プロローグ 「出会い」
お姉さんがスウェーデンの軍人訓練校に入り、5ヶ月が経過したんだね。寂しかったけど、お姉さんが頑張ってると思うと、邪魔出来ないって思ったから、今まで手紙を書きませんでした。でも、…言いたいことがあったから、書くことにしました。
「お誕生日おめでとう」
んふふ、これだけどうしても言いたかったんだ。
邪魔したね、では今度はちゃんと直に言えることを楽しみにしてますね。
エストレア・トリンデン
‐side ステラ‐
私は妹からきた手紙を丁寧に引き出しの奥に仕舞う。
まったく、そんなに気を使わなくていいのに。昔からそうだったね、もう。
この間の休暇の時に買った便箋を取り出しながら、微笑む。
あれ?万年筆どこ置いたっけ?
机の中をまさぐる。
おかしいな、ない。
ちゃんとしまっておいたんだけと…。
間違ってルームメイトの誰かが持っていっちゃったのかな。仕方ない、押収してくるか。
そう思い、私は部屋を出た。
さして広くない宿舎の廊下を歩きながら、ルームメイトの姿を探す。
休憩スペースを通る。いない。
いないかあ、私はそう落胆しながら通りすぎると――。
ドンッ!
私はドアに殴られた。
痛いなあ、まったく。ていうか危ないなあ。
そう思いながら反射的に突きだした両手を引っ込める。
鍛えているので怪我はしていないようだ。
「すまん、大丈夫か、訓練兵さん?」
ふと、声をかけられた。
相手は丁度扉に隠れて見えない。たぶん声からして男性だろう。ちょっとクールなお兄さんって感じの声だ。
「え、…あ、はい」
突然だったせいで、少々焦ってしまった。我ながら恥ずかしい。
ガチャンと音をたて、私を殴った扉が閉まる。
すると、そこにいたのは、大尉の階級章をつけた“英雄”だった。
きれいなブロンドの髪に白い肌、サファイアのような蒼い瞳。
彼は、サリバン戦争の英雄、カリウス・サー・ハンネトルン。
第二世代型AAVSの量産型、“スカイホーク”で敵軍“サハリン正国”の名士、エドンドリアを打ち倒した英雄だ。
「そうか、ならよかった。…ん、君は277訓練中隊の子か」え、私の所属を当てられた。たしかに私の着ているBUDには部隊章がついているけど、ほとんど知られていないような部隊だ。
でもなんで知ってるんだろう。
「まあ、そうですが…」
驚くあまり、私は上官には敬意を払って接するという軍規をスルーしてしまっていた。慌てて私は彼に対し謝罪した。けど、彼はそれを笑って流してしまった。
「しかし、なんでほとんど無名の部隊をしってるんでしょうか?」
敬意は最低限で良いと言うので、態度を改めつつ、先程からの疑問をぶつけてみた。
「聞いてないのかい?」
ぶつけてみると、彼は心底不思議そうな顔で私を見てきた。
「な、何でしょうか…?」
私は思わずドキリとしながら答える。
すると、ハンネトルン大尉はドキリとする私を軽く撫でながらこう答えた。
「ま、そのうちわかるよ」
この出会いが、私の将来を大きく変えるとはおもってもみなかった。