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騎士引退したおじさんが、廃村を立て直しつつ、クッコロ少女騎士を鍛えていたら強くなった  作者: 弐屋 丑二
騎士を引退させられたトーバンと王国の危機

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認めない!

カートが地図を見せながら語った内容はこうだった。


 第一王女領東端の山岳地帯からクラーク河上までは、約十二キロメートル、領内であるここ、ゼオイド村から河上までは十四キロある。

東端から河上の中間地点に小山になっている高さ二十メートル程のなだらかな丘があり、その周囲に柵を立て陣地を敗残兵達が築いている。

兵力は二千五百程度、他の共和国兵は負傷で本国に送還されたか、クラーク河上まで後退している。


 カートはニヤリと笑って私を見ながら

「傭兵団は千五百、あたいもブロッサムも各部隊長も居る。第一王女軍千はゲオルグさんのお陰で練度も高い」

私は地図を見つめ

「三方から挟めば半時間かからず終わるだろうね」

指揮官は素人だろう。戦場の高低差如きで押し返せないほどの彼我の戦力差があることを見誤っている。即時全軍退却するべきだ。

カートは笑いながら

「共和国軍の半数は死ぬだろう。多勢の侵略者を数日で押し返したこちらの士気は最高潮さ」

そう言ってアダムと少女をチャスルを試すように見回す。

まずアダムが

「人死は師匠の本意ではありませんね」

そして少女が確信に満ちた顔で

「トーバンならきっと誰も殺さないわ!」

最後にチャスルが両目を輝かせ

「いい考えある!きっと上手くいく!」

と言ってきた。


 半日後、日暮れ前に我々は丘をグルっと囲んで敵陣を包囲していた。

北側の傭兵団千と、南側の第一王女軍千をそれぞれ馬に乗ったカートと私が指揮している。私の隣には抜けない剣を腰に携えた少女が真顔で立ち警護している。

包囲はわざと東側を薄くして共和国軍が逃走しやすい様にし、北側から傭兵団が

「てめえら出て来いよ!雑魚共が!」

「無事に国に帰れると思うなよ!」

「つまんねえぞ!かかって来いや!」

多少手心を加えつつ罵っているが、共和国軍は怯えた様に陣から一切出てこない。


 2ヶ月前のダイナミス平原でも思ったことだが、夕刻に戦いたい兵は居ない。

しかし、今日は夕刻である必要があるのだ。

少しずつ暮れていく日を背に

「ドコドコドコドコ!」

「ピャヒイイイ!」

怪しげな太鼓と笛の音と共に真っ白な覆面と黒いボロボロの布を纏った五百程の集団が西から現れた。馬や徒歩で隊列はバラバラの行軍だが、速度はピッタリと合っている。

敵陣の北を包囲した傭兵団はノリノリで

「あああ!もうお前らおしまいだ!アイツラが森から出てきやがった!」

「分かってんのか!?王国の山の神達だぞ!」

「早く逃げろ!人の肉を食うんだぞ!?」

野太い声で猛烈に煽り始めた。


 異様な集団は

「ボエエエエエエ!」

と法螺貝を吹くと、真新しい大盾を構えた長身の男と長刀を構えた女が先頭となり、散発的に飛んできた矢を盾で軽く弾き飛ばしながら、丘を瞬く間に駆け上がっていく。

男の盾ごとの強烈な突進と、女の長刀の一閃で柵の一部が瞬く間に破壊され、後ろから異様な集団が笛や太鼓、法螺貝を吹きながら陣になだれ込んで行く。

悲鳴を上げながら多数の共和国軍は東から丘を駆け下り、クラーク河の方角へと瞬く間に逃げ去って行った。


 当然、異様な集団は傭兵団の一部で、先頭の2人はアダムとブロッサムだ。

チャスルの策は、夕陽を背にし視覚的に惑わしつつ、ダイナミス平原で使った衣装を使い回し共和国軍を脅しながら、アダムとブロッサムを先頭に突撃すれば、恐れない相手は居ない。という単純なものだったが、士気の高さと傭兵団の皆の積極的な協力で予想以上に上手くいった。

ちなみに発案者であるチャスルも変装してポーラに乗り紛れていた。


 傭兵団と第一王女軍による逃げ遅れた兵の捕獲と、陣内の食料や武具等の接収が始まり、私は馬から降り、丘の下から少女と共にそれを眺めていた。

カートが北側から馬で駆けて来ると

「かなり食料が残ってた。二十五人ほど捕獲したんだけどどうする?」

想定より遥かに少ない数に安堵しつつ

「傭兵団的には売り飛ばしたいのかね?」

カートは苦笑いして

「モスルと、ビョヌが欲しがってる。両人とも活躍の場が最近多くてねえ。団長のあたいとしてはボーナスをやらないと」

「……現場へ行こう」

できるだけ兵士達は共和国に帰してやりたいが、傭兵団との兼ね合いもあるので難しい。

残念ながらこの国には奴隷制度があり、少女の様に戦争で捕らえられた敵国人は奴隷として売られるのだ。

私は奴隷を買ったこと自体一度しかないが、頻繁な売り買いで儲けたり、農場で働かせたりと活用している者も多い。


 カートと少女と徒歩で丘の上の陣内へと上がり、その中心部で、周囲を屈強な傭兵達に囲まれ、地べたに座っている二十五人の武装解除された布の服姿の共和国兵達を見る。

負傷兵が七人、老兵が八人、病兵が五人、健康な男性兵士が二人、女性兵士が三人か。

「カート、負傷兵と病兵は共和国軍に帰そう。老兵も帰して欲しい」

戦争協約でそういうことになっている。守られるかは時と場合によるが……。

カートは直ちに

「お前ら!あたいは金にならねえ共和国兵は要らねえって言っただろ!?健康な5人以外は老いぼれた馬のボロ馬車付きで送り返しな!」

ソウバリーが進み出て頷くと、他の傭兵達と計20人の共和国兵を素早く連れて行った。


 私が残った5人をどうするか考えていると、地肌が見えている薄い金髪頭で、片目が潰れた痩せた長身の男が進み出てきた。

手斧を腰に提げ、鎖帷子を着込み古びた黒いマントを羽織っている。

「団長、男2人くれ。人買いは趣味じゃねえが、ドーナン商会に今月中に金返さねえといけねえ」

カートはため息を吐いて

「モスル正直に言いな。ギャンブルだね?」

「ああ、ぜってえイカサマだ。団長、あいつら殺していいか?」

カートは爆笑しだして

「あんたが博打弱いの王都で有名だからね!カモにされてんだよ!まあいい!持ってきな!」

「済まねえ、お前ら手伝え」

モスルと部下の傭兵達に男性共和国兵達は連れて行かれた。


 そして腹が出た巨体の男が進み出てきた。

頭は黒のマッシュルームカットで、身長はアダムよりも高い。団子鼻からは少し鼻水が垂れていて、口は半開きだが、黒い目は澄んでいる。

厚手の青い布服の腹の部分には真っ赤な太く大きな刺繍で「私の息子を斬らないで」と縫われているのが目立つ。

「だ、だんちょ……おで、嫁欲しい」

男はオドオドした表情をカートに向けた。

カートは腰に手を当て、優しげな顔で

「ビョヌ、あんたも小隊を持つ身だ。王国民で当てはないのかい」

ビョヌと呼ばれた大男は大きく首を横に振り

「おで……ダメだ……カレーナにプロポーズしたけど……」

自らの後ろに控える傭兵達の内、鍛え上げた肉体を見せつける様に、肌に直に露出の多い真紅の鎧を着込んだ若い女性を振り返ると

「隊長、こっち見んな。私は団長に憧れてんだ。上司のあんたは好きだが、男のあんたは要らねえ!」

周囲を囲んでいる男傭兵達が爆笑して、女傭兵達は拍手や指笛で煽り、女性は憤慨した表情で背後へと下がる。

「だんちょ……おで、女奴隷欲しいけど、ママがダメだって言うんだ。一人じゃ買いにいけねんだ……」

カートは大げさに天を仰いで傭兵達がまた爆笑する。

「で、ビョヌは誰がいいんだい。3人とももう、あんたのものだよ」

ビョヌが座っている三人の共和国女兵を見下ろすと、黒髪長髪の一人は失禁してそのまま気絶し、茶髪を刈り上げ横分けにしたもう一人は顔面蒼白でガクガク震えながら

「やだあ……こんなのやだあ……」

下を向き涙を流して呟きだし、そして最後の一人、頭の後ろで長い金髪をまとめ、一本だけまとまった前髪を垂らした女性が、勢い良く立ち上がるとビョヌを指差し

「おい!私はこんなの認めない!」

「……おで、、おで、ダメか?」

「ダメに決まってるだろ!男なら奴隷を嫁にするな!そもそも共和国には奴隷は居ない!認めないぞ!」

傭兵達はもはや爆笑の渦に包まれ、腹を抱えて涙目で笑っている者も居る。


 私は、ビョヌと女性の気持ちは両方分かる。

今でこそカートが居てくれるが、容姿に恵まれず、器用でも無かった私は女性にはとにかく縁が無かった。ビョヌの様にまだ若い頃は鏡で自らの冴えない顔を見る度にため息を吐いたものだった。

共和国兵の女性については望まれぬ相手と異国で奴隷として結婚するなど、それは誰だって絶対に嫌だろう。それにヒラギナという傍若無人な指揮官で無ければこんな悲惨な現実は訪れなかったはずだ。無能な指揮官は敵に勝る。よく聞く話だ。


 両人共にどうにかしてやりたいが……しかしカートの団長としての仕事も邪魔はできないな……と考え込んでいると

「ちょっと待ったああああ!」

いつの間にか私の側から消えていた少女が、勢い良くビョヌと女性の間に入ってきた。

そして腕を組みスカーフで口元を隠したブロッサムも、ゆっくりと周囲の輪から進み出てきて、大男のビョヌを見上げ

「この子、トーバン様の弟子だけど、この3人あんたから買いたいってよ」

傭兵達から一斉に歓声が上がった。

少女はビョヌに3枚の金貨を見せると

「これでこの子達ちょーだい!」

「でも……おで、嫁が……欲しい」

ブロッサムが進み出て来て

「しゃあねえ!ついでに、この花のブロッサム様が!王都の最上級風俗店を一回おごってやる!ブルーフラワーショーも付ける!」

ブルーフラワーショーとは王都で週末に行われる淫靡なステージショーのことだ。私は利用したことがないが、高額なのは有名だ。

男傭兵達が一瞬どよめいた後

「おい!俺にもおごれや!」

「ズリいぞ!ビョヌ!代われ!」

「どうなってんだ!こら!ブロッサムてめえ!」

荒々しいブーイングと非難轟々となり、カートが大きく息を吸い込むと

「黙れ!」

大声で一喝して黙らせる。


 カートは進み出て、ビョヌ、共和国女兵達、そしてブロッサムと少女の顔を冷徹な眼差しで見つめながら一周すると

「ビョヌ、いい条件だ。この子に3人とも売りな。あんたの嫁については、傭兵団上層部会議にかける。あんたのママともあたいが話してみよう」

「だんちょ……ありがと」

ビョヌは涙ぐみながら引き下がって行った。

カートはブロッサムを心底呆れた表情で見つめると

「あんたのこの戦場での報酬は無しだ!バカ娘があたいの仕事を邪魔するんじゃないよ」

「なっ……団長!?私、半年は休むつもりで……村に行きた……」

愕然とするブロッサムをカートは鼻で笑ってから

「ブロッサムにやる予定だった報酬で男はブルーフラワーショー!女はレッドフラワーショーを一回ずつおごる!団体割引交渉はあたいがしてやる!あんたらブロッサムのバカに感謝しなよ!」

地響きの様な大歓声が起き、ブロッサムは崩れ落ちる。少女がカートに

「さっきの男の人2人もこれで買う!」

金貨を2枚差し出すと、カートは即座に受け取り少女を抱き寄せ、大きな声で

「これであんたも金なくなっただろ!?」

少女は一瞬戸惑ったが、大きく頷くと

「無い!すっからかん!」

カートは大きく笑い声を立て

「あんたみたいなバカは好きだよ!無駄金使って笑わせてくれたトーバンのバカ弟子に皆感謝を!」

再び地響きの様な歓声が起きた。


 丘の上の陣地はそのまま我々が使うことになった。事情を尋ねると、第二王女から貰った金貨をかなり持っていた少女を焚きつけ、共和国兵達を買わせたのは、やはりブロッサムだった。

元同国人としてビョヌとのやり取りを見ていられなくなったらしい。


 陣の端の我々の宿泊用テント内に座る、少女に買われた共和国兵5人を顔を隠したブロッサムは見回し

「共和国に帰りたいか?」

と尋ねる。

腕を組んで胡座をかいた金髪の女性以外の4人が黙って頷き、ブロッサムは少女を見る。少女は頷くと

「帰っていいよ!もう二度と来ないでね?」

ニカっと笑う。

アダムとブロッサムに付き添われて4人はテントを出て行った。

残った女性は座ったままキッと少女を睨みつけ

「負けない!私は認めないぞ!」

「ん?帰っていいよ?」

少女が首を傾げると、女性は立ち上がり顔を真っ赤にしながら

「買ったからには奴隷として扱え!あんたみたいな甘ちゃんには虫唾が走る!」

「……?」

少女は困った顔で私とチャスルを見てくる。

チャスルは腕を組み目を細めると

「変態?辛いの気持ちいい?」

女性は慌てながら

「ちっ!違う!すっ、筋が通ってないことが嫌いなだけだ!」

少女は本気で困った様子で私に抱きついてきた。私は女性を見ながら

「まずは名前を教えてくれ」

「パレラ・ヴァウ!二十三歳!身長161センチ!ズイーバヴ地方のトレナ村出身!共和国では二等兵だった!ちなみに入隊半年だから出世できないのが当たり前だ!舐めるな!姉は結婚したが、私は自分で身を立てたくてな……どの仕事もダメで、兵隊になってみたんだ……好きなタイプは嘘がない男だ!」

パレラと名乗った女性は必死な表情で、しかも早口でまくし立ててきた。

「……」

私は少女とチャスルと目を合わせる。

訊いてもいないことをペラペラと喋る変人を拾ってしまった様だ。

チャスルがつい心配そうに

「お前友達居る?寂しい?」

パレラは悔しげな顔になり耳まで真っ赤にして

「そっ、そんなもの必要ない……」

「そう……」

普段飄々としたチャスルまで心底困った表情で私を見つめてくる。


 チャスルの言った事はある程度的を得ていて、恐らくパレラはもはや共和国内に居場所がないのだ。なので奴隷としてでも王国に残ろうとしている。

その覚悟は並大抵のことではない。

ならば尊重するしかない。

「パレラ君、では奴隷として我々について来なさい」

「くっ……仕方ない……私は金で買われた奴隷だからな。お嬢様……よっ、よろしくお願いします」

パレラは顔を真っ赤にして少女に跪いた。少女は何とも言えない表情で更に私に強く抱きつく。

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