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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛の重み。

作者: 熊ゴロー。

四者視点。ヤンデレ注意!

ふんわり設定です。

 幼い頃から婚約者とは、それなりに仲が良かったと思う。恋愛とは程遠いものだったけれど、大人になれば結婚するものだと刷り込まれていたせいか、お互い不満もなかった。



 お互いが17歳になった今。


 月に3回行われていたお茶会はキャンセル、またはドタキャンが続き、誕生日はいつもお互いの家にプレゼントを持って行きパーティーに参加していたのに、今はプレゼントが贈られてくるのみ。手紙もそっけなくなり、ついには途絶えてしまった。


 これはどうしたものかと、義父となる予定のウィルソン公爵と話し合ったが、肝心の婚約者が泊まりが多くて会えずに日々は過ぎていく。


 ドタキャンされるお茶会にも、どうせ会えないと知りながら彼の家に向かい、1人紅茶を飲みながら待っているとウィルソン公爵が申し訳なさそうにやってきたので、共にお茶を飲むことに。


「申し訳ない。あの馬鹿息子が…」


「いいえ。遊びたい年頃ですものね。それより、私はお義父様とのお茶会が出来て嬉しいです」


 お義父様とのお茶会は本当に楽しかった。この人が婚約者だったら良かったのに。

 奥様を亡くされてから後妻も取らず、社交界では男女問わず魅了してしまう端正な顔立ちと温和な性格、つい本音を話してしまいたくなる程の惹きつける会話力、どうやら婚約者には遺伝しなかったようだ。


 幼い頃からお義父様と私は本好きで、本友達だった。淑女教育前は頻繁にこの家に来ては楽しくお喋りをしていたな、と思い出していた。



 それからも、婚約者のドタキャンが続くことに呆れながらも、私はお義父様とのお茶会が楽しみになっていた。私が婚約者の家に向かう時もあれば、お義父様が私の家に来てくれるようになった。私達の共通点、本好きが更に加速させた。



あれ、と思いながらもこの楽しい時間を捨てたくはなかった。





 ある日、珍しく婚約者が私の家に訪ねてきた。か弱そうな女性を連れて。

ちょうどその日は、お義父様とのお茶会をしていた所だった。婚約者は父親がいることに驚きつつ、覚悟を決めた顔で言い放った。



「俺が彼女を守らないといけない。だから…婚約を解消して欲しい」


 幼い頃からの婚約者は、悲痛な面持ちで『彼女』を抱きしめている。引き離されるとでも思っているのか。『彼女』は涙を溢れさせながら、婚約者を見つめる。つまらない演劇を観せられて、どうしろって言うのよ。婚約者は、更に何か言いたげな顔で口を開こうとしていた。


 私は2人に呆れ、隣で怒りを押し殺している(殺意のような怒りを溢れさせながら)お義父様をちらりと見る。


「お前がここまで愚かだったとはな。うちから出ていけ!」


 荷物も何も持たせるなと彼らについてきた使用人達に2人を追い出すように指示をした公爵は目眩がしたのか、ふらついた所を私はそっと寄り添い、椅子に座らせた。


「お義父様…いえ、ウィルソン公爵、今、お水を…」


 我が家の使用人に水を頼もうとすると、手をぎゅっと掴まれた。驚きつつも、掴まれた手と公爵の顔を交互に見て、一体どうしたのだろうか尋ねようとした。


けれど、大きくて細長い指に自分の指が絡め取られると、頭の中が真っ白になる。熱が私を動かなくさせる。


熱い眼差しが。絡め取る指が。彼の端正な顔立ちが。ハスキーボイスが。先程まで溢れ出していた息子への殺は消え去り、私への想いが溢れ出ている。



「どうか…聞いて欲しい」



彼が私の全てを絡め取ろうとしている。



「この状況を喜ぶ私を許してくれ。馬鹿息子のせいで、君を傷付けていることは分かっている。だが…己の気持ちを伝えずにいられないんだ…」


 彼の指先が、私の頬を優しく撫でた。


 ゾクリと、私の何かが騒ぎ出す。


「君を愛している」


 溢れ出す。嗚呼、そうだ。お茶会が始まった頃から何となく気付いていた。

毎回、大量の本、素敵なドレスや宝石、アクセサリー、絵画をくれたのは。もうすぐ家族になるのだからと肖像画を作ろうと、何故か義父と2人きりの肖像画を作ったのも。


 普通でないことに気付きながらも、私はそんなことはないと思い込もうとしていた。


けれど。もう誤魔化せない。だって、彼との時間はとても楽しかった。婚約者と過ごした長い時間よりも、ずっと。


 私はそっと彼の手を握り返す。


 ピクリと彼の指先が震えた。


「どうやら私も…貴方を愛しているようです」


 気付けば、彼の腕の中で。彼の胸に耳を当てて激しく騒いでいる心臓の音を聞きながら、まさか本当に義父予定だったこの人と結ばれるだなんてと、溢れ出る喜びと幸せが私と彼を優しく包んだ。






ははっ…!












     嗚呼、愚かな息子で良かった。


 男は歓喜で歪みそうになる笑顔を必死に堪えた。


 まだだ。まだ顔に出すな。ははっ…!


 ようやく、彼女が私のものになる!


 シャーロット・ロビンソン。私の愛する人の名前。


 美しく艶のあるブロンドヘア、青空のような瞳、普段は淑女としての微笑みをするが、話に夢中になると少女のような微笑みを見せてくれる彼女を私のものにする計画がようやく叶ったのだ!


 彼女と初めてあったのは、彼女の父親であるロビンソン侯爵が我が家に遊びに来た時。長年の友人が娘を自慢しに連れてきたあの日。


 見目の美しさだけではない。幼子であるのに私に負けない程の読書家で、周囲から退屈と言われる程の私の話も楽しげに聞いてくれた。おすすめの本を貸すよと手渡せば、まるで彼女から花びらが舞うような程の喜び様。


『公爵様のお家は、まるで王宮の図書館…いえ、王宮以上ですね!』


にこにこと笑う彼女に、私の心臓を掴まれた感覚がした。嗚呼、愛おしい…これは、何だ?


それから何度も我が家に訪れ、本の貸し借りをする仲になった。

本の感想を楽しげに話す彼女から目が離せなくなった。楽しい、こんなにも話が合うだなんて。


愛おしい。誰よりも。何よりも。この時間がいつまでも続けばいい。


 しかし、時は残酷なもので。淑女教育が進んでいくと会える時間は減っていく。友人のロビンソン侯爵から子供達を婚約させようという話まで出てしまった。


 嗚呼、なんてことだ!しかし、話を断れば、彼女は別の男と婚約…接点がなくなる!嗚呼、何故!何故、私は…


 怒りを押し殺しながら、子供達の婚約を認め、進めていった。


 息子は彼女を妹のようだと言い続けて、婚約を解消したがっていた。しかし、そこは政略結婚。そう簡単にはいかない。そのまま、恋愛感情を持つなと願い続けた。


 しかし、成長すると共に彼女の美しさに気付き始めたらしい。13歳になった息子が彼女に恋をした。彼女は益々美しく、聡明な淑女へと成長していた。私でさえ、息を呑む程。欲しい。欲しい…!


…駄目だ、息子を離さねば。


 ちょうどその頃、学園で男爵令嬢が高位貴族の子息達を手玉に取るというスキャンダルで賑わっていた。


 …これだ!女の免疫もない息子をそれとなく市井へ行くように勧めた。堅苦しいことが苦手な息子ならば、必ず癒やしを求めるはずだ。

 信頼する従僕に命じて、息子が好みそうな平民の女を宛がわせた。あっという間に快楽に飲み込まれた。


 何が真実の愛だ。笑わせる。お前は用意された玩具に落とされただけだ!


 彼女が息子に宛てた手紙は私が保管している。プレゼントも私が贈っている。お茶会のキャンセルも、平民の女に入れ揚げた息子を市井に向かわせたからだ。


 彼女に寄り添うふりをして、私は今か今かと待ち続けた。


 そして、運命の日。愚かな息子は平民女と添い遂げることを決めた!


ようやくこの腕の中に愛おしい彼女を手に入れた。


嗚呼、早く結婚をして子を儲けねば!彼女を誰にも渡さない。



「シャーロット、君を幸せにすると誓うよ」


「嬉しいです…2人で幸せになりましょうね」



彼女の柔らかい唇にそっと口付けをした。












…嗚呼、こんなはずじゃなかったんだ。



 父の異常性には気付いていた。婚約者を見つめる瞳に昏い想いが宿っていたことに。聞くことも出来ず、何故、そんな瞳で彼女を見つめるのか不思議な思いと恐怖で、時は過ぎていった。


 俺達が13歳になった頃、父があれこれと用事を言いつけて、俺は市井へ向かうようになった。用事を片付けながら、婚約者にお土産でも買おうとふらふらと店を覗いていた。


「お兄さん、今の流行りはこれだよ!」


 『彼女』…雑貨屋の娘、マリーとの出会い。周りにはいない、明るくて感情豊かな彼女に惹かれていった。

父からの用事を理由に、毎週のように彼女の元へ訪れた。婚約者に手紙を書こうとしたが、父が代わりにやっておくと言ってくれたのを馬鹿みたいに喜んで。


 どんどんマリーにのめり込んでいく中、ふと婚約者と長い間会っていないことに気付いた。嗚呼、どうしようと思いながら家へと帰る。


 言い訳をしようと、父の部屋の前にやってきた時、聞こえてしまった。



『嗚呼、愛おしいシャーロット…もうすぐだ。もうすぐ私と家族になれるんだ…』



 ゾッとするほどの恍惚な声。まさか…?



『私達の愛がもうすぐ叶うんだ…どんな形でも、私達は離れられない…』



 そこから聞くことは出来ず、部屋へと戻った。気持ち悪い…父は諦めていない。このまま婚約者を娶れば、父に絡め取られ、どうなるか分からないぞ…


 けれど、婚約者を蔑ろにしていた俺が今何を言っても…


 馬鹿な俺に出来ることは、遠ざけることだった。婚約を解消すれば、あの異常な父から離せる。


 そんな浅はかな考えを父が考えないわけなかったんだ…



「お前がここまで愚かだったとはな。うちから出ていけ!」


 使用人に引きずられ、ロビンソン家から追い出され、市井へと向かわされた。


「嗚呼!すまない、シャーロット…」


「もうどうしようもないのね…」


 少し前にマリーに父の異常性を話していた。彼女もまたウィルソン家から俺に接触しろと言われていたと話した。俺を籠絡しろと。けれど、彼女も俺に惚れてしまった。結局、父の願い通りになってしまった。


「シャーロットさんと連絡は取れないの…?」


「…父が握り潰すだろうな」


「そんな…」


 もう元婚約者に謝ることも出来ない。















 …旦那様の計画通り、シャーロット様は旦那様と結婚をした。シャーロット様は何も知らない。旦那様が貴女を異常なまでに愛していることも。旦那様が死ぬ時は…貴女も道連れにすることも。


 旦那様が我々、使用人に命じた。『愚息が手出ししようものなら殺せ』と。


 …旦那様が前妻のリーナ様を病死と偽り、娼館へと送り出したことを思い出す。子供を産ませてすぐに追い出した…あの時の旦那様がまた…っ!


 幸いにも子息であるアーロン様は、おとなしく平民の女と暮らしている。もう何も出来ないことを悟っているはずだ。彼が気付いた時には、もう手遅れだった。


 シャーロット様と幸せそうに微笑み合う旦那様。シャーロット様が目線を本に移すと旦那様の欲望を秘めた瞳が現れる。


 嗚呼、彼女はもう逃れられない。






『私が死ぬその時、彼女に毒を飲ませる。共に逝くんだ。誰にも渡さない』




旦那様の昏い欲望は、己の死を待ち望んでいるようだった。





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