第11話:一日の終わり
ちゃんと日が落ちる前に南門から街中へ帰る。
「お、ちゃんと帰ってきたな、えらいぞ」
門番からはちゃんとお使いできてえらい! と褒められた。40過ぎのおっさんが、だ。でも、新人冒険者には違いないからな。言われたことをきちんと守るのも冒険者の務めなら、今日一日は立派に過ごせたということになる。
にしても、腰を痛めなくてよかったな。最近は歳のせいか、ぎっくりの気配が近寄ってくると、察知できるようになってきたが、今日は中腰仕事を半日してもいつもなら現れるであろうぎっくりの気配がかけらも来なかった。これも異世界転移特典だったりしてな。わはは。
さて、冒険者ギルドに戻って仕事の報告だ。今日の成果をきちんと提出して、その分の報酬をいただかなくてはいけない。
冒険者ギルドに戻り、カウンターへ今日の成果である薬草類とホーンラビットの死体を受付に提出する。
「はい、では鑑定していきますね。薬草類は……はい、丁寧に根っこから抜いてくれてありますね。量もそれぞれ問題ありません。ホーンラビットは……綺麗に処理してくれてありますね。ちょっと毛が血で濡れてますけど、このぐらいなら許容範囲です。五体ありますから……はい、OKです。では、ホーンラビット5体、ホルム草16束、ハププ草5束で合計銅貨228枚分になりますので……銀貨2枚、大銅貨2枚、銅貨8枚での支払いになります。問題はありますか? 」
「いえ、思ったよりお金になったなと」
「そうですね。薬草の品質が良いのと、ホーンラビットが綺麗に血抜きされてるのが高い買取料金の理由ですね。普通は適当に抜いてきていたり、毛皮がボロボロだったりでお金にならないケースがあるんですが、今回はそれらの事情は一切なし、ということでこの金額になります」
「そうですか、ではありがたく受け取ります」
食事が三食銅貨8枚として、一泊銀貨1枚だから銅貨80枚分の儲けか。6日繰り返せばショートソード代も捻出できそうだな。いや、明日は奴隷商のところへ行ってあの子を……彼女を救い出す……保護……いや、誰かの尻拭いか? 何にせよ、明日は盛大に金を使う必要がありそうだ。
しかし、安いなら安いでそんな安い生まれにしてしまって申し訳がない、と罪悪感が湧くが、あまり高くないと財布に嬉しいと思っている俺もいる。
なかなか難しい気持ちを胸に抱きながら銀の卵亭に戻ると、ちょうど鐘が鳴った。そういえば、この時間に体を拭くための湯を頼んでくれると都合がいいと言ってたな。急いで戻ろう。
メリーさんに湯をお願いし、部屋まで運んできてもらう。桶いっぱいの湯で銅貨2枚らしい。20円でお湯。安いか高いかは微妙なラインだが、飲み水ではなく体を拭く水として考えたらまあわからなくもない所ではあるな。ほとんどサービスみたいなものだろう。
体を拭いた後、さっぱりした気持ちで食堂へ行き、昼と同じ銅貨8枚の定食を頼む。夜のメニューは黒パンに、豆と肉のシチューらしい。シチューといっても日本食で言うところのルゥを使ったようなタイプではなく、透き通ったスープに豆と、少量の肉が入ったシンプルなもの。後はどうせ寝るだけなので、これでもまあ十分かな。
相変わらず顎になかなかのダメージを与えてくる黒パンをシチューでふやかし、これが異世界体験か……でも、こういうものを体験するのもなかなかないよな。俺一人のためにこれだけの世界を用意するなんてツアー……にしては前の客の残しものとかがあるけど。
さて、お腹をそこそこに満たしたし、体も綺麗になった。細かいことは、異世界だし気にしたら負け! 早速の一日目を終了しよう。そういえば、RMTの試験だけしてなかったな。これだけ部屋でやってしまうか。
と、一応髭を剃りたいから鏡の代わりになるようなものないかな……そうだ、水に映った自分の顔を見ながら、水面に物を落とさないようにすれば自分を見られるな。角度的にちょっと難しいが……よし、自分の顔見え……あれ、俺こんなに若々しかったっけ?
まあいいや。髭を剃ってしまおう。剃刀を借りて……あちち、ちょっと切っちゃった。やっぱりT字剃刀がないと不便だな。やはり工業製品の量産技術が欲しければ自分でチートして使えるようにしろ、ということなんだろうな。
手先の器用さなんかもそのうちレベルアップして剃刀一本ですべての身支度を完了させられるようになるかもしれないし、今日はまずその一歩ってところか。とりあえずこの傷は器用になるためへの自分への教訓だ。しっかり数日残して髭を剃るのを欠かさずやるようにしよう。
さて、身支度をし終えたところで、ろうそくをちょっと借りて、暗い中だがスキルの訓練だ。RMTというスキル、どこまでの金額が使えるようになっているかを把握しておかないとな。
……この金額は、どうやら俺の貯金と連動しているらしい。試しに10万円の資金移動を行ったら、手元に金貨がポンっと現れ、それと同時に俺の貯金金額から10万円と220円の金額が減った。ちゃんと取引手数料も取られるらしい。逆はできないのかな。試しに金貨をスキルの向こう側へと押しやってみる。
すると、10万円の入金があり、その後440円貯金が減った。どうやら、こっちの世界から現実の預金へ移動するには倍の手数料がかかるらしい。このやり取りだけで三日分の食費が飛んだ。まあ、食費は良い。その気になればあと金貨10枚ぐらいは手にすることができる、ということが分かれば十分だ。
ろうそくを返した後、ほぼ月明かりだけが頼みの中、窓を開けて空を見上げる。空には緑と赤と黄色の月が、三色綺麗に輝いていた。光の加減でそう見えているのか、実際にその色の大地をしているかまではわからないが、月が三つある地球は存在しないはずなので、ここは間違いなく異世界なのだろう。
もしくは……衛星が三つあるどこかの星の居住可能惑星にワープした……その可能性もあると言えばあるのか。しかし、人間型……ケモミミ少女もいるとはいえ、具体的になじみやすい形態になっているのを加味しても、やはり同世界別惑星よりも、異世界である可能性はぐんと近づいたわけか。
それにしても、今日は月が綺麗だな。明日も同じような顔を見せてくれるのか、それとも一日で月の満ち欠けが変わり得るのか。寝て起きて、そして明日の取引を終えて、その後、全てはわかるはずだ。
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