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崖の先は異世界  作者: ザマソー小説部
一章α 憂鬱なお姫様
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第九話α 王城潜入

 ――out side――


 ユウキは日の入りと共にすぐに布団に入って寝ていて、フウレイエルとやらは訓練と称して部屋から出ていた。その空間でボク――シルフ――は、水の精霊と対峙していた。


『誰かに仕えてるのに野良精霊を騙るなんてね。正気?』

『リレイヤリリル様の為なら私は何でもします。それにこれはグレー・・・ですよ』


 ユウキの記憶を辿って例を出せば、40キロ道路で42キロ出すようなもの。違反ではあるが、誰にも咎められない程度のものだ。確かに明確な精霊の掟破りと称するには弱い。


『名前は?』

『ミミアでございます。今後があればよろしくお願いしますね』

『……本当に口惜しいよ。このやりとりを見れば、ユウキだって野良精霊じゃないってわかるのに』

『掟オキテおきて……掟に縛られる真面目な精霊は大変ですわ』


 ふふっと笑うミミアと名乗った水の精霊。自分なら少しは掟を破っても構わないっていう態度なんだろうね。

 野良精霊に名前はない。契約主に名付けてもらう為だ。訊ねれば名乗らなければ重大な掟破りになる為さすがに名乗りはするようだけど、ユウキは「水の精霊」っていう認識だから名を訊ねることはない。ユウキの目の前でボクがミミアに名を訊ねるのは掟で出来ない。結果、ユウキはこれからもミミアという名を能動的に知る機会はない。


『か弱くとも無駄に年月だけは重ねてきた私です。若輩者に口で負けませんよ』

『……じゃあ、強者として一つ忠告しておくよ』


 確かに年月としてはかなわない相手だ。だけど、同格の精霊同士なら実力は契約主の魔力に依存する。たかだか一国の王女と魔王では比べ物にならない。

 ミミアは悔しそうな表情を一瞬 浮かべたものの、何も言うことなく元の愛想笑いに戻した。悔しくはあるものの事実は認めなければいけない、ということだろう。


『ユウキの監視くらいまで許すけど、あんまり度を超すとボクにも考えがあるからね』

『……ご忠告、痛み入りますわ。それでは私はこれで失礼します』


 そう言ってミミアは姿を消した。ユウキほどの莫大な魔力があるならともかく、リレイヤリリルほどの魔力では現界に限界があるのだろう。ユウキが寝ている間くらいは魔力の消費を抑えたいに違いない。


『じゃ、今夜の王城への侵入は3人には筒抜けって訳だ。どうなるんだろうね、ユウキ』


 寝ているユウキからの返答はもちろん無い。ボクの言葉は闇の虚空へと消えて行った。


 ――another side――


 私――フウレイエル・グラーシア――が自己鍛錬を終えてベッドで狸寝入りをして数十分後、ユーキが起き出す気配やこちらの様子を伺う気配を感じる。そして荷物をまとめたら部屋を出てしまった。


「やはり私には何も言わずに出て行ったか。分かってはいたものの、寂しくはあるな」

『水の民と風の民。お互いに相容れない関係は数百年前からずっと変わらないですね』


 誰に言った訳でもないが、いつの間にか隣にいたミミアがそう答えた。私はその言葉に苦笑しつつも、扉をじっと見つめていた。

 昼間、ユーキがトイレに入っている時。私はわずかな風を感じた。同じ風を使う者・・・・・・・でなければ見分けられないほどの熟達した魔法。直観的にユーキが自分の配下の者と連絡してるんだと思った。そしてユーキが何も言わずに出て行くのもなんとなく予想していた。


『それで どうするのですか? 心の迷いはこれからの行動に支障を起こしますよ?』

「……分からない。自分がどうしたいのか」


 第三王女近衛隊副隊長としては、配下を斬ってユーキを軟禁してしまえば風の国ヤマフジに大きく牽制できる。そうでなくてもユーキの護衛兼監視役としては、ユーキの単独行動を許してはいけない。

 しかしユーキが語った異世界から来たということが真実であるなら。普段の素直で温厚な振る舞いが偽りでなければ。ユーキがヤマフジに戻っても ずっと互いの国は平和な関係でいられるんじゃないか。ならば行動を黙認してもいいんじゃないのか。

 ……私は行動を決めあぐねていた。決断を先延ばしにすればするほど、ユーキの追跡が困難になるというのが分かっていても。


『すぐに決められないなら私はこの事をリレイヤリリル様に報告してきます』

「すまない、頼む」

『……正直、私にも迷いはあります。心を透かす私と話術に長けたニードルーチェでさえ見破れないほどの狸なのか、それとも本当に温和なのか』

「判断を見誤れば戦争になる。ちょっと前まで普通の村娘だった私には あまりにも重い決断だ」

『そうですね、慎重に悩みなさい。それでは私は報告に』

「あぁ」


 そう言ってミミアは消えた。報告を聞けば、すぐにニーチェは指示を出すだろう。悩めるのはそれまで。


「ユーキを信じるか信じないか、か。まるで勇者伝に出てくるトルニールのようだな」


 トルニールは元々 敵だったが心を入れ替えて仲間になろうとした者だ。言葉を信じる勇者と信じない味方で言い争う。結局はリーダーであった勇者の意見が通って仲間になった話だ。

 ふっと笑みをこぼして、歩き始めた。どうやら私は勇者伝に毒されてると言ってもいいほど好きらしいな。


 ◇


「お待ちしておりました、勇樹様。我らが王よ」


 夜中に起きてからフレイエルさんが寝ていることを確認してシルフを伴って宿を出た所で、ランプのような物を持った年上のおねーさまに傅かれてそう言われた。やっぱり、どうみても大学生くらいだよ! タメ口で命令なんてできません!


「えぇと、あなたがおうか……さん?」

「さん、は要りません。わたくしの事はどうぞ桜花とお呼びください。こうして挨拶が遅れたことを深くお詫び致します」

「へ? あ、いえいえ。御苦労さまです」


 むしろ手紙に書いた服装と髪の色だけで僕を探して当てただけでも有能すぎる。遅れたなんてとんでもない。というか、隣国からわざわざこんな王都なんていうど真ん中まで来たのが、すでにお疲れ様という感じである。


「寛大なるお言葉、真に痛み入ります」

「ちなみにおうかってどう書くんですか?」

「ハッ、桜の花と書いて桜花と書きます」

「へぇ~」


 そんなどうでもいい事を訊いてみる。名前って口頭で言われると漢字が分からないよね。というか、日本語だから漢字だろうっていう読みは合ってたのか。これなら普通に手紙も通じてそうだ。


「それで桜花……さん、やってもらいたいことがあるんですけどいいですかね……?」

「ハッ、どうぞこの桜花を存分に使ってくださいませ」


 こんな深夜出勤でも嫌な顔ひとつしないで仕事するなんて、仕事人の鑑だなぁ。それじゃ遠慮なく。


「ここの勇者と会いたいんですけど……出向く形で。出来ます?」


 これはシルフと相談した結果だ。

 勇者になって異世界っぽい所に来た里香とはやっぱ会って話をしておきたいけど、城とかそんな所に住んでるであろうし簡単には接触できない。そんでもって、部下のスペックや性格も把握しておかないと緊急時に意思疎通できない可能性もあるけどゆっくり時間もとれない。

 と言う訳で、部下に仕事を丸投げしてみた。そうすれば僕が里香に会う段取りをあれこれ考えなくて済むし、隣で眺めてれば部下のスペックや性格も分かるというものだ。


「ハッ。王命、確かに承りました。御身に触れてもよろしいでしょうか?」

「え? あ、はいどうぞ」

「失礼します」


 そう言って桜花さんは僕の背後に回った。そして僕は横抱きに持ちあげられる。慣れない感覚に「うおっ」と声をあげてしまったのは仕方ないだろう。


「馬が用意できませんでしたので大変 心苦しいですが、これにて我慢して頂ければと思いますが……いかがでしょうか?」

「あー……、桜花……さんは大丈夫なの?」

「ハッ、心配には及びません。勇樹様は御身のことだけ考えてください」

「そ、そうですか……。じゃあ これでお願いします」

「了解しました」


 なんというか……お姫様だっこである。理解した時には遅いっていうか、すでになっていたというか。丸投げすると決めたので、とりあえず桜花さんが無理しない限りは容認した。僕だっと女子をお姫様だっこして走るくらいは余裕……のはずだし、大丈夫だろう。お姫様だっこする機会なんかなかったし、僕はそれほど軽くはないけど。

 しかし桜花さんは僕に不安を抱かせないほど、しっかりとした足取りで走っていた。僕は運動はクラスの中でも上位だと自負しているが、その僕が普通にマラソンした時のスピードとタメを張るほどの速度だ。それで息切れしてればこちらも心配になるけど、許容範囲内の呼吸だった。流石、魔王直下の付き人という感じだ。というか今更だが、部下は人間なのか。


 かくして、城の目の前に着いた。見た目はファンタジーもののゲームとかに出てくるようなもんだったが、気分は役所や会社に侵入しようとする気分である。ただ違うのは、その警備は皇居並ということだろう。捕まったら投獄ものである。


「一応 訊いておくんですけど、どうやって侵入するつもりなんですか?」


 もちろん、そんな場所に策も知らされないで行くほど豪胆ではないつもりだ。聞かなければ不安である。


「ハッ、空を飛んでこの城に住む我が国の密偵の部屋から侵入します」


 ……空を飛ぶのか。それなら城壁も見張りも関係ないなぁ~、あっはっはっはっはーー。


 実は、ずっと美人のお姉さんと密着しててハイテンションである。学校ではモテなかったので女性というのに縁がなかったし、しょうがないと思うんだ。かれこれ30分近くはお姫様だっこだし。

 あるいは城に侵入するという未知の体験ってのもあったかもしれない。悪いことをやる背徳感っていうか、やっちゃいけないことをやってるような……。でも友人に会いに行くってのは別にやっちゃいけないことじゃないよね。それでも城には入っちゃいけないんだろうけど。


「分かりました。あ、あと……」

「? なんでしょうか?」

「なんか昼間に使ってた魔術っぽいのあるじゃないですか。電話みたいな魔術?」

『電話っていうのは、離れた相手と連絡する手段って意味だね』

「っていうのを、勇者とやってもらいたいんですけど……できます?」


 やってもらいたいことをシルフの補足を交えつつ注文する。ヤツは完全なる夜行性なので寝ていることはないと思いたいが、お披露目で疲れて眠ってる可能性も否定できない。行ったのに寝てたら骨折り損もいいところだ。そうならない為にも確認を取ってから行きたい。


「ハッ、すぐに用意させていただきます。しばしお待ちください」


 そう言うと桜花さんは小声で何事が囁き始めた。術の詠唱を行ってるんだろう。あれだ、ゲームでも魔法は強くなるほど詠唱が長くなるし。そんな感じなんだろう。「アローシェイプ」なんていういかにも初級魔法な感じの奴と、電話っぽい魔術では明らかに術の複雑さが違う。


「準備完了しました。すぐにでも御声を伝え、相手の聞くことができます」

「ありがとうございます。……では」


 そう言って息を少し吸い込んで、ひと呼吸おく。久々に友人としゃべる。しかも今回はいつもとは訳が違う。少し緊張していた。


「里香、聞こえるか?」

「…………誰?」


 お、ちゃんと通じてるみたいだ。それに起きてるっぽいな。


「よぉっす、僕は勇樹。今からそっち行くけど大丈夫?」

「え? ……え? なに、なに?」


 いつも通りに単刀直入に言ってみたが混乱してるようだ。


「ま、すぐにそっち行くから準備しとけ」

「えっ、ちょっ、なにっ?」


 まだ混乱してるっぽいが、桜花さんにジェスチャーで通信を切るように指示した。途端に尻すぼみになって里香の声が聞こえなくなる。まあ少しは人目を気にする奴だ。行くって言えば その時には立ち直ってるだろう。そう楽観視した。こんな事態にまで適用されるかどうかは流石にわからない。


「……勇樹様。勇者……様とはお知り合いでしょうか?」

「え? あぁ、友達です。……まあ心苦しいかもしれませんけど、我慢してください」

「心苦しいなんてとんでもありません。もちろん御意にございます」


 そう言われるが、魔王の部下としては勇者と親しくってのは難しいかもしれない。シルフと目を合わせ、桜花さんに見えないようにお互い頷いた。精霊は心を読めるらしいし、桜花さんが里香に不穏な心境を抱いたとしてもシルフが守ってくれるだろう。

 そうしたら城に入るように桜花さんに頼んだ。途中の庭では目下にかなりの数のかがり火があって気が気でなかったが、騒がれなかったということは気付いてないってことだ。


 こうして、まんまと城に入ったのだった。部下が優秀なのか警備がだめなのかの判断は保留かな。

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