表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士引退したおじさんが、廃村を立て直しつつ、クッコロ少女騎士を鍛えていたら強くなった  作者: 弐屋 丑二
騎士を引退させられたトーバンと王国の危機

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/51

誰も死なないわ

「コトコト煮込んでーお野菜とお肉のハーモニーですー」

朝の王国軍野営地の外、黒髪をオールバックにして執事服を着た男が広い背中を見せ、機嫌良く歌いながら火に焚べられた大きなスープ鍋に向かっているのを、皮兜を被って顔を隠した私はしばらく黙って眺める。


デリング・マーズ。

王国上級貴族出身で元王国軍特殊作戦部隊長。三十七歳……生殺与奪を握るのが誰よりも好きな男。戦場で彼に捕らえられ弄ばれた帝国軍将兵は少なくない。特に帝国貴族の年端も行かぬ子女が好きなので、王国軍内で長年問題視され、5年前に王命で解雇された。

彼の今後を不安視したカートにより即座に拾われ、傭兵団の補給部隊長を任じられ、その後は表向きは大人しくしているようだが……。


「トーバン様、人の肉など入っていませんよ。私もバルボロスには敵いません」

背中を向けたままの彼の言葉に黙って頷き、近くの土の上に並べられた古びたテーブル席に着いた。

デリングは笑みが貼り付いたツルッとした顔をこちらへと向けると、皿にスープを入れ

「どうぞ。美味しいですよ」

スプーンと共に私の前に置く。黙って啜り、食材が上手く組み合わさっているスープについて

「美味いね」

正直な感想を述べると、テーブル越しの席に座った彼はのんびりした様子で

「でしょう?それで?馬鹿な倅をそろそろやっちゃいますか?」

私は苦笑しながら

「残念ながら、君の考えていることに近い。三百の覆面と頑丈な死体袋を既に手配した」

察したらしきデリングは、よく晴れた朝空を見上げ

「……あー……傷が残らない程度に殴って気絶させないとバレちゃうかもー。……ふふっ、育ちが良いほど、素敵な声で鳴くんですよお」

気味が悪い満面の笑みを浮かべてきた。

「……デリング、私は彼を恨んではいないのだよ。人の上に立てるようになるまで見られなくて、むしろ謝罪したいくらいだ」

彼は「ふふふ」としばらく笑い声を立てると

「トーバン様のお気持ちは心得ました。決行は開戦直後が宜しいですか?」

「ああ……南側に連れて来てほしい。平原を越え、サウザンド丘陵北端に分かりやすく置き去りにしてくれると助かる」

「馬鹿の横に帝国旗でも立てましょうかねえ」

スープを飲み干し、私が立ち上がると

「バルボロスへの対処はお任せしても?南側からと聞きましたが」

「何とか食い止めるまではやってみよう」

デリングも立ち上がり、恭しく頭を下げてきた。


その後私は、王女軍の部隊長が集まる会議へと出席する。

王女軍の一兵卒や補給係に至るまで、背後からバルボロスが来ると意識を徹底して欲しいと伝え、不遜ながら今回の指揮は私が取らせて貰うと述べると、まず王女が拍手をくれ、続けて部隊長達も力強い拍手で同意を示してくれた。そして、今回の戦術についての私からの説明後、王女が

「トーバンの存在は決して漏らしてはなりません。変装した彼を横に置き、表向きは私が指揮をする形とします」

という言葉と共に会議は解散となった。


王女が用意してくれた我々用のテントへと戻り、最期の懸念に取り掛かる。

中で待っていたアダムと少女に

「開戦までにサウザンド丘陵の南側へ行きなさい」

そう告げると、二人は同時に笑い出し

「アダムの言う通りだ!」

「師匠、お側に居させて下さい。この子は俺が絶対に守ります」

「トーバン!一緒に居て!」

私は大きくため息を吐き

「相手はバルボロスだ。簡単にはいかない。私は若い君たちに明日も生きていて欲しい」

アダムは燃えるような瞳で私を見つめ

「ずっと、この身を焦がすような戦いへと向うことを欲してきました。師匠!」

「師匠!」

少女も真似をして見つめてくる。

……正直、アダムの力は欲しい。彼ならばバルボロスが本気を出して来た場合でも、抑え込めるかもしれない。しかし少女に過酷な戦場は時期尚早だ。


私は咳払いをして

「アサムリリー君、開戦前に帝国軍に君を送り届ける。それでいいね?」

少女はショックを受けた表情で

「トーバンも、来る?」

アダムは笑わないように後ろを向き、口を抑えているが、少女にとっては真剣な話なのだ。私は襟を正し

「いや、行けない。私はモーリ王女を助け、できるだけこの戦場で人が死なぬ様にする義務がある」

「じゃあ私もそれを手伝うわ!」

勇んできた彼女に私は真顔で

「帝国に帰れば、貴族に戻れるのだよ?」

少女はしばらく考えると

「……帝国に居ても、強くなれないもん……」

ポツリと呟いて、アダムが堪えきれずに噴き出すと、テントの外へ出ていき大笑いしだした。

この少女の剣術への欲求は底なしだ。もはや親元に戻る気すらないらしい。私は覚悟を決めた。

「アサムリリー君、私が死んだらアダム達と村を頼む。もし、君が死んだら遺体は帝国のご両親に必ず届けよう」

少女は屈託のない笑顔で

「トーバン!大丈夫!誰も死なないわ!」

と言い切り、私は胸が苦しくなる。

それが実現すればどれだけ良いだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ