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転生タイムスリップ  作者: Ari
第二章
44/44

43 寝顔

(どうしてあんなに必死だったんだろうか・・・まあ、いいか)


 いっつんと亮の謎行動を疑問に思いながらも、時間を無駄には出来ないのでさっさと蒼焔様を起こしに行こうと思う。


 コンコン


「蒼焔様~」


 シーン


 ノックをして声をかけてみたが反応はなかった。おそらくまだ寝ているのだろう。


「入りますね」


 一応声をかけてから部屋に入った。

 蒼焔様の部屋は居間と寝室に分かれている。当然ながら居間に蒼焔様の姿はなかった。

 居間で寝ていたら亮が説教するだろうからね。

 私も怒るだろうなあなどと考えながら寝室へ向かう。寝室への扉は閉まっていたのでノックをしてみたが反応がなかったので勝手に開けて入る。


「蒼焔様~、朝ですよ。起きて・・・っ」


 部屋に入った私は目の前の光景を見て、思わず息を呑んだ。 

 寝室は窓から差し込む太陽の柔らかい光でとても幻想的だった。

 そして、その中にいる我が主も光に照らされ神秘的に輝いている。まさに神々の祝福を一身に受けている。この光景を見た者すべてがそう思うだろう。

 

「かっこいいなぁ・・・」


 自分でも気づかないうちに寝台の横に座って、そんなことをつぶやいていた。


「・・・」


(今の、わっ私が言ったの・・・!!?)


 どうして急にそんなことを思って口にしたのかわからなくて混乱してしまう。とりあえず、寝台から離れて感情を落ち着かせる。


(お、落ち着け落ち着け。・・・別にかっこいいと思うのは悪いことじゃないし、客観的に見ても蒼焔様はかっこいいし、これはそう、ファンがアイドルに向ける推しは神様みたいなオタク的なやつで・・・って何、訳の分からないことを考えているのっっ!!)


 全く落ち着けなかった。


(とっとりあえず! 早く蒼焔様を起こして食堂へ連れて行こう。時間が経てば、この変な感情も落ち着くだろうし・・・平常心平常心平常心)


 無理やり心を落ち着かせ、蒼焔様の眠る寝台へ近づく。

 しかし顔を見ないようにと思っているのに惹かれるようにその顔を見てしまう。


 すっと通った鼻筋に、形の良い眉毛。自信ある眼を飾るであろう長い睫毛。夜の空を切り取ったかのような紺青色の髪に光が当たると吸い込まれるような藍が浮かび上がり、神秘的な輝きを放っている。

 完璧という言葉が似合う顔が、静かに寝息をたてている。


 ゴンッッ


 私は自分の額を壁に思いきりぶつけた。


(いたい・・・・・はあ、やっと平常心に戻った・・・。何を考えているんだ。早く起こさないと・・・)


「葵? 壁に向かって何をやっているんだ?」


「そそっ蒼焔様!?」


 壁に向かって、一人で考え事をしていたら背後から声がかかった。どうやら、さっきの音で起きたみたいだ。自分から起きてくれたのは助かるが、恥ずかしい所を見られてしまった。


「! おい、額が赤いぞ、ぶつけたのか? 見せてみろ」


「いえ! 何でもないです。大丈夫です。気にしないでください」


 額を髪で隠しながら答える。


「しかし――」


「それより!! 早く着替えてください。朝食の準備も出発の準備も全てできていますので、あとは蒼焔様の準備だけです。さあ、お早く! さあ!!」


「あ、うん、はい」


 何とか勢いで誤魔化した。

 危ない。この正体がわからない感情のせいで今は冷静じゃないからね。あまり近づかれると困ってしまう。


 この後蒼焔様は何も聞かず、素早く着替えて食堂に向かった。

 私は食堂まで護衛をして、すぐ戻って部屋の片づけを始める。


「はあ、おでこが痛い・・・強くぶつけすぎたかな。<治癒(ヒール)

・・・うん、痛くない。額も・・・もう赤くないね」


 部屋にある大きな姿見で確認する。

 完全に治ったのを確認し、また片付けに戻った。





「ねえー、蒼焔様~」


「なんだ、亮」


「僕とーいっつんがー作った機会はうまく活かせました~?」


「? ・・・ああ、なるほど。葵が一人で起こしに来たのはそういうことか。だが、機会とはどういうこと――」


「それで、どうだったんですか?」


「え? うーん。少し挙動不審になっていたのは気になったが・・・」


 亮と五丸は目を合わせる。


(挙動不審になっていた・・・? あの、葵が? それはつまり――)


(蒼焔様のーかっこいい寝顔に惚れたに決まっているよーー!)


 お互いに確認し合い、確信する。


「蒼焔様、あと少しですよ」


「は? なにが?」


「僕の見立てではーあと一押しすれば、完全に落ちるねー」


「なにが、落ちるって?」


「「頑張ってください(-)」」


「?」


 従者の先回りな行動に困惑するしかない主であった。

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