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転生タイムスリップ  作者: Ari
第二章
42/44

41 心配とありがとう

「やっっと着いた」


 少々時間がかかったが必要なものを買って領主館に帰ってくることができた。

 ただ、亮に一時間で帰って来いと言われたのにも関わらず、結局三時間以上かかってしまったが。

 

(まあ、しょうがないよね・・・。しょうがない。二時間ぐらいのオーバーなら大丈夫・・・だよね? 大丈夫な・・・はずだ・・・)


 急に怖くなってきたが過ぎた時間は戻ってこないので、潔く蒼焔様達がいる部屋に向かった。


「ーーせ!、~ーー!!」


「ーーーーてください!!」


 部屋に近づくにつれて何やらもめている声が聞こえてきた。


(何かあったの? とりあえず急ごう)


 急いで三人のいる部屋へ向かった。

 部屋の前まで来ると中の声が結構、いや丸聞こえだった。


「三時間だぞ!! もう三時間も帰ってきていない。 絶対に何かあったんだ!! 探しに行かなければ!」


「だーかーらー!! 落ち着いてくださいってー!! 心配なのはわかるけど先走らないで! それに何かあったとしても! 暗殺者三十人相手でも怪我一つなく勝てる葵が怪我するわけないでしょー!?」


 蒼焔様と亮が言い争っているのが聞こえた。

 そして内容を聞く限り言い争いの原因が私だというのがわかる。


(二時間オーバーはまずかったか・・・あと、一時間早ければっ・・・!)


 一時間オーバーも普通にアウトである。


(どうする? 普通に部屋に入るか・・・いや、今入るのはまずい、絶対に怒られる。二人が少し落ち着いてから入ることにしよう。・・・そうだ、厨房でお茶を入れてもらって二人に持っていくか。戻ってくる頃には二人とも落ち着いているだろうし、お茶で疲れも取れて、一石二鳥・・・)


 そう考えながら、厨房へ向かう――その時だった。


「どこに行くんだ?」


 後ろから肩をつかまれながら問いかけられた。

 恐る恐る後ろを振り向くと・・・


「いっつん・・・」


 キレた顔で無理やり笑っている五丸がいた。


「いっつん・・・まあ、この際、そのあだ名はどうでもいい。それで? どうしてこんなに帰ってくるのが遅れたんだ? それと帰還の報告もしないでどこに行くつもりだ? なあ?」


「いや、あのー、えーと、これには・・・理由が・・・そう! 理由があるんですよ」


「言い訳か?」


「いや、理由・・・」


「知っているか? 世の中、それを言い訳というんだ」


「・・・はい。・・・でも、本当にちゃんとした理由が――」


「言い訳は蒼焔様と亮と聞くから。ほら、早く部屋に入れ」


「今はやめておいた方が・・・」


「入れ」


 キレていて少し怖いが有無を言わさぬ五丸になにか言い返したい。五丸に言われっぱなしはなんか嫌なのだ。


「いっつん。ひどいです!」


「知るか。一時間で帰ってこなかったお前が悪い。しっかり怒られろ」


 失敗である。少しくらい効くと思ったのだが・・・。なぜだ!?

 逆になんで効くと思ったのか・・・。まだ出会って一週間も経っていないのに・・・。

 ひどい言葉に耐性がないと思われていた五丸であった。


 「ふー」


 結局、部屋に入ることになったのだが中ではいまだに言い争いが終わっていない。あまり、入りたくない雰囲気だ。できることなら、今すぐに逃げたい。だが・・・


「おい、さっさと入れ」


「・・・はい」


 後ろに五丸がいて逃げたくても、逃げられない。


(くっ! 腹をくくるしかない・・・。よし! いくぞ!)


 決意を固めて部屋の扉を開ける。


 ガチャッ


「・・・ただいま戻り――」


「「葵!!」」


 反応が速い二人である。

 

「葵ー! 遅いって! 二時間も何を――」


「葵!! 大丈夫か!? 怪我はないか?」


 亮による説教が始まるのかと思ったが、そこに蒼焔様が割って入ってきた。

 そして、きつく抱きしめられた。


「へ?」


 なんとも間抜けな声が出てしまったがこれはしょうがない。男の人に抱きしめられるのは前世のあの時以来。言ってしまえば今世では初めてなのだ。さすがに照れる。


「あ、あのっ、蒼焔様! 離してくださいっ」


「断る」


「えぇー・・・」


 もう少し悩んでよ。

 しかし、絶対に離してくれない感じだったので、離してもらうのは諦めることにした。


「・・・なぜ、こんなに帰ってくるのが遅かったんだ?」


 しばらく、動かないでいると、少し気が済んだのか抱きしめる力を緩めて、質問してきた。

 これは何と答えるべきか。


「えっと、いろいろあって・・・、でもっ大丈夫ですよ! 何もなかったので。心配させてしまってすみません」


 家臣想いの蒼焔様のことだ。とても心配させてしまっただろうから、とりあえず謝ることにした。双剣ことなどは別に後からでもいい。


「なぜ謝る?」


「え?」


 謝るのは良くなかったんだろうか。でも、心配させたら謝るのは普通ではないだろうか。どういうことだろう?

 私が不思議に思っていると、蒼焔様は私の顔を見てこう言った。

 

「・・・確かに俺は心配した。だが、それに対して謝る必要はない。そこは『ありがとう』と、言ってくれた方が俺は嬉しい」


「!」


(なるほど。そういうことか。確かにこの人はそっちの方が喜ぶだろうな)


「蒼焔様、心配してくれてありがとうございます」


「ああ」


 私がありがとうと言うと、蒼焔様は微笑んで返事をしてくれた。

 その笑顔はいつもの自信のある笑顔ではなく、外面である第一皇子の笑顔でもなかった。

 知らない笑顔。でも、


(どうしてだろう・・・。この笑顔を見ていると心が満たされていく。それとなぜだか胸がキュッと締め付けられる感じがする・・・。病気かな?)


 いつまでも続いていくかのような錯覚を覚えた。



「はいはーい!! いい感じになっているところ悪いけどー、そういうのは二人きりの時にやってくださいー!」


 亮のその一言で現実に引き戻された。


「え、あ、あっ」


 そういえば、ここには亮といっつんもいるんだったー!!

 慌てて蒼焔様から離れた。


(はずい・・・。亮といっつんに見られてた・・・)


「「亮!!」」


 蒼焔様と五丸がなぜかキレている。マジでなんでキレてんの?


「亮、なんで水を差したんだ。結構いい雰囲気だった――」


「だーかーらー、そういうのは二人きりの時にやってくださいー! 見学させられるこっちの気持ちも考えて? それに葵は見られるの嫌なんじゃないー?」


「ぐっ」


 二人は反論できなくなった。

 さすが亮と言うべきか。


「さてー、葵? 話が有耶無耶になりそうだったけどー、僕は見逃さないからね? 二時間も過ぎて帰って来た理由ー、話してもらおうかー?」


「あ」


(そうだった。そっちを完全に忘れていた)


 私はおそらく相当怒っているであろう亮に対して、慎重に言葉を選んで説明するのであった。







 

テスト明けっていいですよね。

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