16 あだ名
里を出て約八時間後、私は無事に蒼焔様と合流することができた。
そして今、
「なあ、葵? お前、どうやってここまで来たんだ? 馬、乗れたのか? でも、馬いないから乗れないってことだよな? じゃあ、どうやってあの距離を俺達より速く行ったんだ?」
蒼焔様による質問攻めにあっていた。
(くっ! しまった! 確かに蒼焔様達より速く着いてるのは、おかしい。早く合流することだけを、考えていたから、完全にそのことを忘れていた!! ・・・しょうがない。かくなる上はあれをやるしかない!)
「蒼焔様!!!」
「お、おうっ」
「実は私は足がとても速いのです!!」
「は?」
「足が! とても! 速い! のです!」
私は、圧で押し切ることにした。
これをやれば大体の人が引くからね!(葵論)
だが、蒼焔様はその大体の人の中には入っていなかったようだ。
「だが、馬より速いのはさすがにおかしい―――」
「速いのです!!!! 馬といっしょにしないでください!!」
「なんか、すまん・・・」
だから、さらに圧をかけて、押し切った。
(勝った・・・)
何に勝ったかは知らないが、勝利に浸っている私の耳に知らない声が聞こえた。
「いやー、まさか本当に白髪を持つ存在がいるとは、驚きだねー。ねー、五丸」
「あ、ああ。そうだな」
(この二人が部下の人・・・。そういえば、蒼焔様と初めて会ったときもいたな)
「そうだった。葵、紹介しよう。この二人が、俺の真の部下である、五丸と亮だ。五丸、亮、新しく、真の部下になった葵だ」
蒼焔様が気を利かせて、二人の自己紹介をしてくれた。そして、真というのは蒼焔様の本当の性格を知っているということなのだろう。
(亮と五丸・・・五丸?)
「あの、五丸さんは五人兄弟なのですか?」
「えっ、いや違うが?」
「あ、そうなんですね・・・」
(兄弟で生まれた順なのかなと思ったけど、ただ、名前に数字が入ってただけか)
「俺は十五人兄弟だ」
「え」
(あってたわ。そして、想像以上に兄弟が多い件について・・・)
「五丸の家は少々特殊なんだ。だから、兄弟が多い」
そして、説明をくれる蒼焔様。優しい。
(特殊な家か・・・そういう家って大体、家族間に深い溝があるんだよね。きっと五丸も・・・これはどうにかして、元気にさせないと)
葵の勝手な想像である。
五丸の家は特殊だが、家族間はいたって普通である。
だが、葵はそんなことは知らない。
(元気にさせるには、まず仲良くならないとね! ということで何かあだ名・・・あ、これがいいね)
「――いっつん」
「は」
「五丸、あなたは今日からいっつんです」
「なんですか、それは」
「あだ名です」
「「ブッフォ」」
後ろで、蒼焔様と亮が吹いているが、私はいたって真面目だ。
「いっつん。これから、いっしょに蒼焔様を支えていきましょう。よろしくお願いします」
「いや、あの、普通に五丸で・・・」
五丸があだ名を遠慮してくる。なぜだ。いいあだ名なのに。
(きっと、家族間の溝を知られないために、私との距離を取っているのか・・・なんということ・・・)
葵の勝手な想像である。
五丸の家の家族間はいたって普通である。
もう一度言おう。いたって普通である。
「フッ、五丸、いや、いっつん、よかったな。いいあだ名ができて」
「蒼焔様? なんで笑ってるんです?」
「いや? 俺は別にブッ、笑ってないぞ」
「笑ってますよね?」
葵がつけたあだ名に蒼焔様は爆笑寸前だった。
「あっははははははっ。あーしんどい。おなか痛い。ふっ、いっつん、良かったね~。あはははははっ」
亮は・・・完全に爆笑していた。
これから先、大丈夫なのか・・・。
いっつんというあだ名は五丸の名前を決めたときにはすでにできてたんですよね。




