表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/16

もし、紳士様にお願いがございます

「お買い物……楽しい響きです」

粗末な服を揺らし、スキップしながら早朝の山を降りていく少女の背中を私と並んで歩くビョーンが見つめながら言う。彼は皮のカバンや金貨の袋など、全て背負ってくれていて、私は昨日削って作った木刀一本を携えるだけで良いのだから楽なものだ。


空は晴れ渡っていて、麓まで降りるとあっさりと王都へ向かう二頭立ての屋根付き馬車を見つけた。ビョーンが大きく指笛を吹いて御者の注意をこちらに向け、私が腹に力を入れ

「王都まで3名頼む!」

銀貨を掲げながら言うと、あっさり停車してくれて3人で乗り込んだ。


馬車内は目つきの悪い男二人組と、おどおどした小柄な学生らしき青年、そして王国軍諜報兵士だと私には分かる、庶民に変装した地味なメガネをかけた茶髪を七三分けにした女性がそれぞれ離れて座っていた。

おそらく、男二人組の尾行だろうなと私が気付かないふりをしていると、女性は微かに笑って少しだけ頭を下げてきた。……これは、元騎士団副長の私が怪しい若い男と奴隷少女を連れて王都に向かっていたと、上に報告されるなと思ったので、馬車の外を眺め無防備に鼻歌を歌っている少女に

「王都で何が欲しいかね」

「服!あとジュース!沢山ちょうだい!」

「買おう。君も何かあるかね」

「よっ……よろしいのですか……?」

前髪に半分隠れた顔で驚くビョーンに微笑みながら頷くと

「お家を直すための工具セットが欲しいのですが……お高いかもしれません……」

ため息をつきながら俯いた。

「鍛冶屋街なら知り合いが多い。値段を見ないと分からないが、行ってみよう」

ビョーンは黙って深々と頭を下げてきた。私はあえて朗らかに

「君たち若者の助けになるのが、今の私の楽しみだよ」

女性はまた微かに笑いながらこちらを見てきた。諜報員に分かるように枯れた私の現状を説明したつもりだが、興味を持たれてしまったようだ。王都内では尾行がつくだろう。


王都内の馬車停留所で全員降車して、足早に雑踏に紛れた男二人組には、待機していたらしき3名の、庶民に変装した諜報兵士たちがバラけながら尾行していった。騎士団は今後どうなるか分からならないが、しっかりと王国諜報部は機能しているようだなと思っていると、いきなり先ほどまで同乗していた女性から

「もし、紳士様にお願いがございます」

「私のことですかな?」

とぼけながら、あえて自らの禿頭を触って答えると

「鍛冶屋に向かうとお聞きしました。私も主人の形見のナイフを研いで欲しくて……良き研ぎ師を知らないでしょうか?」

スッと私に革の鞘に入ったナイフを見せてくる。

「中を見ても?」

女性が微笑みながら頷いたので、少しだけ鞘から刃を出し、思わず唸り、すぐに戻した。血糊で錆びている。恐らくだが元々プライベートで研ぐつもりだったのだろう。これを見せてきたということは、私を試しているな。何かを察したらしきビョーンは少し距離をとって心配そうにこちらを見つめているが、少女は雑踏の先の華やかな店屋の並びから目が離せないようだ。


私は鞘に入ったナイフを女性に丁重に返し

「御婦人、もちろん、鍛冶屋には連れて行きますが、まずはわがままな弟子の身なりを整えてあげねばなりません。お付き合い願えますか?」

隠すところはないと暗に告げると、女性は微かに笑い

「剣のお師匠ですか?」

私の腰の木刀を見つめながら言ってきた。

「はい。田舎で隠遁するつもりが、若い子たちに出会ってしまいましてなあ」

またあえて禿頭を触りながら朗らかに笑うと、辺りを見回していた少女が

「トーバン?行こうよ。その人知り合いなの?」

無邪気に間に入ってきた。女性は微笑みながら

「メアリーと申します。ご令嬢、帝国なまりがございますね」

私が苦笑いしながら女性に近づいて

「ご挨拶が遅れました、トーバンと申します」

そして少女に聞こえぬように

「御婦人、あの子はここ王都で奴隷として売られていたのです。無邪気でしょう?情が湧いてしまいましてなあ……なまりが気になったのなら申し訳ない」

頭を下げながら事実だけを述べると女性は微かに微笑んで

「素敵な方々との、楽しい王都散策になりそうですね」

恭しく頭を下げてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ