13 郷へ向かう者たちの話 二
(白髪蒼眼!?)
「・・・嘘ですよね・・・? それではまるで、月の女神のようではないですか」
月の女神は白髪金眼といわれている。
白髪が一緒というだけでその人物は月の女神、もしくはその使徒といえるだろう。
五丸は震えた。
そのような人間が誠にいるならそれはどれほど国に影響を与えるか。
そしてそんな人物に出会えてしまう自分の主の運の強さに。
「蒼焔様、あなたは本当に豪運なお方だ。この時期にその人物が仲間に加わったのは大きい。これは皇弟との差が広がったに違いありません」
今、蒼焔は皇帝の弟、つまり叔父と跡継ぎ争いをしていた。
国民の支持率は蒼焔の方が圧倒的に高いが、大臣達、政治に関わる者は半数以上が皇弟を支持していた。理由としては皇弟の方が賄賂を渡すだけで自分を優遇してくれるなどの邪な理由もあるが、蒼焔がまだ十八と若すぎるという理由がある。だが、大臣達が皇弟を支持する一番の理由は皇弟に「月の女神」の称号を持つ、娘がいるからだ。
「月の女神」の称号持ちは存在するだけで国の命運を左右する力を持つ。
現在はその「月の女神」が皇弟の派閥にいるため蒼焔たちの派閥は危機的状況にあった。
しかし、逆に言えば「月の女神」が蒼焔たちの派閥にいれば現在の危機的状況は回復し、皇弟の派閥は「月の女神」の称号を失ったことにより、勢力を半減させるだろう。
五丸は考える。
その状況にするのに一番効率的なのは何なのかを。
「・・・蒼焔様」
「ああ、わかっている。そのつもりだ・・・・・月の女神祭にあいつを、葵を、出す」
「月の女神」の称号を手に入れる方法は二つある。
一つは皇帝に任命されること。
もう一つは月の女神祭で自分の方が現・月の女神より美しいと国中から認められること。
「・・・蒼焔様。確かにそれが一番効率的で俺もそれがいいと思っています。ですが、その方法は失敗すれば、あなたに危害が及ぶ。もしかしたら、次期皇帝の座から降ろされる可能性だってある。それでも、あなたは・・・」
過去に開催された月の女神祭で当時の月の女神より美しいと認められた人は一人もいない。そして、月の女神でない人を月の女神と呼んだ人にはそれ相応の罰が下る。
「心配する必要はない。あいつは・・・葵はこの国、いやこの世界誰よりも美しい。俺はそう思っている」
「そこまでですか、その葵という人は・・・。覚悟はすでにされているようですね。ならば俺も覚悟を決めます。どこまでもお供しますよ、蒼焔様」
「ありがとう、五丸」
「僕も僕もー! お供するよ、どこまでも! わすれないでよねー!!」
「ああ、亮もありがとう」
「そういえば蒼焔様。その葵という人とはどちらで合流するおつもりですか? 我々が里を出たときはまだいたと思うのですが」
「郷で合流するつもりだ」
「てゆうかー、なんでいっしょに来なかったの?」
「お前たちには話してなかったからな、いきなり人が増えたら混乱するだろう?」
「確かにそうだけどー、・・・ねぇねぇ、蒼焔様。気になることがあるんだけどー」
「なんだ?」
「葵って子、女の子らしいけど馬乗れるのー? 乗れるなら先に出た僕たちに追いつけると思うけどー、普通女の子は馬に乗れないと思うんだよねー。乗れないとなったら歩きじゃん? その子が郷につくまで、何日かかるんだろうねー?」
「・・・」
なぜか黙る蒼焔。
「えっ、蒼焔様?」
まさかそんなことないですよね? と顔で聞く五丸。
「やっぱりー」
呆れたーと顔に出る亮。
この三人のなかで一番抜けてると思われてるのは亮だが、本当は蒼焔なのかもしれない・・・
「・・・あいつは強いから大丈夫だ」
「理由になってないよー」
本当ならすぐに里へ戻るべきなのだが、皇子が忘れ物をしたなどという悪い噂が流れれば、跡継ぎ争いに響く可能性がある。どうしようもない状況に蒼焔は現実逃避をするのだった・・・。
現実逃避に走った蒼焔と、五丸と亮の三人は馬を走らせ、郷への道を一直線に進むのだった。
葵がなるべく早く合流することを願って。
だが三人はまだ知らない。
明日の夕方には身体強化をかけまくって走ってきた葵と合流することを。
今回、ついに五丸と亮が出てきました!
ずっと書きたかった、蒼焔、五丸、亮の三人の話すシーン!!
この三人と葵が話す、日常会話は面白いものにしていきたいと思っていますので、楽しみに待っていてください。




