙目になって、睨んできていた。

「~~ッ!」

力一杯、睨んできている。少し赤らんで、涙目という連撃は反則だろう。ていうか何かを言いたそうな顔をしているけど、言いたいことがあるなら素直に言って欲しいな。

「…さ、さいてーだなッ!その、だな――」

キルシュは意気込んで言ったかと思ったら、だんだんゴニョゴニョになって、しまいには言葉にならなかった。何が言いたいんだ?キルシュらしくない。

「――どうしたら、いいんだッ!」

私がぼへっとしている間にも、ゴニョゴニョ語での独白が続いていたらしい。そして、言語が戻ったと思ったら、急に怒鳴った。何、何なの、らしくない。初めてが多すぎて混乱してきたんだけど。てか目立ってるし。恥ずかしい。

思わず後ろにいるシャルドネと顔を見合わせる。やはりシャルドネの顔にもハテナが大量にうかんでいた。隣のヴォレットも顔に大量のハテナが書かれている。

「た、確かにその…」

羞恥の朱に頬を染め、頭をブンブンと振り回し始めるキルシュを尻目に、3人で首を傾げる。私たちが意志疎通もなしに考えているのは、“この暴走した副隊長、どうしようか”、という事だ。いつでも、絆が強ければ使える以心伝心というのは便利だなあ。

と、そこに一人の男がやってきた。訓練生らしい、で所属は131訓練中隊。まだパイロット組が決まってないので、しばらくはまえの中隊の所属になる為だ。

キルシュはその男を見ると、ポッ!と顔を今まで以上に真っ赤になる。そこで私たちの考えは纏まった。

ああ、成る程……。

頑張ってね、キルシュ。



ウルシード士官学校教官詰所 1143時



sideout


教官詰所は騒がしかった。毎年恒例の騒ぎの中で、さらに騒ぐ一団がひとつあった。グレーテル・ナルキス中尉と、例の英雄カリウスを中心としたその集団が手にしているのは缶ビール。彼女らの足元には空き缶が散乱していた。

「お、まだいくのかあ、負けないよおッ!」

顔の両サイドにかかる髪を異様に長くして、小顔を演出しているショートカットのグレーテルの足元にはやはり空き缶が散乱してる。彼女の周囲にあるビールは、すべて彼女が手をつけて飲み干した物だ。だが、彼女はケロリとしていた。隣で同じ山を築くカリウスはすでに真っ赤である。

「~~~あぁ、まだいぐぉ~」

普段は凛としていて優しい印象の彼だが、今日はそんな雰囲気微塵もなかった。先の通り、優しいバスの声も呂律が回っていないせいか、ただの飲んだくれのおじさんといった雰囲気を出していた。

「あんまり無理するとあしたきついよ~?」

グレーテルは笑ってそう言いながら、さらに空き缶を作った。カコンと、間抜けな音をたててさらに山が高くなる。

カリウスも負けじと缶ビールを一気飲み。彼もまた山を高くした。

そんな2人を歓声混じりに取り巻く教官の山の中に、真面目そうな黒髪の女性がいた。彼女、由梨花・ヴェンスト軍曹は深々とため息をついた。回りは皆ビールを片手にしているが彼女は何も持っていない。お酒に対する耐性がまったくといっていいほど、無いのだ。多分、と彼女は思う。日本人の血のせいかな、と。名前の通り、彼女は日本移民2世なのだ。

ああ、なんで私は呑めないんだろ…。

またため息をつく。気づけば山がさらに高くなっていた。

「はあい、もうストップ~♪」

医務官のリーフレット・ハルフレット中尉が待ってましたとばかりに声を上げる。ついにドクターストップがかかったカリウスはデロデロになりながらも、まだビールを掴もうと手を伸ばしていた。

「こらこら英雄さん?駄目だあって。私に勝てるわけないじゃん、アハハハッッ!」

高笑いを上げるグレーテル。アルコールで真っ赤に染まったカリウスは悔しそうにがっくりと項垂れた。

「でも、チャレンジャーとしては新記録ね」

リーフレットは笑みを浮かべながら彼を褒め称える。それに呼応するように由梨花以外の教官達が声を上げる。

ちなみに、なぜこのような事態になっているのかと言えば、ただ単に“通過行事”だからだ。

いつからだったかは古参の由梨花達の記憶にない。毎回毎回やるもんだから、数えたりするのも億劫になってしまったのだ。

「にしてもグレーテルに勝てるやつはいねぇよな、ナアッ!?」

誰かがそう叫ぶ。その野次を始めに次々と叫び上げる。どっかと机の上に座しているグレーテルが野次に答えるように、両手にビールを持って掲げる。

確か、いつだか酒に強いことが発覚したグレーテルに酒飲み競争を誰かが吹っ掛けたのが始まりだった気がする、と由梨花はぼへっと考える。それがだんだんとエスカレートして、毎回新任としてやってくる若き教官をグレーテルにぶつけるようになったのだ。そして通過行事となった。今では“レクリエーション”として予算が降りるようになった。ただし、医務官をつけるという条件付きだが。まったく、校長――ウルスラ・リンテット中佐はどうかしていると、由梨花は毎回この光景を見て思うのだった。

と、そこに件のリンテット校長がやってきた。パチパチと拍手なんかしながら。

由梨花はさっと彼女を横目に睨むが、ウルスラはどこ吹く風といった感じで無視。

「皆さんお疲れ様です、だいぶ手荒い歓迎だったみたいですね」

リーフレットに引っ張られていくカリウスを見やりつつ、ウルスラがそう告げる。その顔には、飛びっきりの笑顔が浮かんでいる。

「そうっすかね?」

教官という職業の性からか、咄嗟に由梨花はグレーテルを睨む。睨まれている本人の目線の先には酔ったカリウスの姿がある。まあ、確かに今日は“引っ張りすぎた”かもしれない、と反省しつつ、グレーテルは缶ビールをさらに一本開ける。

対戦相手を失ってもなお、グレーテルの勢いは止まらない。飲んでは捨て、飲んでは捨てを繰り返していき山を高くしていく。

「さてっ、あまり無理はしないでくださいね、では」

そんな様子を見守ったウルスラは、ニコニコしたまま、ビール片手に去る。

まるで嵐のようだ、とそれを見ていた由梨花は思った。

「失礼します」

前途多難だと頭を抱えかけた由梨花の思考が、不意にかけられた澄んだ声によって中断させられた。

グレーテルや彼女の取り巻きたちも、興味津々とばかりにビール片手に盛り上がる。

「エルウィッシュ・ハルフォーフ、参りました」

驚く教官たちに、どこかの学校の制服を着た少女は、静かに頭を下げた。



あはは。遅くなりましたw

キルシュの恋の予感、期待の新キャラ、と続きましたが、次はステラにビックリがきます。シャルドネの驚きエピソードもきますよ。え?ヴォレット?知りません。途中退場してもらう予定ですから。あ、ネタバレしすぎたww

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