息を吹き返したような
ビョーンは村の入り口手前の二階建てのレンガ作りの廃屋を住処と定めたようだ。そこは昔、民宿を営んでいたと教えると、神妙な面持ちで
「敷地に閉じられた井戸がありますです。水が腐っていないか試すので、見ていてもらえませんでしょうか?」
私は頷いて、ついてきた少女と地上に突き出した石造りの井戸の円状の蓋をビョーンが開けるのを眺める。彼が開けた瞬間だった。変な話だが、まるで、死んだふりをずっとしていた巨大な生き物が息を吹き返したような感覚に包まれた。
ビョーンが井戸から水をくみ上げると迷わず飲んで
「腐ってはいないです。しかし、しばらく飲んでみないと分かりません。3日、わたくしが飲んで無事ならば、旦那様とお嬢様にも飲んで頂けますです」
「ありがとうビョーン君」
「ありがとう!綺麗なお水が欲しかったの」
ビョーンは真っ赤になって深々と我々に頭を下げた。
それからビョーンと崩れかけた別の廃屋から腐っていないベッドを運びだして、私の家へと運び込んだ。その間少女には、森からちょうど良い長さの枝を持ってきて渡し、素振りの基本動作を教え、村の中心広場で振るように言っておいた。
一時間ほどかけてどうにか2台のベッドを二階へと運び込み、それからビョーンと井戸水で濡らした布で家中の拭き掃除をはじめる。それが終わると、今度はビョーンの家の元民宿の掃除にとりかかった。ビョーンは手持ちのハリガネを曲げながら
「旦那様、不快になられたら申し訳ございませんです」
と謝りながら、あっさりと鍵を開けた。私は感心してしまう。これほどの技があれば大泥棒になれるだろう。
「旦那様、このビョーンの技は家たちを守るためのものです。決して泥棒には使っておりませんです」
「ふふふ。疑っていないよ」
ビョーンはニヘラと笑う。どうやら嬉しかったようだ。
元民宿の中は埃まみれだった。家具もそのままだが、所々床や天井に穴が開いている。ビョーンは凹むどころか嬉しそうに
「この程度ならわたくし一人で、どうにかなりますです」
と言って、私に休んでほしいと言ってきた。お言葉に甘えて、村の中心広場に向かうと、汗だくの少女が、唯一着ていたマントを脱ぎ捨て一心不乱に枝を振っていて、慌てて
「アサムリリー君、ビョーン君が今の君を見たら驚いてしまう。干している服が乾いたはずだ。取りに行こう」
「あっ……ごめんなさい、暑くて……」
しかし集中力は素晴らしかった。フォームの乱れも無かった。やはり筋は悪くない。
身体を拭き、わが家に干してある下着とボロ布を着た少女はみすぼらしい自らの格好を見回し
「ねえトーバン、私、服が欲しい。庶民が着るような軽くて、動きやすい服が」
「確かに。明日は王都に買い物に行こうか。食料とジュースも買わねば」
「うんっ!」
少女はまた棒を持ち、その場で素振りを始めた。