第7話:取引のお時間
サイバルさんとの会食が始まる。サイバルさんの白パンはよくトーストされた、こちらで言う六枚切りの食パンのような弾力で、馴染み深いものではある。それが160円で食えるとなると、やはり十分物価は安いな。これでも世間が回っているということは、よほどの経済的な格差があるのか、それとも果てがない上が存在するのか。
まあそれはさておき、食事だ。温かいスープにパンを浸して食べ、パンの酸味を抑えつつも、決して柔らかくないそのパンをかみ砕き、咀嚼して胃に入れる。80円の食事ならこんなものか……現世でも、298円でハンバーグ弁当が食えるスーパーも確かにあったが、あれに比べればこっちのほうが少なくとも量はあるし腹は満たされる。量が足りなければ二つ頼めばいいだけだ。しかし、そろそろ顎にガタが来る年齢にこの黒パンの表面の硬さはちょっと来るな。
サイバルさんは白パンを優雅に食べ、そしてスープのほうもこちらより少し肉が多い。やはりお高いセットはそれだけ価値がある、ということだろう。
温かさと量だけはあるこの食事を無事に胃に詰め込み、顎が痛くならないかどうか心配する間に、サイバルさんも食べ終えて、ようやく腹と顎が落ち着いたところで商談に入る。
「うむ、私の話はシンプルだ。その服を売ってほしい。おそらく、何かしらの取引で手に入れたものだとは思うのだが、その素材を研究してより良い服造りをするためにも物そのものが必要だ。ぜひとも協力していただきたい」
「では、こちらの条件を。上から下まであなたのお店で、最高級品でなくてもいいのでそろえさせていただきたい。私はこれが一張羅なもので、これを渡してしまっては裸で生活しなければいけなくなる。その点はまずよろしいですか? 」
「うむ! それぐらいは喜んで出させてもらおう。手付金代わりに受け取ってもらいたい。服の値段についてはまた別で……と考えているぐらいだ。そんな話でよければいくらでも乗ろう。それで、いくら出せば君のその服、譲ってくれるのかね? 」
うーん……実際問題どのぐらいなんだろう? 二度と手に入らないという意味ではそれなりに高級品であることに間違いはないのだろうが、あまりふっかけて怒らせたり、注文をキャンセルされたり、逆に荒くれ者を雇って服を脱がせて奪ったり……と、いろいろやりかねない。実際のところは向こうで決めてくれてもいいぐらいだ。
「では、あなたがすべて繊維の分析から同じものを作れるかどうかは保証できませんし、この服が何の参考にならなかったとしても一切こちらに瑕疵はない、という前提で……金貨5枚と、服一式。これでいかがでしょう」
「うむ! 思ったより安くて商売っ気がないと心配したが、そちらでその値段で気持ちよく応じてくれるならそれで手を打とう。とりあえず店まで来てくれるかね? 後、ここの支払いも私が持とう。服が手に入ることに比べたら安いものだ」
そういうと、テーブル分の支払いを全部請け負ってくれて、俺とイアンちゃんの分までおごってもらえた。正直金貨5枚もあっても……そういえば、今いくら持ってるんだろう? 後、財布を常に持ち歩いて高額な金貨を全部懐にしまっておくのは少し不安があるんだが、何かいい方法はないだろうか。
店を出て、十分ほど歩いたところに「サイバルフクショクテン」なる看板を発見。服飾店……なるほど、サイバルブランドの店舗がここってことか。早速中へ入ると、まだ新しい服と中古の服が店内で綺麗に真っ二つにされており、新品のほうからはできたての繊維のにおいがする。一方、中古服のほうは……うん、まあ洗濯はしてあるんだろうな……という程度の匂いにまみれている。何のにおいかは想像しないほうがいいだろう。
「うむ、では好きな服を選びたまえ。どれを選んでもお値段は同じということにしておくのだ」
やはり着慣れた服のサイズが良いからな。……と。どうやら綿の量産には成功している世界らしい。見慣れた綿のパンツもある。これならあまり違和感も股ずれも起こすことなく、問題なく着て行けそうだ。後は麻の製品もあるらしい。パジャマにするなら上下一着ぐらいあっても悪くないかもしれないな。
値段は……やはり、新品であるのかそれなりのお値段がする。ご飯の安さに比べたら雲泥の差ではあるが、それでも銀貨1枚程度で収まってくれているのはかなりお得感があるな。パンツが銀貨1枚……パンツは2枚欲しいな。
「サイバルさん……折り入ってご相談があるのですが」
「うむ、どうしたのかね」
「パンツは2枚でもいいですか」
誰も話さない静かな時が数瞬流れ、そしてサイバルさんが口を開く。
「3枚までなら許す! 」
「ありがとうございます」
3枚までならいいらしい。よほど気に入ってもらえてうれしかったのか、それとも頭の中で計算をしてそのぐらいなら利益の範囲、と考えたのかはわからないが、下着の余裕があることは心の余裕にもなる。
一通り服をそろえさせてもらった後、パンツの予備をもらって、そして金貨5枚を受け取る。
「うむ、いい取引だったの。また見つけたら譲ってほしいのである。きっと、いや、今度こそこの生地の量産にこぎつけるのだ」
何度もお礼を言いながら「サイバルフクショクテン」を後にする。すぐに小道に入り、イアンちゃんに相談をする。
「イアンちゃん、大金持ってると落ち着かないんだけど、何かいい方法ないかな。どこかに預けるとか、そういう仕組みはないのかな」
「そうですねえ。銀行があるにはありますし、身分証があればこの町の活動に限っては銀行を活用できますが……もしかして、神崎さんからスキルについて聞いてませんでしたか。さっき確認し忘れましたね」
「スキル……そういえばスキルについて話す前にサイバルさんが来ちゃったんだっけ」
「そうです。で、結論から言いますけど、アイテムボックスって言えばいいんですかね。そういうスキルを旅行者特典で付与されているはずです。頭の中でアイテムボックスって念じて試しに財布を入れてみてください」
アイテムボックス。念じると、手の中にあった金貨5枚とポケットに入っていた財布代わりの袋が消え、頭の中に今ある手持ちの全財産が表示されるようになった。これがアイテムボックスか。初めて見るな。いや、異世界が初めてなんだから当たり前か。
他にもスキルはいろいろ付与されてる可能性はあるな。異世界を楽しむためにどんなスキルを付与されているのか、これからイアンちゃんと一つ一つ試していくことにしよう。
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