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騎士引退したおじさんが、廃村を立て直しつつ、クッコロ少女騎士を鍛えていたら強くなった  作者: 弐屋 丑二
騎士を引退させられたトーバンと王国の危機

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手紙

夢を見ていた。


十三年ほど前、王国の東に位置するジャングウ共和国の名将だったジゾール・タオ将軍を傭兵団との連携で破った戦の前後の光景達が取り留めもなく流れていく。


当時、王命で、騎士団補給部隊長だった私が、急遽一万の王国軍のみで構成された大軍を指揮することになった。

そうなった事情は指揮官級の不足によるものだ。当時の王国は帝国と共和国という両国と同時に仲違いをした上に、南の異民族討伐に東西筆頭将軍のクラウス・スライバーとミナ・スミスという老将達が従事していたため、人手が足りなかったのだ。


王国東部のクラーク平原で私率いる一万の王国軍とタオ将軍率いる二万の共和国軍は、東西を分かつ大河であるクラーク河を挟んで対峙した。

私は勝つ気は無く。この戦は王国軍主力の、異民族討伐が終結するまでの時間稼ぎに過ぎぬと見越し、陣地を堅固に造り、その中にひたすら籠もっていた。


一月も滞陣していると、カート傭兵団二千の全軍が王命で雇われ追加で派遣されてきた。

カートは苦笑いしながら

「王様がね、トーバンがやる気を出さぬって愚痴ってたよ」

そう伝えてきて、唖然としたのを覚えている。王は、私を本来の能力以上に高く見積もり、この戦場へと派遣されたようだった。


私は悩んだ。この戦に勝ったところでクラーク河東岸はどうせ維持できぬだろうし、王国が得るものは多くない。そして名将タオには簡単に勝てない。相手側もこちらが渡河しなければ動くことはないだろう。しかし王はどうやら私個人に大きな期待をかけてくれているようだ。


カートと綿密に作戦を話し合い、夜間に北と南から別々に渡河をして、そのまま夜襲を仕掛けようとして思いとどまり、私はタオ将軍に一通の手紙を出すことにした。

その内容はこうだ。


拝啓、高名なるタオ将軍。

この戦を王国より任されたトーバン・コウエルと申します。

宜しければ、お互い大河の小石を持ち帰り、それを新たな領土として国に停戦を持ちかけませんか?


真意が通じれば良いがと、小舟に乗った密使を渡河させた翌朝には返事が来た。


王国騎士コウエル殿のご活躍は共和国でも聞き及んでいます。

人喰い大熊バルボロスの駆除を手伝って欲しいところです。

残念ながら我が国の議会は生真面目な者が多く、小石では満足しませぬ。

さてはて、そちらの国に先日遊びに行ったソリューという放蕩者がおりますが、彼は元気にしておりますか?


カートと私は返事を読み、安堵をした。

王国に亡命した政治犯で手を打つと言っている。直ちに私はカートに頼み、若きソウバリーを王都へ勅使として走らせた。

王の手紙による返事は拒絶だった。

文面はこのようなものだ。


王国騎士トーバンよ。

美しきクラーク河の隔たりを、詩人ウィオラの言葉で表そうではないか。

朝日の中にも色が無数にあるよう、夕暮れの色彩もそうだと言う。しかし私は焼かれるのが怖く美しさを直視できぬ。おお神よ、もし私に星の動きが、黄金の麦が風になびく畑が、彼女の胸が鼓動を打ち生まれ老いていく全てが、一枚の絵画に収められたのなら、この全ての小石が磨かれる河の流すら解することができるだろう。


これは私への叱責の文だ。

暗喩や隠喩が散りばめられた一見称賛と勘違いしそうなその詩の内容を身も蓋もなく要約すると「世界の全てが欲しい」だ。

そして王はそのような欲望を持つ狂人ではないので、この詩を引用した真意は「非常に強い強調」となる。つまり「亡命者は渡さぬ、早く勝利せよ」という叱責だ。


カートに渡すと

「めちゃくちゃ怒ってるね」

「……どうすれば、この無意味な戦を穏便に終えられる」

「勝たせてもらうというのは?」

「賄賂が通じる相手ではない」

カートは笑いながら

「諦めな。あんたの全てを出し尽くせば、倒せない相手ではない」

私は大きくため息を吐いて、クラーク平原の詳細な地図を広げた。


とても凄惨な戦いだった。


半月のうちに借り物の王国軍の半数を失い、傭兵団も有能なカート直々の指揮にも関わらず四分の一が戦死した。

しかし最終的には大河北の浅瀬を渡るというカートの奇策が功を奏し、共和国軍を東岸の河際へ追い詰め、私がタオ将軍を斬った。

その時の彼の実に残念そうな、何処か私を哀れんだ視線は、きっと生涯忘れることは無いだろう。


凱旋将軍として王都へ表向き華々しく帰還した私は、満面の笑みの王から、内心苦々しく受け取った有り余る金銀財宝の下賜品を、密かに全てバルボロス追放工作の資金へと変えた。


戦死者遺族への補償金の支払いなど、一通りの戦後処理を終えた後、しばらく病と称し王都の自宅から出ず、悶々と一軍の将としての責任の重さを考え続けた。

あの時、王を手紙で説得できていれば、多数の命が救えたのだ。私の責任だ。無意味な戦いで無用な犠牲を多数出してしまった。私はそう思った時、強く誓った。

また同じような状況が訪れた時、王国を裏切ってでも多数の命を救おうと。それが結局は王国を救うことにもなる。


タオ将軍に開戦を伝えた手紙への短い返書を今でも私は覚えている。


王国騎士トーバン殿、丁寧なお手紙痛み入ります。王命とのことならば致し方のないことなのでしょう。共和国も開戦をそちらへと告げることとなります。

守らねばならぬものは違いますが、貴公とは別の形でお会いしたかったものです。

きっと話も合ったでしょうに。

では戦場にて。


「あたいはそんなトーバン見たくない!」

見舞いに訪れたカートの一言で私は自宅を出て、王国騎士へ戻った。王からの騎士団を抜け王国将となる話も断り、その後十三年、陰に日向に騎士団へと尽くしてきた。

しかしその意味はあったのか……。


……


「起きたかい」

朝の光に照らされて自室のベッドで目覚める。真横には裸の上半身を起こしたカートが微笑んでいた。綺麗な乳房を眺めていると

「うなされてたから、馬車はブロッサムに押しつけて、一晩介抱してた」

「済まない……クラーク平原の夢を見ていた」

カートは微笑んで

「あれは最悪だった。今回は最高だったけどね」

「あれから、生き続けた意味は、あったんだろうか」

カートは笑い出して

「当たり前だろう!こんな素敵な朝をあたいに与えといて、その言い草はない!」

私が笑って瞳を閉じようとすると

「まだ報酬を半分貰ってない」

「……そっちは役立たずだ」

「試してみないとわかんないだろう?」

カートは吐息を被せながら、私に覆いかぶさってくる。私は薄目を開け、彼女を抱き留める。

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