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眩い光が、視界のすべてを白く塗り潰した。

目を開けていられないほどの輝きの中、リルは今にも崩れ落ちそうな足で必死に踏みとどまっていた。

――倒れたら、終わる。

その本能だけが、彼女を支えていた。これまでの場所では、倒れたものから順に死んでいったのだ。

焼けるような熱と、砂の混じった風。そんな感触だけが、泥のように体にこびりついている。

やがて、瞼の裏を刺していた光が凪いでいき、リルはおそるおそる目を開けた。

足の裏に伝わるのは、冷たく滑らかな石の感触。

見上げれば、高く、見たこともないほど緻密な装飾の天井。

そして――。

自分を取り囲む、見知らぬ人々。

「……成功したのか」

誰かが、震える声で低く呟いた。

人垣が左右に割れ、一人の男が前に出る。

重厚な衣を纏い、揺るぎない足取りで歩み寄るその姿は、ただ者ではないと一目で知れた。

その男が、困惑するリルの前で、静かに片膝をついた。

——え。


思考が追いつかない。

自分に向けられるにはあまりにも不釣り合いな、その仕草に。

男は、穏やかに微笑んでリルを見た。

「ようこそおいでくださいました」

そして——


「我が帝国の聖女よ」




その言葉が意味を持つ前に、リルの体は、脳内は信号を出していた。


——お腹が、空いた。


ぐう、と、静まり返った空間に、あまりにも場違いな音が響いた。


白い装束を身に纏った人物が前に進み出て、黄金の杯をリルの目の前に恭しく差し出す。

差し出された杯を、リルは見つめた。

透明な水が、わずかに揺れている。


喉が焼けるように痛い。


これは何かと考えるよりも早く、気づけば手が伸びていた。


その場にいた誰もが息を呑んだ。

制止の声が上がるよりも早く、リルは杯を掴み——

そのまま、口をつけた。

ごく、ごく、と一切の躊躇もなく、飲み干す。

喉を通る冷たい感触に、ようやく息がつけた。

焼けるような渇きが、ほんの僅かだけ和らぐ。


足りない。


「…………」

飲み干して、気づいたときには、あたりは静まり返っていた。

視線が、すべて自分に集まっている。

——何か、とんでもないことをしたんじゃないか。

指先が、かすかに震える。

不安が胸を締めつけたそのとき、静かな声が場を切り裂いた。

「——よい」


リルの前に跪いていた男——皇帝ジークヴァルドが、穏やかな笑みでゆっくりと顔を上げる。

「聖女が口にするに相応しいものであった、ということだ。……問題ない」

断じるように言い切ると、張り詰めていた周囲の空気がわずかに緩んだ。

しかし、残る困惑を圧するように、皇帝は続けた。

「水を。新しいものを用意しろ。至急だ」

命じられた者たちが、弾かれたように慌ただしく動き出す。

リルはただ、呆然とその光景を眺めていた。

――怒られない、のか?

理解が追いつかない。

ただ一つだけ、確かなこと。



まだ、足りない。

はじめまして。

初投稿作品です。温かく見守ってくださると嬉しいです。

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