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騎士引退したおじさんが、廃村を立て直しつつ、クッコロ少女騎士を鍛えていたら強くなった  作者: 弐屋 丑二
騎士を引退させられたトーバンと王国の危機

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ゼオイド村

更に近づいて行き、南の谷から一望できるようになったゼオイド村は、周囲を深い山林に囲まれていて、東西南北へ整備された道が通り、広く開かれた平地に五百棟以上の大小様々な建物が立ち並ぶ、ほぼ町と言っても良い規模の第一王女領東部の要衝だった。

村内の広場や空き地には、所狭しと軍用テントが立ち並び、炊煙を上げている。

私が見た印象では、共和国軍はそれほど民家を接収しておらず、村全体に殺気も漂っていない。


「ふむ……アダム、家屋が接収されていないね。村民からの徴収の様子もない。住民をそのままにしている」

アダムは真面目な表情で

「……共和国軍のテント破壊を主にしますか」

ゲオルグは村北部の大きな二階建ての屋敷を指差し

「あれが共和国軍の貯蔵庫になっている村長の屋敷じゃ。元々不正蓄財で建てたものなので燃やして構わん。村長一家や使用人もフェアリーフライの別荘まで退去しておる」

一応確認しようと

「本部は屋敷ではなく村外れの小屋付近とのことですが?」

屋敷から小道が伸び、小高い丘となっている北西部の辺りを指差す。

あるはずの小屋を隠すように軍用テントが立ち並び炊煙が上がっている、どこに将が居るか一見しては分からない配置だ。

「間違いなく小屋じゃ。今、村内に残っとる兵士は八百という所じゃろう」

アダムが腕を組み、丘を見つめ

「俺があの辺りで暴れるのは?師匠達も貯蔵庫への放火後、丘で合流してボルソフを探すというのはどうですか?」

少し考え

「……良いと思う。もし、アダムが先にボルソフと遭遇したら任せる」

「殺すかもしれませんよ?」

「相手の出方次第だ」

アダムは黙って頷いた。


襲撃計画の微調整は済んだので、予定通り二手に別れることにする。

私とゲオルグは村を囲う森林の中、東廻りで元村長の屋敷を目指し、アダムは西廻りで本部を直接襲撃することとなった。


私に布袋を渡し、身軽になったアダムは一度深呼吸をすると

「では、行ってきます」

爽やかに笑い、谷から村近くの南西側の森まで続く獣道を駆け下りて行った。

ゲオルグはその背中を見ながら

「我々はぼちぼち行こうかのう」

「そうですね」

ゲオルグは谷から東廻りで道無き岩場を降りていき、山林へと出ると共和国軍の哨戒兵を巧みに避け、村を東へ迂回しながら進んでいく。


半時間ほどすると、明らかに北西方向から張り詰めた空気が漂い始めた。

哨戒兵達も村内へと次々に戻っていく。茂みに隠れながら

「アダムが暴れ始めましたね」

ゲオルグは神妙な雰囲気で

「あえて、今更尋ねるが」

そう前置きした後

「トーバンさんがボルソフなら、どう動く?猛者と一騎打ちに行くかね?」

「アダムの対応を複数の部下に任せ、別の角度からの襲撃に備えますね。例えば貯蔵庫の焼き打ちとか」

ゲオルグは暗闇の中、明らかにニヤリと笑うと

「……人が悪いのう。我々がボルソフと会えるように若者を仕向けたのか」

私は黙って立ち上がり

「戦場に絶対はありません。期待はしていますが」

ゲオルグも音を立てず笑いながら立ち上がり、山林の中を進み出した。


私の予想通り、村長の屋敷周辺には共和国兵士が巡回していた。

ボルソフがこちらへ避難してきたのだろう。

付近の茂みから様子を伺う。ゲオルグが

「さあ、名将様はどうなさるかね」

私は苦笑いすると

「屋敷の間取りは把握していますか?」

「当然じゃ。ボルソフなら2階の応接間におるはずじゃ。直に襲撃されず階段から直ぐで指揮が取りやすい」

「助かります。では、そこのサボっている2人から服と鎧を借りましょう」

屋敷から少し離れた森の付近でやる気なく欠伸をしながら喋っている共和国兵が2名見える。


ゲオルグ静かに近づくとウンザリした様子の会話内容が聞こえてくる。

「やだやだ。俺らの軍ってさ、河上から性懲りもなく何度も来る敵軍がもう攻められないよう、その河上に配置されてたはずだろ?」

「そうそう。何でこんな山の中に攻め込んでんの?」

「攻めたがりの子供を主将にしたの議会のどこの馬鹿だよ」

「親のヒラギナ議長じゃないらしいぞ。最後まで反対してたと隊長から聞いた」

「ヒラギナ家も大変だよなー。天才と名高い長女は失踪したままだしな」

気の抜けた雑談をしている兵士達が背中を向けたタイミングで、ゲオルグと私がそれぞれ後ろ頭を殴りつける。2人ともそのまま気絶したので森の中へと引きずり込む。

鎧と服を剥ぎ取り縄で縛り上げ、黒装束の上から着込むとサイズは悪くなかった。長身のゲオルグは不満げに

「ちょっと小さいわい」

縛り上げられた服の持ち主を見下ろした。


着終えると荷物を持った我々は、巡回兵の少ない屋敷の裏手へと周り、安々と鍵が空いていた窓から誰もいない寝室へと潜入する。

屋敷内も兵士達が騒然としている。

扉を開いて廊下へ出ると、簡単に行き交う兵士達に紛れられた。

2階へとゲオルグと2人で上がり

「ボルソフ様!伝令がございます!」

応接間の扉を叩くと中から、低い威圧感のある声で

「入れ!」

許可が出たのでゲオルグと素早く入り、扉の内鍵を閉める。

室内には3人だった。

奥のテーブルに座り書類を書いていたスキンヘッドで痩せたボルソフが、我々に気付き立ち上がる前に、手前の若い男性衛兵の頭に私の樫の棍棒を当て失神させ、ゲオルグは女性士官を締め上げて気絶させた。

ボルソフは諦めた様に両手を上げ

「降参だ。何が欲しい」

私は彼に近づき

「ヒラギナに戦績を付けさせたくないのだろう?村の扱いを見るに、本気で侵略統治できるとも思っていない。退いてくれないか」

彼は皮肉な笑いを浮かべ

「そうはいかん。共和国は複雑でね」

「3日以内に王国軍の増援2万が到着する。クラーク河のラインまで撤退してくれ。取り残されたヒラギナはこちらで始末する」

私のブラフに、ボルソフは舌打ちをすると

「ふー……結局の所、私は……」

何かを言おうとした瞬間、背後に回ったゲオルグから締め上げられ気絶していた。

「トーバンさん、時間切れじゃ」

血の気の多いこの老人は待ちきれなくなったらしい。

彼は窓を開け、扉の鍵を開け、気絶した兵士をその側に寝かせる。そして油瓶を部屋中に投げつけると火打ち石で火を点けボルソフを抱え上げ、窓から飛び降りた。

私は一応

「火事だあああ!助けてくれええ!」

扉に向け叫び声を出してから窓から飛び降りる。


下は柔かな草地だった。

ゲオルグはよく人を背負いながら飛び降りたものだと思う。

2人とも足をくじいていなくてよかった。

ゲオルグはボルソフを縄で縛り上げ背負い直すと

「儂は谷で待つ。若者を連れて来なされ」

そう言って北側の森へと走り去って行った。

振り向き見上げると、屋敷の今まで居た部屋が燃え盛っている。

巡回兵に見つかる前に、足早に北西の丘へと向かう。


丘は惨憺たる有様だった。

テントは全て吹き飛び、血塗れの共和国兵がそこら中に倒れている。皆、息があるようだが、傷は深く本国送りだろう。

倒れている中にはヘルメットや鎧が曲がっている重装歩兵も居る。

小屋があったはずの場所には石の土台しか残っておらず、見回していた私の背中に西側から小石が飛んできて当たった。

怪しまれぬように、迂回してから西側の森の中へと入ると、近くの木の上から

「ボルソフはどうしました?」

声だけが聞こえてくる。

「ゲオルグさんが屋敷で捕獲した。屋敷に点けた火が燃え広がるかは分からない」

無傷のアダムが音も無く私の隣に降り

「待ち合わせは谷ですか」

「そうだね。急ごう」

我々は山林を西に迂回しながら南の谷へと急ぐ。


本部付近が無残に破壊され、貯蔵庫にしていた屋敷は放火され、更に副将が行方不明になったゼオイド村は混乱の極みに達しているらしく、怒号と悲鳴が響き出した。

私とアダムはそれを尻目に獣道を駆け上がり、あっさりと村が一望できる先ほどの谷へと到達する。予想していた追撃すらなかった。


谷の上ではゲオルグが干し肉を齧っていた。足元には縛り上げられて気絶したままのボルソフが寝かされている。

「早かったのう。何人倒した?」

ゲオルグから干し肉を投げられたアダムはそれを受け止め、真顔で

「百五十くらいですかね。手練は居ませんでした」

ゲオルグは満足そうに頷くと

「十分じゃ。これ、背負えるかの」

ボルソフを指差す。アダムは干し肉を齧りながら頷いた。

「練度の低い部隊でしたね」

私が正直な感想を述べると、ゲオルグは

「……幽霊の正体見たり枯れ尾花、という感じじゃな。この程度の兵を持たされ、子供のお守りまで任され、此奴も苦労しておったじゃろ」

そう言ってボルソフを見つめる。

「この村の兵はもう使い物にならないとして、残り四千二百というところですか?」

私の問いにゲオルグは神妙な面持ちで

「伏兵とデリングさんがどれだけ減らしとるかじゃろうな」

本陣が襲撃され、頼りの副将が行方不明になったと周知されると逃亡兵が増えるはずなので、もはや危惧していない。

予定通り明朝には終わるだろう。

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