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崖の先は異世界  作者: ザマソー小説部
一章α 憂鬱なお姫様
12/17

第十話α 魔王と勇者と王女様と

――out side――


 私――アーリアミヘール・リパミニア・セセアティ――は仕事中に巨大な風の魔力を感じて顔を上げた。


「これは強力な魔術師……ではないのでしょうね」

『今代の魔王だろう。我もこんなに近くで感じるのは数百年ぶりだ』


 私の精霊であるウンディーネがそう答えた。彼女は代々王家に仕えている精霊だ。近隣国との個人的な因縁も深いのだろう。


「ウンディーネ、正確な場所は分かりますか?」

『2階の使用人区画辺りから上へ向かって来ている。このルートは来賓区画を目指してるのかもしれんな』

「来賓区画で魔王の目を引く存在といったら勇者しかありませんね……」


 他にも来賓区画には重要な方々もいるけど、勇者ほどには目を引かないだろう。なんと言っても大陸に6人しかいないのだ。魔王と対の存在という意味でも気になる対象であるのは間違いない。

 ……しかし今はまずい。まだ勇者の実力はともなってないのだ。それはあちらにも言えるかもしれないが、用心するに越したことはない。


『向かうのか? 恐らく走っても先に到着できんぞ』

「行かないよりはマシです。すぐに行きます」

『あい分かった』


 そう言って私は仕事は捨て置いて部屋を飛び出した。近衛の者に呼び止められたが、私は足を止めずにウンディーネに頼んで気絶させてもらう。魔王相手には足手まといになるだけだ。私が行っても勇者を逃がせるかどうかは怪しい。


『風の気を3つ感じる。魔王と精霊、供は1人だけのようだな』

「少数精鋭……というにはいささか無理がありますね」

『その無理が押し通ってしまうのが魔王と勇者という存在だ』

「えぇ、そうですね」


 ウンディーネの言葉に私は相槌をうった。

 従者が1人というのは20人くらいはいると思っていた私にとって朗報だ。ただでさえ魔王の相手でも荷が重いのに、従者の相手までしていられない。だが、1人だけ付けるということはその従者がそれほど優秀だという証拠でもある。朗報ではあったが、私は気を抜かなかった。

 しばらく走ってると馴染みになりつつある客室の一歩手前まで来ていた。道中にウンディーネに聞いた話では見張りがいるらしいが、ここからではまだ見えない。


「そろ……そろ……着きますね……っ!」

『主、相対する前に息を整えた方がよい。戦闘中に息切れで攻撃が避けられない、では死んでも死にきれんぞ』

「ですが……リカが……っ!」

『捕まって人質にされたいのか? 勇者と第一王女が人質なぞ笑えんな』

「っ!?……わかり……っました……っ」


 せっかく友人になりつつあるリカの部屋に魔王が向かったと知って焦ってしまった。しかし私はあくまで第一王女なのだ。自覚して行動しなければ。

 立ち止まって深呼吸をする。そうすれば息切れは治らないものの少し落ち着いた。そこを見計らってウンディーネが声をかける。


『見張りはこちらに気づいているな。近寄って来ないのを察するに部屋の警護をしているのか』

「随分と手間のかかったことをするのですね。すぐに殺めて撤収しないということは交渉などを行っているのでしょうか」

『あの小娘にか? ふっ、考えられないな』


 ウンディーネの言い方はともかく、確かに精霊もいなくて魔術も使えない勇者相手にてこずるのは少し考えにくい。交渉の線も、気が強くて王城の事情がよくわかっていないリカではあまり意味がないだろう。


『まあ分からないことを考えても無意味だというものだ。それよりも息が整ったなら参ろうか、主』


 ウンディーネの言葉に息の乱れが治っていることに気づき、ハッとなって顔を引き締めた。そして慎重に歩みを進める。


「そこの者。この部屋はヤマフジ国の王、勇樹様の命によって近づくことは禁止されている」


 扉のすぐそばにはヤマフジ国民の女性と妖精の姿をした風精霊がいた。ヤマフジではニホン語が主流だったと記憶しているが、その女性が大陸の共通語で話してきたことに驚いた。


「私はアーリアミヘール・リパミリア・セセアティ。父様の城で勝手な行動をするとは礼儀知らずもあったものですね」

「我が王の命令は絶対です。文句があるというなら叩き伏せるまで」


 私は侮られない為にも強気に出ていた。相手も同じ。当然ながらいきなり攻撃などという愚かな行為はしない。お互いに分かっているのだ。戦ったら勝ち負けはともかくタダでは済まない、と。相対した瞬間に直観でそう思ったのだ。

 戦闘は避けたいものの、相手は言葉でどうにかなりそうな相手ではない。無論 私も言葉で引く気はない。少しでも相手を弱気にさせようと睨み合いになった。この間にウンディーネが女性を探っていることだろう。

 しかしその沈黙を破ったのは風の精霊の方だった。


『アーリアミヘールでアリア、ね。いいんじゃない、通しても』


 その言葉に一同が固まった。最初に行動したのはヤマフジ国民の女性の方だった。ひどく取り乱して風の精霊に文句を言う。


「し、しかしシルフ殿! 近づかせてはいけないっていう王命ですよ!」

『ユウキはこの国と敵対するつもりはないみたいだし、隣国の王女様を無碍に扱う方がマズいと思うけど。せめて“おうかがい”を立ててみたら?』


 その言葉を聞いて、すぐさまウンディーネと念話をした。


『どういうつもりでしょうか?』

『供の慌て方に偽りはない。そしてあの精霊も若輩だ。大した策はないように見える』

『……つまり誘いに乗るってことですか』

『では主、城下町にいる妹を連れに戻るか?』

『そんなことはできないですね。絶対』


 リカを見に行く時間が遠ざかるという意味でも、私のプライドという意味でも、ここで引くという考えはない。それなら誘いに乗ってでも部屋に入るしかないのだ。ここで戦うという選択肢もあるにはあるが、今は無事らしいリカも私もタダでは済まないだろう。

 こちらが念話で結論を出した時にはあちらも結論は出たようだ。女性の敵意は鳴りを潜め、腰を折って私に敬意を払っていた。王族である私に敬意を表すのは当たり前だが、相手が相手だけに少し違和感を覚えた。


「勇樹様の許可が下りました。こちらへどうぞ」

「……さっきまでの殺気が嘘のようですね」

「勇樹様の許可が下りれば否とは言いません。ですが、勇樹様を害そうとするなら容赦しないのでそのつもりで」


 女性は私を見つめてそう警告した。相当な実力があるらしい彼女が暴れたらこの王城もタダでは済まないだろう。

 そんな彼女にふと興味が湧いた。


「あなたの名前を訊いても?」

「桜花と申します」

「分かりました、覚えておきましょう」


 融通が効かない有能な風の国の幹部。できればあまり敵にしたくない人物だった。それを従える王とはどんな人物なのか。

 私はノックをして部屋に入った。その直後、私は驚愕することになる。


 ◇


 桜花さんの有能さはなんとなく分かってたし、実際に城に入るまで見事と言わしめる出来事の数々だった。だがそれを加味しても、里香の部屋っぽい所まで行く無双っぷりは異常だと言わざるを得ない。


「いかがなさいましたか?」

「……いやぁ、桜花さんってすごいなぁーと思って」

「勿体なきお言葉、喜悦の極みでございます」


 きえつって何だろうって考えてる間にも見えた兵士を桜花さんが魔術で片っ端から気絶させていく。しかもお姫様だっこ継続中。一応、殺さないように釘を刺しておいたからなのか、とりあえず血は流れていない。まさか真正面から行くとは思わなかった。まあ廊下は障害物が少ないので、隠れてやり過ごすのは無理だったのかもしれない。

 そしてあっという間にそれっぽい部屋に着いてしまった。桜花さんが言うんだから間違いないだろう。これで間違ったらドジっ娘認定である。それならそれで可愛いんだが。


 コンコン


「勇樹だけど入っていい?」

「あ、うん」


 とりあえず里香はこの部屋らしい。普通に返事も返ってきた。桜花さん有能すぎる。


「桜花さん、悪いんですけど見張りしてもらってもいいですか?」

「悪くもなんともありません。王命、確かに承りました」

「シルフもよろしく」

『ま、せっかくの再会に水を差さないよ』


 そう見送られて扉を開けた。中には当然だが、里香がいた。


「よぉっす」

「うぃーす」


 久々に会ったので何と言っていいかわからず、無難な挨拶から入った。何が無難なのかはツッコんではいけない。

 部屋を見渡せば日本にいた時には想像がつかないくらい部屋が片付いていた。日本の里香の部屋は比喩ではなく足の踏み場はなく、部屋の隅を見ればほこりが綿になっていたが、今の部屋は普通に歩ける時点で普通に驚きだ。んで物が落ちてない。脱ぎっぱなしの服がベッドの上に乗ってるとかもなかった。うーむ、なんか新鮮だ。

 見渡してたら里香から声をかけられた。


「何?」

「いや部屋片付いてるなぁーって」

「まあ頼まなくてもメイドさんがやってるからね」

「メイドかぁー。いいなぁー」

「……メイドだよ」


 里香ははぁーとこれみよがしにため息を吐きながら「メイド」と呟いた。なんだ、メイドに嫌な思い出でもあったのか?

 ちなみに僕は「お帰りなさいませご主人様」とかのたまうメイドは嫌いである。聞いてるこっち側が恥ずかしくなるから。でも美人が仕えてるってのは悪くないよなぁ。あ、


「そういえばメイドと言えば」

「ん?」

「いやメイドじゃないんだけどさぁ、和服美人のおねーさんが部下になったんだよ。生きてれば良いことあるって言うけど、上手いこと言うよなぁー」


 そうしみじみ呟くと里香が徐々に怒っていくのが分かった。


「勇樹?」

「なに?」

「こっっっっっっっちは心配して探しに行ったのにあんたはどうしてそう呑気なのよ!」

「ん?」


 あれ、なんかコイツに心配されるようなことあったっけ?

 ………………?


「なんだっけ?」


 そう言った瞬間に里香の手がぷるぷる震えていった。マジでなんのこと言ってる?


「あんたがっ! 熊がいるとかいう森に行った後っ! ぜんっぜんっ! 帰って来なかったんですけど! 連絡なかったんですけどっ!」

「…………。おぉー」


 忘れてた。


「ムカつく! 殴っていい!?」

「別にいいけど?」


 そういうな否やこっちに走って来てぐーで胸辺りを殴った。1発2発3発……おうおう遠慮がないな。12発殴った辺りで運動不足のヲタ娘は息切れしていた。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「お疲れ」

「…………」


 僕の労いの言葉には何も言わずに、最後に足を軽く蹴ってからベッドにダイブしていた。こっちが心配になるほどのダメっぷりである。


「あぁー、でもなんか安心した」

「何が?」

「いや勇樹がいるんだなぁーって」

「意味わからん。僕は んな簡単に死なん」


 クラスメイトには「トラックに轢かれても死ななそう」とか、親には「そこら辺に捨てて来ても生きてそう」とか言われている。かくいう僕もよっぽどのことがない限りは死なないっていう自信がある。現にこうして生きてるしな。

 里香はそれを聞いて笑っていた。


 そんな感じに適当な雑談をしていると結構な時間が経っていた。日本では23時を過ぎると丸くなって寝てしまう僕と、日光に当たると溶けると豪語している里香とでは根本的に活動時間が合わない。こうして長時間の会話をするのはここでなくても久しぶりである。


 コンコン


「勇樹様、アーリアミヘール・リパミリア・セセアティと名乗る方がお見えになっていますが、いかがなさいますか?」


 ……いや誰よ?

 しかし反応したのは里香だった。ちなみに見張りの兵士をぶっ倒して部下を見張りに付けといたのは話した。里香も「あの見張りウザかったからどうでもいいわ」とか言ってた。


「あ、アリアじゃん」

「知り合い?」

「あぁー……、まあこっちで唯一の味方? お姫様なんだって」

「へぇー」


 いつの間にお姫様と知り合いになっていたのか。そう言われて気付いたが、里香はドレス姿だった。


「そういえばお前ってドレス着てたのな」

「今更っ!? どうせ似合ってないとか言うんでしょ?」

「あぁー、似合ってないっつーか……コスプレ?」


 なんか一般人の里香がドレス姿っていうのは違和感しかないな、うん。どう贔屓目に見てもコスプレという感想しか持てなかった。


「いやまあ……知ってたケド」

「あ、んでそのアーリアなんとかさんは入れていいの?」

「もちろん」

「すいませーん! そのアーリアなんとかさん入れてくださーい!」

「御意に」


 にしてもお姫様か……。


「アーリアなんとかさんはちなみに王冠ってしてるの?」

「何が?」

「ほら、例の桃姫は王冠つけてるじゃん。実際のお姫様もあんなんかなーと」

「あぁー……。まあ俗にいうサークレットみたいな?」

「えー、頭の上にちょこんって乗ってるのじゃないんか」

「式典の時とか付けるらしいけどね。今日の昼間の奴とか」

「あぁー見てた見てた! 里香は馬車の上で控えめに手ふってたな。お前が愛想振りまくの初めて見たぞ」


 コンコン


『リカ、アリアです。入ってもいいですか?』

「あ、うん。開いてるよー」


 里香がそう言ったら、扉が開いていかにも王女様っていう方が入ってきた。……うん、そこそこ豪華な部屋にドレスの里香、それにゴージャスな王女様。Tシャツにジーパンの僕が場違いに思えてきたぞ。制服ぐらい着ればよかったかな。んなもん、ここにないけど。


『私はこの国で第一王女、アーリアミヘール・リパミリア・セセアティと申します』

「あーりあみへーる……すいません、なんでしたっけ?」

『……言いにくいのでしたらアリアで結構ですよ』

「あ、どうも。僕は石山 勇樹って言います」


 自慢ではないが、名前を覚えることには自信がない! んなミドルネームなんてある名前なんか当然のように覚えられない! それを考えたら桜花さんは楽な名前でいいなぁー。テストとかも名前書くの簡単そうだし。勇樹という字は画数が多くてメンドくさい。

 というか、アリアさんを見て気付いたことがある。目に包帯を巻いていた。


「目……見えないんですか?」

『えぇ……小さい頃に事故が起きてしまいましてね』

「へぇー」


 マジか。里香を見るとコクコクと頷いている。でも見ていると、杖もなしに危なげなくイスに座った。……謎だ。本当は見えてんじゃね?

 ちょっと実験してみよう。里香には口に指を立てて、黙ってるようにジェスチャーする。

 ゆっくり立ち上がって、音を立てないようにアリアさんの後ろに歩いた。


「わっ!!!」

『…………何をしているのですか』

「え? いや驚くかなぁーって」


 そう言いながらアリアさんが見えてないことを良いことに、目の前で手をひらひらさせてみる。するとアリアさんが怒ったようにこちらを向いた。まるで睨んでるように感じて、ビクッと震えてしまった後にすごすごと席に戻った。


「いや絶対に見えてるでしょ」

「包帯 巻いてるのに?」


 里香からツッコミが入った。


「だって今こっち見てたよ! ビックリさせようとしてもビックリしないし!」

『……精霊を介せば目が見えなくても周りを見渡すことができます』


 アリアさんがため息をついて、そう答えた。


『目が見えないと言うと、みなには憐れみの視線と共にそれになぞった言葉をかけられますが、背後から驚かせようとしたのはあなたが初めてですね』

「ホンドだよ、自重しろし!」

「……でも結局 見えてんじゃん」


 いやまあ、目を失うほどの事故って相当 痛いんだろうけどね? 絶対に経験したくないし。でも見えるんなら「昔 骨折したんだ」っていうのと変わんないじゃん。日本なら「痛かったろうねー」と笑い話で済むぞ。


「いやでも……すいません」

『いえ私はあまり気にしてません。昔のことですし』


 ほら気にしてないってさ。にしても精霊で失明を補えるのか。便利だな、シルフ。


「にしてもお前としゃべってるとなんか食べたくなるよなぁー」


 里香としゃべる時は大抵お菓子がセットだった為にコイツとしゃべってるとなんか食べたくなる。適当にバッグをごそごそと漁ると未開封のせんべいとチョコクッキー、開封済みのファミリーパックのチョコがあった。迷わず開封済みのチョコを取り出す。ここに来た当初、例の3人に分け与えた奴だ。数は若干 少ない。適当に4等分して配る。残りはあとで桜花さんに渡す予定だ。


「はいよ。アリアさんもどうぞ」

「あんがと」

『……礼を言います』


 チョコを口に放り込み舌で転がす。噛むなんてもったいなくてできんわ。

 里香も同じように口に入れ、アリアさんは少し躊躇った後に口に入れた。開封の仕方は見よう見まねでできたっぽいな。


『それで……あなたは魔王なのだとか』

「そうらしいっすね」


 即答した。手下と名乗った桜花さんもいるし、本格的に魔王っぽいよな。

 ちなみに里香を見れば首をかしげていた。……こいつ、勇者の自覚ないんじゃね?


『らしい、とはどういうことでしょうか?』

「自覚がないってことです。周りがそう言ってるだけなんで」


 ニーチェさんとかシルフとか桜花さんとかね。自分で魔王と名乗ったことは一度もないし、手下ってのも桜花さん以外みたことない。

 そうしゃべりつつも、僕はチョコの包みをねじってこよりもどきを作っていた。手持ち無沙汰なのでそのまま里香の頬をつっつく。里香は顔をよじって避けつつも、遅れてこよりもどきを作った。首筋あたりをチクチクされる。……地味に痛いな。


『……仲が良いんですね』

「あぁー……まあ元の世界から友達だったんで」

『ニホン……という所でしたか』

「そうです。王様いないんで王族とか王女とかはしっくり来ないですね」

『王がいないとは興味深い話ではありますね』


 僕は2本目のこよりもどきを作って、片手で2本持ったそれを里香の鼻に入れようとした。……が流石に難しい。

 こよりもどきから逃げてる里香を眺めつつ、言葉を探す。


「多分、この場で僕を殺したら里香は敵に回ると思いますよ」

『…………』

「そして同じ理由で僕はアリアさんに手は出しません。言うまでもないですが、僕は友達の里香と対峙する気はありません」

『……そう、でしょうね。今のあなた達を見ればその言葉は真実なのでしょう』


 まあこうして話してるだけでも普通の魔王と勇者ではありえないだろう。今はこよりもどき同士で戦ってるが。

 さっきから里香は空気を読んでるのか会話に入って来ない。しかしこっちの暇つぶしに付き合ってるというのを見るに、奴も暇なんだろう。なんというか、良く言えばなごやか、悪く言えばシュールな光景だ。まあどうでもいいな。


「僕達はですね、世界が欲しいとか権力が欲しいとかそんなのはないんです。元の世界に……日本に帰してもらればどうでもいいんです」

『…………』

「帰る方法は分からないんですか? 勇者がいなくなる代わりに魔王がいなくなるんです。知っていたら悪い話じゃないと思いますけど」


 そう言うとアリアさんはこっちをまっすぐ見つめる気配がした。けど僕は目を合わすのが苦手だし、その視線を無視して目は里香のこよりを追い続ける。やがてアリアさんは諦めたように里香を見て、少しだけ冷ややかに言った。


『あなたは何も知らないのですね』

「何がです?」


『魔王は3人、勇者は6人いるんですよ。この国の唯一の勇者が取られてしまっては自衛ができません』


 僕達は前提条件が間違っていたのだ。しかし誰が魔王は3人もいると予想しただろうか。

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