なんでちゃんと戦わないの!
その後も十数回、アサムリリーは打ち込んできたが私に一太刀も浴びせられなかった。全身汗だくで、涙目の少女は必死に強がって
「私の本気はこんなものではない!」
と息巻いているが、へっぴり腰になり両足がガクガクと揺れている。もし彼女が王国騎士見習いで、私がまだ騎士ならば、彼女が戦場で死なぬため徹底的に指導するところだが、残念ながら私はもはや無職で、彼女は奴隷だ。そろそろ良いだろう。
ヘロヘロの太刀筋で打ち込んできた彼女の棒にわざとらしく頭から当たって
「ぐっ!ぬかった!」
と叫んでその場に倒れ込む。そして気絶したふりをした。これで少女は自由だ。近くに置かれている大金の入った布袋を持ち、どこへでも行けばいい。私はこの廃村で隠者のように暮らし、誰にも知られず死んでいこう。もはやこの世にやるべきことはない。
追撃を覚悟して多少身構えていると、カラッ…と少女が持つ棒が落ちる音がして
「もうやだあああ!」
いきなり少女が泣き始める。慌てて上半身を起こすと、涙でくしゃくしゃになった顔で
「なんでちゃんと戦わないの!?私が女だから!?子供だから!?うわあああん!」
怒られて、一瞬唖然となる。
「……いや、悪かった。帝国騎士にはまやかしは通じないか」
苦笑いしつつ、少女を持ち上げると
「グスッ……ヒック……トーバン……私が強くなったら、ちゃんと勝負してくれる?」
と再戦を持ちかけられて、私はまた唖然とする。この少女は大金を持って逃げるよりも、目の前の中年元騎士と戦うことのほうが重要らしい。何とか頷くと少女はようやく涙を拭いだした。
ああ……思いだしてしまった。彼もそうだった。名誉や金よりも戦うことが生きがいの「”ドラゴンライダー”ヴァンゲン・マットソン」かつての王国最強騎兵で、私が一から育て上げた英雄。あまりに戦場で苛烈で、鎧を着た馬に乗った彼がドラゴンに乗った鬼に見えるということで、その栄誉ある二つ名がつけられたのだ。
クライバー峡谷での殿で惜しくも命を落としたが、彼の捨て身の献身のおかげで私は未だ生きている。いや……あの時、何故
「コウエル師匠!俺を誰が殺せるんですか!行ってください!」
泥と血汗まみれで笑った彼の言葉を信じてしまったのか……。結局こんなことになるなら私が彼の代わりに……。
座り込んでしんみりしていると泣き止んだ少女が近寄ってきて
「頭大丈夫?痛かった?」
心配してきた。私は一応
「アサムリリー君、今が逃げるチャンスだよ?私はそこにある大金を持っていっても追わないが」
と言うと、少女はまた涙目になり俯いてポツリと
「……見捨てないで」
帝国に帰る気はないようだ。いや、一人では帰れないのか。私は苦笑いして立ち上がり、とりあえず実家を見てみることにした。