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騎士引退したおじさんが、廃村を立て直しつつ、クッコロ少女騎士を鍛えていたら強くなった  作者: 弐屋 中二


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16/25

敬虔なる死神女

それから一ヶ月ほど、村での日々は忙しいが穏やかで平和に過ぎていった。


少女は白猫を追いかけ回すが決して触らせてもらえず、その猫が懐いているアダムにつきまといながら自然と村での生活に馴染んでいった。

川釣りを覚え、木の実の採り方を知り、そして剣術の修練も欠かさずにやり続けている。

大したものだなと思う。若いというのもあるが、生活についての様々なことを覚えながら、剣術もサボることなく、素振りや基本の立回りについても疑問があるとすぐに私に尋ねてくる。良い弟子だ。

……当初期待した生活の補助者としては物足りないが、まあ、そこは目をつぶることにしよう。


ビョーンは自らの家とアダム一家の家屋を一週間ほどで完璧に修繕してしまい、井戸水も問題なく使えることが確認できたので飲水の管理をやってくれている。

さらにアダムの母親モスと仲良くなった彼は、畑に加え、養鶏を覚えつつあるようで、モスのようにいつか鶏やロバ喋れるようになりたいとよく私に言ってくる。

喋れるかは私には分からないが、少なくともモスは鶏やロバと意思疎通のようなことは出来るようだ。


アダムはと言うと、少女に付きまとわれながら白猫の面倒を丁寧にみてやりつつ、私と村内の荒れた畑を復活させるべく毎日汗水流して耕している。加えて、時間が空くと川釣りと木の実採取で村の食料補充も欠かさないので、我々はほぼ金を使わずとも飢えることはなかった。

調理はモスとビョーンが喜んで担ってくれるので、私とアダムは畑や食料調達に専念していた。


ああ、そう言えば村が復興しつつあるという噂をどこからか聞きつけた薬売りの丸眼鏡の男がやってきて、やたらペラペラしゃべるので対応を沈毅なアダムに任せたこともあった。私が見た限り、諜報員のメアリーに定期監視のために派遣された部下である確率は5割といったところだ。


そんな毎日を繰り返し、ある程度は畑の土も整ったので、まずは栄養価が高く、収穫の早いジャガイモ畑を作るべく、私とアダムに加え、モスとも話し合いながら田植えをしていた日のことだった。


少女が慌てた表情で駆けてくる。

「トーバン!大変!襲撃かも!武器持った人たちが村の入り口にたくさん!ビョーンが相手してるけどたぶん無理!」

私とアダムは即座に立ち上がると、畑の脇に立てかけておいた害獣避けの樫の枝を削って作った棒をそれぞれ握り、少女とモスに畑に居るように言って全速力で入り口へと向かう。


「こ、困りますです!こ、ここは私たちの村で!武器はダメにございますです!」

ビョーンの声が聞こえてくる。同時に男女の

「トーバンに会わせろって言ってんだ!あたいの話聞いてねえのか!」

「兄ちゃん!団長の言うこと聞いてくれや」

「悪りいけど、団長が会いてえって言ったら絶対なんだわ。従ってくれねえかな」

その声を聞いて私とアダムは同時に警戒を解いた。私は走りながらアダムに

「私が対応する。ビョーンさんを守ってくれないか」

「了解です師匠」

アダムは微笑んで少し速度を緩めた。


私が棒を派手に投げ捨て両手を上げながら近寄り

「降参だ!カート!村を明け渡す!」

もちろん冗談で笑いながらそう叫ぶと、成人男性とほぼ変わらぬプレートメイルを着た体格に、まるで死神が持つような長い鎌を背言った女性は、肩まである茶色のウエーブヘアを揺らし、澄んだ真っ青な瞳でこちらを見てきた。

相変わらず傷一つない綺麗な顔だ。

カート傭兵団の団長カート。

戦場では数十年の付き合いになる優秀な戦士であり、戦場での進退の見極めが絶妙な高名な指揮官。

私とほぼ同年代なのに異様に若いのは、酒も薬もタバコも、男もやらないからだ。

戦場では敬意と嫌悪を持ってこう呼ばれている

「敬虔なる死神女」と。


一瞬、両目に涙を溜めたカートは、それを必死に拭うと、予想通り、素早く鎌を部下に手渡し、迷わず素手で私に殴りかかってきた。

右手で受け止めると、次は左足での鋭い回し蹴りが宙を切り裂き、私はバックステップで避け、少し距離を取る。

カートは怒っているような嬉しそうな表情で再び目の辺りを拭うと

「トーバン!怪我もなさそうだ!あんたみたいな最高の騎士が農民ごっこかい!」

私に向け指を差し、煽ってきた。

農作業服の土を払い忘れたな、と苦笑いしている私の背後から一陣の風のように、カートの後方に控える傭兵団の十名の屈強な男女の戦士たちの中へと、気配を消したアダムが素早く入り込み小柄なビョーンを抱え上げ、流れるような動きで私の隣まで戻ってくる。

カートは目を丸くして、私と同じく土塗れのアダムを見つめると

「ああ……王国は、滅びるんだね……」

力なくそう言って、何故かその場に座り込んだ。

傭兵団の戦士たちが驚いた表情でカートに駆け寄り

「団長!お気を確かに!」

「水だ!ギャレット!てめえの水飲ませろ!」

「兄貴!酒しか……」

「馬鹿野郎!団長は酒飲まねえんだよ!」

「ボウニー!若い子にそんな言い草はないだろう!」

「てめえら喧嘩してしねえで団長を何とかしろ!」

荒々しく揉め始めた。

常に強気を崩さないカートが崩れ落ち、慌てているようだ。確かに私も彼女のこんな姿は初めて見る。

先日王都で出会った団員のソウバリーが仕方なさそうに私の前に出てくると

「トーバンのおっさん、この村で団長を休ませてえ。宿代は払う」

金貨を1枚見せてきた。

「代金は後でカートから貰う。全員、私の家に連れてきてくれ」

「ありがてえ」

ソウバリーは団員に告げに行き、私は楽しげなアダムと震えているビョーンに

「アダムは私と家に。ビョーン君は畑にいる女性たちとアダムの家に行ってくれ。鍵は閉めて決して出ぬように」

2人は頷き、ビョーンは村の奥へと走って行った。

アダムは長身から微笑みながら

「この間、村を尋ねてきた薬売りによると、王国の帝国への戦争準備に対して、カート傭兵団は不思議なほど動きがないとのことです」

小声で言ってきた。

私は武骨者ばかりの団員たちが恐る恐るカートを抱え上げるのを見ながら、厄介事に巻き込まれる覚悟を決めた。

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