若き戦士
全身を覆うフードとマントを被せた少女の両手の枷から伸びる鎖を引いていく。
「すまんね。君が逃げたら色々大変でね」
「……なんで私を隠すの……」
ポツリと呟いた少女に
「だって、誰だって嫌だろう?鎖で街を引き回されるのを見られるのは」
少女は黙り込んだ。
「どんな事情があるか知らないが、お金を出してその身を買ったからには、君には今日から私のメイドとして働いてもらう」
「くっ……」
そのまま私は、少女と乗り合いの馬車に乗り込んで、両親が死んでから何十年も帰っていない、実家のある王都から離れた山村に向かった。
半日ほどかけて、村のある麓までたどり着き、御者に二人分の料金を払って降りる。
馬車の中で眠ってしまった少女を背負って夕暮れの山道を登っていく。
夕陽に照らされて思う。私はあとどれくらい生きられるのだろう、騎士団を追い出され、家庭もない私は、生きていた意味はあったんだろうか……。
「ふっ」
自嘲するような笑みが出る。トーバンよ、分かっているだろう?王族でもなく、子種もいない私の人生如きに大層な意味はない。数十年の騎士人生で生き残っただけでも儲けものだ。余生を静かに楽しもう。
何とか、暗くなる前に村までたどり着くと、ひとけの無い廃屋が並んでいた。とっくに地元は廃村になっていたらしい。私は
「あっはっは!」
思わず声をたてて笑ってしまう。背負っていた少女が起きて
「……なっ、何?」
「いや、ここは私の生まれた村なんだが、とうに滅んでいたようだ」
私は少女を背中から降ろすと、鍵で枷を全て解いてやり
「済まなかったね。ここからは自由だ。私を殺して逃げるもよし、ただ逃げるもよし、金を奪うも良しだ」
「……だっ、大丈夫?」
少女は私を心配してきた。
「この様子では我が家も荒れ果てているはずだ。再建には時間がかかる。若い君が付き合うことはないよ」
「……くっ」
少女は何とも言えない顔で、近くに転がっていた長剣ほどの棒切れを持つと、腰を落として両手持ちして構えてきた。
「……名乗れ!貴様に決闘を申込む!」
いきなり威勢よく言ってくる。私は苦笑いしながら、腰を落とし、素手で構え
「元王国騎士!トーバン・コウエル!」
少女は恐怖に満ちた表情になると、それを打ち払うように首を激しく横に振り、こちらに向き直り
「わが名はアサムリリー・ソーバル!ヴァンレイル帝国のソーバル家四女であり!帝国貴族隊特例騎士である!」
やはり、貴族の子女だったか。しかも先日、我が騎士団が打ち破った帝国に従軍していた可能性がある。確かに帝国は女性兵士や士官も多かった。いや……もう我が騎士団ではないな……。
一抹の寂しさを感じて、隙を見せた瞬間に少女は踏み込んで、私の脳天目掛け打ち込んできた。太刀筋は悪くないが鋭さが足らない。私は軽く少女の脇腹を小突いて体勢を崩させると距離を取る。痛くないようにしたはずだが少女は涙目でこちらへと構え直し
「やるな!トーバン!」
などと顔を真っ赤にして必死に粋がっている。若き戦士というのはかわいいものだ。