第28話:マヨ
身支度を整えたところで一階の食堂に降りて行って、リンカちゃんにリッチな夕食を二人分頼む。
「父さん、白パンセット2つ! 」
席に座り、しばらく待っていると、しっかり両面を焼かれた白パンに具だくさんのスープとちょっとしたソースがかけられた肉が小さく一枚乗ってきた。どうやら今日はサービスがいいらしい。それとも、夕食の白パンセットには必ず肉がつくんだろうか。まあ、いい。
とりあえず食べよう……と、肉についているソースをなめとる。少しはちみつが混ぜてあるのか、ほのかな甘みとソースのこってり感がある、なかなかに味のあるソースだ。それに、肉を焼いた面をよく見ると、肉の油以外にもう一つ油が使われているのが分かる。
「リンカちゃん、これ、肉焼くときに使った油って何の油? 」
「オリブの油ですかね? 少なくとも肉の油を混ぜ合わせて使ってはないはずですから……ちょっと確認してきます」
リンカちゃんが親父さんに確認しに行く。その間に肉にかぶりつき、その確かな味わいを確認する。これはホーンラビットの肉だな。
「ふわふわで美味しいですー」
セルフィはパンの柔らかさとスープの具沢山に満足してほえほえとしている。
「確認してきました。オリブの油で合ってますね」
「それって植物だよね? 」
「そうですよ? オリブ見たことないです? 」
植物油が普通に食堂で使えるということは……マヨ行けるか、マヨ。マヨは原材料こそそこそこかかるものの、安定した植物油と卵の供給源が手軽に作れるチート食べ物だ。そして、食に情熱をかける人はそれほど少なくない。これは、いけるかもしれんな。
「手が空いたらでいいんだけど、2、3質問させてもらっていいかな」
「あとでよければ。今は忙しい時間なのでちょっとアレですけど」
「うん、よろしく」
「? 」
頬っぺたいっぱいに肉を詰め込んだセルフィが何を始めるんだろうという顔で俺を見ている。
「ちょっと美味しい物を作ろうとしているだけだよ。もしかしたら直接働かなくてもよくなるかもしれないね」
「そう、なのですか。ご主人様は働くのがお好きなのですよね? なのに働かないで大丈夫なのですか? 」
セルフィに言われてハッとする。そういえば俺、ここ数日働くことしか考えてないな。働きに来たのか? このままでは生活費の安い所に出稼ぎにきただけではないか。しかも、その分だけ安い給料になっている。一日に金貨一枚も稼げるわけではない。労働の場所としてはあまり勧められたものではないのだろう。
「ぐう……うぐぅ……」
「ご主人様は働かなければ死んでしまうのですか? 」
「そんなことは……ない……はず」
「ご主人様にお金の管理をすべてお任せしている立場で申し上げることではないのかもしれませんが、時には休息も大事ですよ? 」
「それはわかってる……はずなんだが……」
それが実行できていれば320日も有給溜めたりはしないんだろうな。就職してから数年分の連勤と休日出勤、それらがたまりにたまった結果なのだ。
そもそも会社がマニュアルもなければすべて手作業による指示やマニュアルなしでの労働指示なんかに頼り切った状況だったのを、俺が入社してすべてマニュアル化。
そして誰でもできるように作業を細分化、そしてそれぞれの工程できちんと動作するかのチェック、マニュアルのテスト、それらをきっちりやり終えての休暇なのだ。この休暇は何をしててもいいし、どのように過ごしてもいい休暇のはずだ。休暇だからと、無駄に三日ぐらいひたすら寝転がってからこの特別プランを選択するという方法もあったはずだ。
しかし、そうしなかったのは俺自身が動いていないと死ぬ、マグロのような性質を持っているからだろう。もしかしたらこの休暇で安定した休みというのを身に付けられるようになるかもしれないが、それでもしっかりとやれる範囲のことを一通り楽しんでからでもいいんじゃないか。まだまだ金もあるし、むしろちょっとだけ増えている。
この調子で増やせる金額の量を多くしていけば、ちょっとだけ給料を増やした状態で現世に帰れるならそれが一番だ。有給で休んでる間に副業、いい話じゃないか。しかも俺が楽しんで、周りも笑顔にできての行為ならやっただけの甲斐があったと後で満足できることになる。
食事を済ませ、食堂が一通り落ち着いてから、リンカちゃんがテーブルにやってきた。
「で、何なんですか用事って」
「リンカちゃんはマヨ、マヨネーズ、マヨラー、なんて言葉聞いたことある? 」
「マヨ……料理か何かですか? 」
「正しくは調味料だな。後、鳥の卵や植物油と酢が安定して手に入るかどうかを聞きたい」
「鳥の卵も植物油も酢も、市場へ行けば手に入ると思います。大体値段が……」
リンカちゃんが唱えていく値段を頭で計算し、マヨネーズの黄金比率になるように個数と値段を計算していく。やはり鳥の卵と植物油が少し高めか。だが、極端に高くて作れないということではないということはわかった。
「なんですか? 新しい調味料でも作るんですか? ぜひ作るなら教えてくださいね。お客さんに味見してもらって美味しいなら店の売りになりますから」
「そう思って提案してみたんだ。後は親父さんに厨房を貸してもらえるかにかかってるかな」
「朝早くならいいぜ。あんまり時間がかかるんだと昼の仕込みに被ってしまうが……それまでに終わらせてくれるならタダで貸してやる」
どうやら親父さんも新しい調味料というのには興味があるらしい。いいぞ、異世界チートっぽくなってきた。だとすると、明日の朝市に向かってそれぞれの分量を計って購入してくるだけだな。
親父さんにじゃあ明日借りると申し出ると、さっそく借り受けられるよう手はずを整えてくれた。さて、明日は異世界転移定番のマヨ作りだ。特許とかもないようだし、必要材料をそろえて手に入れることができれば後は実際に作るだけだな。
どうやら異世界転移特典で記憶力のほうも多少良くなっているらしく、「これだけ詰め込め! 異世界に行ったときにチートできる知識100選」の内容はほぼ覚えている。その中の一つをさっそく実行させてもらうことにしよう。
そうと決まれば朝市の時間に間に合うように明日は早起きしないとな。といっても目覚まし時計があるわけでもないから、いつも通り日の光に起こしてもらうしかないんだが……まあ、何とかなるだろう。
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