2 前世・前編
私が前世に生きていた世界は一度、滅亡しかけている。
白竜によって。
世界の国々は協力し、白竜を倒すことに成功したが、白竜は死ぬ直前に己の核を世界中にばら撒いた。核は大体が植物、魔物、動物の中に入った。しかし人間にも少なからず、入ってしまった。その数は千はいたという。私もその内の一人だった。しかも運の悪いことに私の中には白竜がばら撒いた核の中でも一番大きいのが入ってしまった。
世界の国々はすぐに核の入ったもの達を殺し始めた。植物、魔物、動物はもちろん、人間も例外なく殺された。殺されるスピードは恐ろしいほどに速かった。なぜか、それは核の入ったものには特徴があったからー白髪ーという。
だが私はすぐには殺されなかった。親に隠されたから。いい親だった?いや、逆。私の親は子供を子供と思っていない。ただの政治道具だと思っている人達
だ。 私の親、エントール伯爵は野心家だった。
それも世界を我が物にする、なんていう馬鹿げた野心を持っていた。
でもそんな野心に一部といえど白竜の力が加わったら?
父はそんなことを考えたのだろう。私を地下に閉じ込め、世界中から魔法書を集め、私に読ませ、覚えさせた。魔法だけでは満足いかなかったのか戦闘に関すること全てを覚えさせられた。そんな生活が六年ほど続いたある日、父が私に言った。
ーこの国の王族全員の首を取ってこいー と。
私は反対した。
それは国に対する反逆だから。
国に忠誠を誓う貴族がそんなことをしていいはずがないと。
そしたら父はこう言った。
ーいやなら、無理やりやらせるまでー
父はどこからか道具を取り出し、そのボタンを押した。そのボタンは私につけられている首輪と連動していたのか、ボタンを押した瞬間、首輪から私の体に衝撃が走った。
意識が戻った時、私は父の前に立っていた。
“王族の首を持って”
最初はわけがわからなかったがすぐにわかるようになった。だって私の中には王族を殺した記憶があったから。父は笑いながらーよくやったーと言い、そして
ーこれなら、国を手に入れるのも、そう時間はかからんだろうー とも言った。
その日から地獄が始まった。
意識を失って、目が覚めると自分は首を持っていて、自覚はないのに記憶はある、という地獄が毎日続いた。
首輪は外そうとしても外れなかった。
そして、半年ほどで父は国王になった。
だが流石に半年もあれば他国に情報が渡る。他国は父の国に向けて軍を送った。
父は私に ー敵軍を殲滅せよー と言った。
私はその時、ほっとしたと思う。だって、何万もの軍であれば流石の私でも無理だと思ったから。これで自分は死ねる。もう地獄を繰り返さなくていい。そう思いながら意識を閉じた。
でも、私は自分のことを過小評価しすぎていた。
自分の中にある白竜の力の大きさをわかっていなかった。
目が覚めて最初に目に入った景色は死体の山。
他の所にも死体が転がっていた。その数は万にも上る。そして、思い出される記憶。信じたくなかった。万を超える軍さえ自分を殺せないなんて。
この時からだろうか、心が壊れ始めたのは。
大陸最強と言われる軍と戦っても、強者と謳われる人と戦っても私に勝てる人はいなかった。
誰が私に勝てるの?
誰が私を殺せるの?
ねぇ。誰か、誰でもいいから私を殺してよっ!!
私の心は壊れかけていた。
戦って戦って殺して殺して、自覚のない記憶が増えていく中、ついに私の待ち望んだ人が現れた。
その人は、白竜本体を倒した人達の一人らしい。
その人なら、私を殺せる。
不思議と私の中にはそう確信があった。
やっと死ねると思いながら私は意識を閉じた。