5 蒼焔
土煙が上がった。
「なんだ?」「土煙?」「おい、どうなってんだ!?」「知らねえよ!」
里の人達も騒いでる。それほど珍しいのだろう。
(・・・ここからじゃ、様子がわからない・・・)
「何があったか、少し見てきます」
「あんた、やめときなよ」
様子を見に行こうとしたらおばさんに止められた。
(うーん。こういう時、魔法が使えれば楽なんだけ・・・ど。・・・使えるのでは?)
転生しても葵の中には前世の魔力が、白竜の力があった。
だが葵は転生してから一度も魔法を使ってない。
必要ないから、目立つから、使いたくないから、でも一番は怖いから。
しかし、転生して16年。前世と違い心穏やかに過ごしてきた葵はもう魔法を使うのは怖くないと思っていた。
(使ってみよう。大丈夫、視力を強化するだけ)
「<視力強化>」
(! 成功!!)
視力を強化して葵が見たのは、
「!? 人が戦っている! いや、あれは襲われている・・・?」
数人が数十名に襲われている光景だった。
「あんた、あんな遠い所がみえるのかい!?」
隣でおばさんが驚いているが今は放っておこう。
見たところ、襲われているのは三人、襲っているのは二十人という感じだ。
(助けないと)
すぐにそう思った。
「ちょっと助けに行ってきます。<身体強化>!」
「ちょっ! あんた! 待ちな! あんたが行ったところで何にもならんよ!!」
おばさんが止めに入る前に、<身体強化>を使って走り出した。
(絶対に助けきゃ。・・・確認しなきゃ・・・!)
<視力強化>で見えたもの、
それは襲われている光景だけではなかった。
襲われている三人の内の一人。その人の髪色は、
紺青色だった。
紺青色の髪。
それは前世で私が生きるというまで、一緒に死ぬといった青年の髪色と一緒だった。
そんなはずはないと思いながらも私は走った。
私という前例があるのだからもしかしたらと思ったのだろう。
ひたすらに走った。
ただ一言、ありがとう、と言いたかった。
転生して、私は最初は死のうと思った。でも、青年の言葉をおもいだして、彼を死なせるわけにはいかないと、生きる覚悟をした。
そして、生きてみてわかった。人生は苦しいこともあるけど楽しいことはもっとあるということに。
彼が救ってくれた、気付かせてくれた。だから、お礼がしたかった。
(ありがとうと、言いたい。だがまずは助けなければ)
戦っている場所に到着して、私は手始めに近くにいた襲っている方の人を数人、身体強化した足で蹴り飛ばす。
そして、紺青色の髪を持つ男の方を向いて、
「加勢します!」
と言った。
すると、男はこちらを振り向いた。その瞳の色は、
「!?」
青みがかった黒だった。
(瞳が・・・金じゃない)
そう困惑していると、男が口を開いた。
「加勢、感謝します! でも、絶対に死なないでください!」
その声、言葉を聞いて、困惑していた私は、私の魂は、確信した。
(彼だ。あの青年だ。瞳の色は違えど、彼であることに変わりはない)
やっと会えた。話ができる。ありがとうと言える。
(・・・ゆっくり話がしたい。・・・そのためには早く邪魔者を倒さなければ)
「<身体強化・三倍>」
(一分で、片づける)
一分後。
葵は本当に一分で二十人全員を片付けた(殺してはいない)のだった。
(さて、これで話せる)
葵は三人の方へ振り向く。
「っ!」
(・・・驚いた。そっくりなのは髪の色と声だけかと思ったけど、顔までそっくり。それもそうか、私も髪色以外は前世と一緒だったし・・・)
「・・・お怪我はありませんか?」
「ええ、おかげでかすり傷程度です」
「それはよかったです」
(さっき、私に死ぬなと言った声と同じなのに、同じじゃない・・・)
「あの、よろしければ、名前をうかがっても?」
「え?」
(そうか。彼は私と違って記憶がないのだろう。記憶がないなら前世で彼が経験したことも覚えていないだろうし、性格が変わるのも仕方ないだろう)
「私は葵。月城葵と言います。」
(でも、彼は彼。前世も今世も関係なく、私は彼にお礼がしたい)
「葵ですか。いい名前ですね。私は蒼焔と言います」
(へ?)