36 書類仕事
張白を外の兵士に渡すために隠し部屋から出る。
すると、気絶から目覚めていたのか、先程の執事がこちらに近寄ってきた。
「張白様・・・」
「は、博文! 早く私を助けろ!!」
まだ、諦めていなかったのか執事に助けを求めている。
「ですが・・・」
「私の命令に逆らうつもりかっ!? 孫娘がどうなってもいいのか!?」
「っ!! そ、それだけは・・・」
(なるほど、このおじいちゃん執事が張白の命令に従っていたのは孫を人質に取られていたからか・・・)
「人でなし・・・」
つい、言葉がぽろっと出てしまった。
決して意図して言ったわけではない。
「なんだとっ!!? この無礼者!! 今なんて言った!?」
小さいつぶやきのはずだったのだが・・・聞こえてしまったようだ。
「何も言ってませんよ。人でなしさん」
「今もさらっと言っているではないか!?」
(あ、つい本音が・・・。しょうがない、蒼焔様を侮辱した張白が悪い)
葵は根に持つタイプである。
張白を兵に引き渡し、牢屋に入れてもらった後、私達は部屋に戻ってきた。
ちなみにおじいちゃん執事のお孫さんはちゃんと解放された。
一件落着と言いたいところだが、
「はあー、これから後始末をするのか~、大変だ」
先ほどの件も含め、この家の後始末をしなければならないらしい。
すでに大量の書類が部屋の執務机の上に置かれている。そして、いまだに増えている。
(皇子って大変なんだな)
「葵~? 一応言っておくけどー、僕たちも手伝うんだからね~?」
どこか他人事のように考えていたのだが、違ったらしい。
だが、これだけは言わせてほしい。
「無理です」
「無理じゃないよー」
別に勉強ができないわけじゃない。むしろ前世の記憶を持っていたおかげで頭はいい方だ。
だが、
(書類仕事はちょっと・・・)
私は資料など書類の作成などがあまりできない。できたとしても、内容がごちゃごちゃしていて大変分かりづらい。友達からも総合の授業の時など、「資料作りは自分たちがやるから、葵は違うことをお願い」と言われたくらいだ。
そんな、私に手伝えと?
「無理です」
「なぜ二度言ったー?」
「亮。葵が嫌がっているではないか。やめろ」
「そこ、甘やかすのやめてー?」
十分後。
「葵ー・・・僕が悪かったよ・・・書類仕事はもうしなくていいよー・・・」
「わ、わー、やったー」
何を言っても、亮は全員でやった方が速いとしか言わなかったので、実際に私の才能のなさを実感してもらうことにした。そして、案の定、もうするなと言われた。
やったね!
でも何だろうか、この複雑な感情は・・・。
書類仕事などができないのを意外と気にしている葵であった。
あれ? 今日はいっつんがいないな。
登場させるつもりだったのに・・・おかしい。




