第4話:いざ、異世界
翌日、俺は再びアザーワールド社に来た。異世界のしおりによると、こちらとあちらで荷物の持ち込みはできないらしい。が、唯一現金だけは持ち込み、持ち出しが許されるらしい。実際に説明された通り、現金だけはやり取りできるらしいのでまさに身一つで異世界に旅立つことになる。
会社について、受付で小鳥遊です、有休消化しに来ました、と告げると、太客を案内するモードに入ったのか、豪華な応接室に連れられてお茶と羊羹まで出てきた。せっかくなのでいただくことにする。
程よい苦みのお茶と、甘くしっかり砂糖が析出するまで練り込まれた羊羹。これでしばらくこっちの世界の甘味も味わい収めか、と思うとその甘みをしっかりと感じ取り、この世の納めではないが、しばらく食べられないものと考えて、口の中に余韻を残して食べ終わった。
タイミングを同じくして神崎さんが応接室に入ってきた。さて、羊羹も食べ終わったし、後はこの身をゆだねるだけ。連れてってもらおうじゃないか、異世界。
「おはようございます。ご準備のほうは大丈夫ですか? 」
「ええ。何も持っていけるものがない、ということらしいので着の身着のまま行こうかと思います。後は現地の服装に準じて対応できるように心がけるぐらいですかね」
「皆さんそこが気になるみたいですね。お試しで一週間だけ……とかいうお客様もいましたが、やはり下着や肌着に早くなじめるかどうかが大事だそうです。できるだけ綺麗なものを買い求めるのが大事だと言っていました。やはり、中古品の肌着よりは新品のほうがいいと皆さんおっしゃいますので御一考ください」
ふむ……三百日も同じだと、さすがに服が持たないだろうからなあ。むしろ早めに服を手放して、あらかじめ意図的に手早くなじんでしまえるようにしたほうがいいんだろうな。
「まあ、何とかやってみますよ。とりあえず楽しんできます。途中で帰りたくなるかもしれませんけどね」
だが、この特別コースは途中退場はできず、その場合二回目の異世界体験はできない、ということになっているとしおりに書かれていた。そうでなくとも、異世界体験なんてものを人生で一回できればそれだけでも充分だろう。
「さて、今から小鳥遊様には軽くお眠りになってもらって、その間に異世界へ行ってもらいます。異世界への行き来は企業秘密の独占技術になるので、いくら小鳥遊様でもそこまではお見せすることができないのですが……では、どうぞ良い旅を、行ってらっしゃいませ」
そう言われて神崎さんが指を鳴らすと、段々と眠気が俺を襲う。まるで、さっきのお茶や羊羹に睡眠導入剤でも仕込んであったような……まさかな……でも、この眠気に打ち勝てば……あ、むりぽ。
◇◆◇◆◇◆◇
気が付くと、草原の真ん中に放り出されていた。どうやら眠ってる間に異世界に放り出された、というのは間違いないらしい。手を握ったり離したりして、体に何の負担もかかってないし、体調のほうも問題ないことを確かめる。
さて……と自分の周りを見渡すと、ずた袋のようなものが見える。これが俺の手荷物か? 中身を確認させてもらおう。すると、簡単な地図と方角、そして近くの町まで行ける道が書かれていた。どうやら、この世界も東から太陽が昇って西から沈むのは同じらしい。
それに従って考えると……今は午前中のようだ。もう少ししたら昼になるのかな。太陽らしきものがかなり高いところまで昇っている。
しばらく地図を見たり、荷物の確認をしていると、遠くから人の影のようなものが見えてきた。明らかに俺のほうへ向かってきている。しばらく待ち続けているのもあれなので、道のほうに向けて歩き始めると、その人影も俺に向かってきたので、間違いなく用事があるのは俺に、ということらしい。
人影が人の形に近づき、そしてその形が分かるようになってきたところで、違和感を抱く。この子、耳が……耳がある! ケモミミだ! さすが異世界!
「小鳥遊さんで合ってますよね? 」
少女が流ちょうな日本語でしゃべり出す。しかもカタカナ語ではなく、平仮名と漢字も織り交ぜてそうな、明らかな日本語だ。
「あれ、普通に日本語で通じるんだな。カタカナ語じゃないと通じないと思ってたよ」
「それは文字だけですね。言葉は不自由しないと思います。で、小鳥遊さんで合ってますよね? 」
「ああ、小鳥遊であってる。君は? 」
「私はイアンといいます。神崎さんから詳細は聞いています。私は現地ガイドみたいなものだと考えてください」
「なるほど、至れり尽くせりだな。しかし、どうやってこの場所を? 神崎さんとは会話ができるようになってるとか? 」
俺が事前にここに降り立つことを知っていなければたどり着けないはずだ。
「それはですね、天啓みたいなスキルを私が持っていて、いつ頃にここへ行けば会うべき人に会える、みたいなことを感じ取れるのですよ。だから、今回も無事に出会えたというわけなのです」
「なるほど。で、イアン……さん? 」
「私のほうが年下だと思いますのでさん付けをしなくても大丈夫ですよ。もっと気軽に話しかけてきてください」
「じゃあ……イアンちゃん」
「はい! 」
「町へいこう。服とかいろいろ見繕いたいんだ。あと仕事も探したい」
「はい、わかりました……え、仕事? 」
イアンちゃんを引き連れ、一番近くの町、ボコマズの町へ向かう。そうだ、財布の中身を確認しよう。財布代わりの袋の中には金貨が数枚と銀貨、銅貨がそれぞれある程度両替された形で入っていた。どうやら金貨だけで使いづらいことがないようにと両替しておいてくれたらしい。
この辺のサポートはありがたいな。ボコマズの町に入ろうとする列に並ぶ。どうやら、身分の確認と入場料がかかるらしい。入場料が払いやすいように銀貨を用意してくれたならありがたい話だ。
順番待ちの列が消費されて行き、俺の番が来る。
「身分証か入場料を出してくれ」
入り口の衛兵らしい兵士が一人ずつ確認を取る。
「身分証……イアンちゃんはあるのかい? 」
「私はこれがあります。冒険者証。タカナシさんは……多分持ってないので入場料を払わないといけないかと」
「そっか。入場料はいくらですか」
「銀貨一枚だ。払えるか? 」
「はい……これで」
「よし、確認した。町の中で騒ぎを起こさないでくれよ。後、冒険者登録をするなら町の中央広場の南東側の建物が冒険者ギルドになる。冒険者登録さえしてしまえば他の町でも潰しが効くから登録をお勧めしておくぞ。田舎から出てくる奴は大体持ってないからな」
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