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トーバン・コウエル

「もう仕事辞めろ、ハゲジジイ」

「……騎士団に定年はないはずですが」

「ジジイが居ると凱旋パレードの見栄えがわりいんだよ。ハゲてんじゃねえよ」

この失礼な赤毛赤目の若者はマルバウ。残念ながら我がローファルト王国騎士団長だ。マルバウはローファルト王家の三男で、大学卒業と共にこの騎士団の長になった。もちろんコネだ。


私はトーバン・コウエル、騎士団長補佐で齢五十五歳の働き盛り。家柄にも見た目にも恵まれず、女性と縁遠い故に独身妻子無し。騎士団での戦歴は長く、数多の前線での戦闘から新人教育、補給に書類書きまで何でもこなしてきた。しかし、マルバウが赴任してから、私の仕事は次第に取られていき、今ここ、騎士団長室で退職を求められている。


「ジジイ、その見た目にお似合いの糞尿掃除係の一兵卒になるか、辞めるか今すぐ選べ」

マルバウは万能感に満ち溢れた挫折を知らぬ若者らしい、冷たい物言いで冷酷な選択を迫ってくる。私は大きくため息をついて

「辞めますよ」

静かに机に鞘に入った騎士剣と、誇りだった十字の騎士団印を置いた。


数日後。


幸い王国の手厚い年金の受給資格と、少なくない額の退職金を得た私は、自宅も引き払い、田舎に引っ込んで隠遁生活でも送ろうかと王都大通りを歩いていた。薄汚れた少年のスリが、退職金の入った私の布袋を狙ってきたので軽く締め上げて、路地裏に連れて行き、3枚の金貨を渡す。

「い、いいの?」

「ああ、だが秘密だ。大事に使って、奪われないようにしなさい」

彼は真剣な眼差しで深く頷くと素早く去っていった。


彼の人生にいらんお世話だったかもなあ。と反省しながら市場を歩いていると

「奴隷売ります!」

という看板が目についた。そうか、田舎暮らしでも家事を手伝ってくれる人手がいると助かるなあ。ちょっと見てみようか。

土壁でできた粗末な店の扉を開けると、鎖に繋がれて牢に入れられた若い男女が数人目についた。みんなボロ布を着て目が死んでいる。すぐに揉み手をした強そうな筋骨隆々とした老婆が寄ってきて

「……家事の担い手かえ?」

目的を見抜いてきた。店の主人のようだ。

「わかります?」

と苦笑いすると

「奥も見ていきなされ」

とカウンター奥に連れて行かれた。


奥の牢屋には、一人の金髪碧眼のボロ布1枚着た少女が縄でグルグル巻きにされて横たわっていた。目鼻立ちの整った顔、短く切りそろえられた髪とまっ白な肌の手足は庶民の出ではないと分かる。少女は私と老婆を見るなり

「くっ……殺せええ!」

怒りに満ちた瞳で絶叫してきた。しかし、腹にどこか力が入っていない、覚悟の足りないその言葉は戦場を往来してきた私には微笑ましく聞こえた。老婆は煩わしそうに

「金貨1枚でええよ。あんたならどうにかできるやろ」

私は少しだけ、この少女に、生意気だったかつての後輩たちを見てしまう。騎士団での教育係だった日々を思い出し懐かしくなり、つい

「引き受けましょう」

と言ってしまった。

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