1
眩い光が、視界のすべてを白く塗り潰した。
目を開けていられないほどの輝きの中、リルは今にも崩れ落ちそうな足で必死に踏みとどまっていた。
――倒れたら、終わる。
その本能だけが、彼女を支えていた。これまでの場所では、倒れたものから順に死んでいったのだ。
焼けるような熱と、砂の混じった風。そんな感触だけが、泥のように体にこびりついている。
やがて、瞼の裏を刺していた光が凪いでいき、リルはおそるおそる目を開けた。
足の裏に伝わるのは、冷たく滑らかな石の感触。
見上げれば、高く、見たこともないほど緻密な装飾の天井。
そして――。
自分を取り囲む、見知らぬ人々。
「……成功したのか」
誰かが、震える声で低く呟いた。
人垣が左右に割れ、一人の男が前に出る。
重厚な衣を纏い、揺るぎない足取りで歩み寄るその姿は、ただ者ではないと一目で知れた。
その男が、困惑するリルの前で、静かに片膝をついた。
——え。
思考が追いつかない。
自分に向けられるにはあまりにも不釣り合いな、その仕草に。
男は、穏やかに微笑んでリルを見た。
「ようこそおいでくださいました」
そして——
「我が帝国の聖女よ」
その言葉が意味を持つ前に、リルの体は、脳内は信号を出していた。
——お腹が、空いた。
ぐう、と、静まり返った空間に、あまりにも場違いな音が響いた。
白い装束を身に纏った人物が前に進み出て、黄金の杯をリルの目の前に恭しく差し出す。
差し出された杯を、リルは見つめた。
透明な水が、わずかに揺れている。
喉が焼けるように痛い。
これは何かと考えるよりも早く、気づけば手が伸びていた。
その場にいた誰もが息を呑んだ。
制止の声が上がるよりも早く、リルは杯を掴み——
そのまま、口をつけた。
ごく、ごく、と一切の躊躇もなく、飲み干す。
喉を通る冷たい感触に、ようやく息がつけた。
焼けるような渇きが、ほんの僅かだけ和らぐ。
足りない。
「…………」
飲み干して、気づいたときには、あたりは静まり返っていた。
視線が、すべて自分に集まっている。
——何か、とんでもないことをしたんじゃないか。
指先が、かすかに震える。
不安が胸を締めつけたそのとき、静かな声が場を切り裂いた。
「——よい」
リルの前に跪いていた男——皇帝ジークヴァルドが、穏やかな笑みでゆっくりと顔を上げる。
「聖女が口にするに相応しいものであった、ということだ。……問題ない」
断じるように言い切ると、張り詰めていた周囲の空気がわずかに緩んだ。
しかし、残る困惑を圧するように、皇帝は続けた。
「水を。新しいものを用意しろ。至急だ」
命じられた者たちが、弾かれたように慌ただしく動き出す。
リルはただ、呆然とその光景を眺めていた。
――怒られない、のか?
理解が追いつかない。
ただ一つだけ、確かなこと。
まだ、足りない。
はじめまして。
初投稿作品です。温かく見守ってくださると嬉しいです。




