6 歴史を変える覚悟
「私は蒼焔と言います」
(へ?)
そ う え ん ? 蒼焔!?
「えっと、あの、それは、つまり・・・?」
「一応、この国の第一皇子ですね」
皇子だった。
(えっ、じゃあ、この人この後跡継ぎ争いをするということ? ・・・あれ?蒼焔という皇帝は歴史を学んでも出てこなかった。それはつまり、この人は殺されて、皇帝にはなっていないということ)
その考えに思い至って、ゾッとした。
(・・・そんな。記憶がないとしても、せっかく会えたのに・・・!)
「あの、大丈夫ですか?」
黙っていたら声をかけられた。心配させてしまったようだ。
「あっ大丈夫です」
「それはよかった。それでお礼がしたいのですが」
「はい」
(彼は私を救ってくれた。だからお礼がしたい。でも彼は死ぬ。私は生きているのに・・・。
・・・救いたい。何としてでも彼に生きてもらいたい。でも、彼が生きるということは歴史を変えるということ、なら私は、―歴史を変える覚悟― を持とう)
歴史を変えるということは未来を変えるということ。
それはつまり、起こるはずのなかったことが起きる。それが幸な出来事か不幸な出来事かはわからない。だが不幸な出来事だった場合、それが大きければ大きいほど人の命を奪うことになるだろう。
だから、葵は覚悟を持つ。歴史を変える覚悟を。これから起こる、起こるはずのなかった出来事に。
(まずは何をするべきかな? 目的は彼―蒼焔皇子を助けることだが、いきなり、私を傍においてくださいと言うのは皇子に対してただの無礼者だし、警戒されるだろう。それにこの時代の常識を知らない私が普通に生活できるかもわからない。・・・なら、今やるべきことは、皇子に私のことを覚えてもらうのと、生活するための資金を手に入れることか。なら―)
「蒼焔皇子」
「なんですか?」
「私は旅のものなのですが、旅の途中に路銀をどこかに落としてしまったのです。ですので、しばらくの間、生活できる資金をお礼としていただけないでしょうか」
「お金ですか? そんなものでよいのですか?」
「はい」
「そうですか、では、五丸!」
「はっ!」
部下の一人がお金の準備を始めた。
(よし、資金ゲット! あとは覚えてもらうだけ。・・・もう記憶に残ってるのでは? だって、体操着にパーカー着てんだよ? この時代の人にとっては私、結構おかしい恰好をしているのでは?)
「それにしても、葵は独特というか不思議な服を着ているのですね」
「そ、そうですね」
(服で覚えられている。いいような、悪いような)
「・・・新しい服、買います・・・」
「あっ、なら私が代金を払います」
「あ、ありがとぅございます」