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騎士引退したおじさんが、廃村を立て直しつつ、クッコロ少女騎士を鍛えていたら強くなった  作者: 弐屋 中二


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14/25

素晴らしいステップ

ロバとアダムが2台の荷車を引き、坂道は私とビョーンも後ろから押して手伝いつつ、どうにか深夜には廃村へと帰ってこられた。


アダムは中央の広場から月明かりに照らされた廃村を見回し、感動した表情で

「師匠、俺、ここ好きです」

ニカッと笑ってきた。小柄なビョーンが背の高いアダムに緊張した表情で近づいていき

「アダムさん、お母様、ニワトリさんとロバさんたち、あの家でございますです」

村の西側の荒れた広い畑跡がある二階建ての廃屋を指さした。

アダムは一目で気に入ったらしく

「ビョーンさん、鍵はありますか?」

「新たなるものをケンリュウさんに作っていただいている最中でございますです。今回は私が開けますです」

私がアダムに

「鍵開けの名人だが、彼に悪意は微塵もない。心配する必要はない」

と言うと彼は察した表情で

「悪意には慣れていますから。分かります」

頷いて、ビョーンと母親のモス、ロバのロザンナと共に廃屋へと、鶏小屋や荷物の満載された荷車を引いていった。

……確かに王都宮殿内は悪意と権謀術数の世界だった。何度、騎士団を取り込もうとする高官や貴族の策謀をかわしたか分からない。宮殿警備だった元近衛兵のアダムも大変だっただろう。


私は我が家へと、よく寝ている少女と果物、そしてジュースが満載になった荷車を引いていく。荷車を家の前に留め置き、鍵を開けていると

「トーバン、お腹空いた」

少女が良いタイミングで起きてきた。

「アサムリリー君、荷物を家の中に持ってきてもらえないかな」

「うん……リンゴ一個食べてからでいい?」

「もちろんだ」

私は扉を開け、カンテラの火を移し、一階の明かりを点けて回ると荷台に戻り、少女がゆっくりとリンゴを食べている横で、素早く袋ごとに果物を詰め替え、ジュースの瓶を次々に室内へと運び込んでいく。

騎士団輜重隊に所属していた時のスキルだ。食料は戦場において最重要要素の一つで、適切に保管、管理がなされなければならない。

すでに昨日、この実家の地下倉庫を清掃しておいた。キッチン横廊下の床に設置された扉を開け、カンテラを持ちながら階段を降りていく。


端に古い椅子が重ねられただけの、物がほぼ無い地下室内へと入り、カンテラを入口付近の石壁にかけると同時に、微かな気配を感じ、私は腰を落とす。

……なんだ?敵意……いや怯えか?気配は……小さいな。

気配の正体の察しがついた私は、大きく息を吐き、全身の力を抜き、完全に警戒を解くと、重ねられた椅子の場所まで足音を立てずに近づいてしゃがむ。

「出ておいで、大丈夫だから」

「……ニャーン……」

か細い声がしてやせ細った白猫が出てきた。私の伸ばした両手に収まる大きさなので、まだ子猫のようだ。昨日の掃除中に入り込んだのかもしれないが、私の目を欺くとは……中々の才能の持ち主のようだ。

ああ、そう言えば、カートが……傭兵団女団長の女傑が、猫に目がなかったな。などと思い出しながら、大事に子猫を両手で持ちながら階段を上がっていく。


何か、猫が食べられそうな果物は……と思いながら入り口近くまで行くと、室内に入ってきた少女が両目を丸くして口を大きく開け、興奮した表情で私を指さしてきた。

「かっ、かわいいいいいい!それちょうだい!それ私の!トーバン頂戴!」

鼻息荒く駆け寄ってきた少女に手の中の子猫が怯えを見せたので、身体を横にして少女の興奮から守ると、少女は軽やかな身のこなしで流れるように私の正面に回り込んできて、一瞬、見惚れてしまう。見たことのない素晴らしいステップだ。戦場ならもう私は、この子に斬られていただろう。


「トーバン!猫!子猫!白い!モフモフしたい!あれ……どうしたの?」

少女が首を傾げたので正気に戻った私は

「……いや、ふむ、猫は飼ったことがないのかな?」

「うん!ミルクあげるんでしょう?」

私は苦笑いしながら

「ミルクは牛のお乳だろう?猫や犬に飲ませると下痢をする元になるのだよ。猫は繊細なのだ。ブドウや大根、タマネギなども食べさせたらいけないよ」

「……しっ、知らなかった……じゃあ、何あげたら……」

家の開きっぱなしの扉を腰を落として潜って、大男のアダムが入ってきた。彼は苦笑いしながら

「師匠、母さんとビョーンさんに追い出されました。二人とも意気投合して……お、猫ですか」

アダムは私から子猫を受け取ると、大きな掌の中でその身体を撫でながら調べ

「ノミも居ない、痩せてますね。白猫は目立つから野生では生き残り辛い」

と言いながら、片手に猫を乗せ、左手で小ぶりなリンゴを袋から出すと、あっさりと握りつぶした。そして、潰したリンゴを長い指で選り分けて皮を除けながら、白猫の口元に持っていく。

チロチロ舐めながら少しずつ食べる白猫を彼は満足そうに眺め、羨ましそうに少女がそれを見て、急に閃いた顔で小ぶりなリンゴを潰そうとして、当然出来ずにムキになって顔を真っ赤にしながら、両手でリンゴを潰そうとしだした。


「アサムリリー君、戦士には向き不向きがある。君は力ではないよ」

「でも!でもトーバン!私!アダムにも負けたくないの!いつか勝ってみせるから!」

アダムは穏やかに微笑みながら、白猫を連れて行こうとして、少女から

「私の!取らないで!モフモフ!」

抗議されてニヤーッと美しく笑いながら猫を掌に乗せたまま出て行き、少女が慌ててついて行く。

気遣い屋の彼らしい計らいだ。白猫と少女を同時に連れて行ってくれた。これで食料の整理が捗るだろう。もう深夜だ。素早く済ませ、早く寝たいものだ。

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