3人の魔王
この世界は科学ではなく、魔法が発達した世界。
そこに、一人の少年がいた。
少年はとても強い魔法の力を持っており、世界中の人々が穏やかに過ごすことを願っていた。
――けれど、人は絶え間なく争い続ける。
時に、限りある資源を奪い合い。
時に、人種差別を繰り返して。
時に、正義や悪と呼ばれる、価値観の違いから。
少年は自身の魔法や知識を使い、ひとつひとつの問題に向き合ったが、全てを解決する事はできなかった。
大勢の人を助ける事ができた。
大勢の人々から感謝された。
けれど、助けられない命は常に存在して、なかには、自分と同じように誰かのために、何かのためにと願い続けた人々が犠牲になっていくのを何度も見る。
その度に、自分の力をどう使えば、これ以上の犠牲がでないのか、少年は考え続けた。
魔法の力を使い、懸命に頭を悩ませ、苦しみ、あがいてあがいて――。
一つの結論を出す。
その答えは、きっと正しくない。
けれど、現状より多くの人を救う事になる。
そう信じたからこそ、少年は決意し――――。
――――後に”魔王”と呼ばれる存在になった。
今のままでは、人々の争いの種を全て取り除く事はできない。
ならば自ら種をまき、こちらから悟られないように解決策を用意し、その場で適した人物に渡るようにする事で、少しでも不条理に命が失われる事がないようにと尽力した。
災厄と呼ばれる病気や天災。
多くの人間を恐怖に陥れる魔物と呼ばれる化け物。
自身の幸福のために周りに被害を与える悪人。
それら全てに対応できるよう、情報や武器を、自分から渡ったと気づかれぬように、人々に贈り届けていく。
人々に害をなす存在も、自分の力で作り上げたモノや、自分の価値観から、人々に害でしかないと判断したものに、あえて力を渡す事にしていた。
その結果は――――上手くいかなかった。
決して無意味ではなかった。
以前に取りこぼしてきた命に比べれば、多くの人間が幸福を享受する事ができたし、争いの多くは”魔王”がもたらしたモノとして、人間同士で争う事は極端に減った。
成果は確実にでていたのだ。
けれど、それは”完璧”ではなかった。
少年は誰よりも強く、頭が良く、普通の人より様々な事ができたが、決して神様などではない。
どれだけ考えを張り巡らせて、手を尽くしても、どこかで犠牲者は現れる。
そして、あえて犠牲者と選んだ人間の中にも、幸福になるべき人間だった、と相手が死んでから思い至る事だってある。
その事実が少年を摩耗させていく。
無意味ではない、という事実と。
それでも願いは叶わないという事実。
この2つが、少年の行動と心を縛り続けた。
縛られたまま、少年は魔法を使い寿命を伸ばして、魔王を演じ続けた
長い長い年月が経ち、後に゛勇者゛と呼ばれる人物が生まれた。
その人物は至って真面目で、周囲の幸福を願う、ただの少年だった。
大きな力はなく、平凡な村で、生涯を終えると信じて疑わなかった。
けれど、少年が生まれてしばらく経った頃、村に被害を及ぼす魔物と、それを打破するために用意された”伝説の剣”を手にした日から、少年――彼の人生は大きく変わっていく。
命が失われる悲しみを知り、それを打破できる力の一欠片を手にした瞬間から、「少しでも多くの人間を救おう」と村を飛びだした。
そうして世界を周り、力をつけ、長い時間をかけて辿りついた魔王の本拠地。
多くの魔物を倒し、最深部に佇む魔王へと挑む。
激しい攻防が繰り広げられ、その結果彼は辛勝した。
ぼろぼろになりながらも、彼は歓喜した。
それはそうだ。
彼にとって、魔王は全ての元凶だったのだから。
だから魔王倒した後、彼は村へ帰還し、残りの人生を穏やかに過ごすと決めていた。
当初は彼の想定通りの日々がすぎていく。
しかし、どれだけの時間が過ぎても、争いはなくならないのだと実感していく。
それは魔王が繰り広げられ惨劇により受けた被害が残っているから?
確かにそれもある。
だが根本はそこではなかった。
魔王いなくなってからの、様々な出来事が原因だった。
魔王という、ある種の抑止力がいなくなった事で、好き勝手にする人間が大勢現れた。
魔王が作りだした病気や魔物がいなくなることで、それを癒し、討伐する事で生活していた人間が路頭に迷うようになり、また魔王という共通の敵がいなくなることで、人々は再びいがみあうようになった。
世界は魔王が現れる前への姿に戻っていく。
元々根付いていた問題が浮き彫りになる。
その現実に打ちひしがれていた時、部屋の片隅に置かれていた剣が語りかけた。
その剣は彼が勇者呼ばれるきっかけとなったものであり、そして――魔王が用意した、魔王の力の1部を注ぎこんだものだった。
魔王は彼と対面した際に、その剣を見、そして自身が討たれる直前に、力の全てと、自身の思いを封じ込めた。
激戦の最中ということ、最期の激突で眩い光で覆われた事により、彼はその事に気づけなかったのだ。
こうして、剣が自分に向かって語りかけるまで。
語かけられた当初は驚愕の表情を浮かべ、それでも耳を傾ける。
1人の少年の願い。
途切れることのない苦悩と焦り。
そして最後にたくされたもの。
魔王と呼ばれた少年は、「もしも」と言葉を置いてから。
もしも、この願いを引き継いでくれるのであれば、剣に残した力の全てを引き継いで欲しいと。
そうでないなら、この剣をどこか捨てて、全て忘れて欲しい。
強制はできない。
ただ、願っている。
この世界人々が平穏に過ごす日々を。
伝え終わると、剣は何も言うことはなくなった。
彼は床に膝をついて、頭を抱えこんで打ちのめされた。
先の魔王と違い、彼は元々平穏に過ごしてきただけの、元々ただの人であった存在だ。
力がなかったが故に、見えているものも、手に届く場所も、少年と違い限られていた。
それがきっかけとなる力を手に入れて、その力を伸ばし続けた。
この手を伸ばしたその先に、必ず幸福な未来がまっていると。
けれど、そんな未来などなかった。
いや、彼が諦めてしまえば自分自身と、それに関わる人々の幸福は、手にする事は出来るかもしれない。
その事で彼が非難されたとしても、彼だけが咎められる言われなどなかった。
彼はその力を使い多くの人を救ったのは決して義務ではない。
だからこの先に救う人間を限定しても、それをどうこう言われる筋合いはなかった。
けれど筋合いはなくても、彼は大きな力を手にし、ただの人よりも世界を知ってしまった。
数々の苦しみの声を聞いた
絶望から救われた時の涙を何度も見てきた。
大きな力を持ってしても届かない事を知り、届いた時は歓喜の声をあげる。
それを繰り返して魔王を倒す所まで辿りついた。
ようやく、全てが終わると思っていた。
けれどそれでも至らない事に、それ以上が必要な事に、どこまでも心が軋みをあげる。
投げ出したいと思う。
それと別に、嘗てみた光景が訴え続ける
長く長く、葛藤して。
顔を上げて彼は決意する。
――自分が、2人目の魔王になると。
彼が決意した瞬間、再び世界に魔王が現れた。
1人目の魔王と同じように人々の脅威となり、恐れられる。
決して正解と呼べ無い、けれどそれでも確実に成果だす、そんな役割。
彼は無心にその役割に没頭していった。
そして長い時間が経ち、自分と同じように現れた少年と激闘を繰り広げ、敗れる直前に語って見せた。
魔王が生まれた理由と、役割について。
それは少年に引き継いで欲しいという願いではなく、こんな役割を背負わす事ができないという思いから。
帰れと、冷ややかに突きつけたのだ。
少しの沈黙の後に、返ってきた言葉は。
――ふざけんなくそったれ。
彼の願いを踏みにじるモノだった。
ただし言ったのは少年ではない。
少年と共にいた、少女の言葉である。
少女は少年の姉。
少年の事が放っておけず、旅に同行しここまでやってきた。
――何を語るかと思って聞いていたら、とんでもない事聞かせてくれてありがとう。お陰で色々わかってすっきりしたわ。
2人間に割って入り、魔王を見つめる。
言葉とは裏腹に、その目は冷ややかだ。
そんな姉に溜息をついて、少年は姉に声をかけるも、姉は手を突き出して少年を制止する。
――あんたはちょっと黙ってて。
振り向きざまに少女はにっこりと笑う。声音は朗らかだが、少女をよく知る少年は思わず、「あ、はい」と返事して距離をとった。
それを見届け、再度彼に向きなおり。
――あなた、ほんと〜に馬鹿じゃないのっ!
彼を罵倒する。
罵倒された彼は、目の前にいた少女が行動する事も、このような言葉を吐くとも思っておらず、唖然とするばかり。
――多大な労力を重ねて、世界の平和に貢献した事については、私から言える事は何もない。賛成すれば、犠牲者に。反対すれば 、あなたに。あなた達の受けてきた痛みも苦労も仕方の無いことだった、そう言っているようなものだと思うから。だから”それ゛については何も言わないけど、そ・れ・以・外は別っ!
語気を荒くして叫んだ。
――何でもかんでも、一人でしようとするな! 背負うな! 最初の一人目は……聞いている限り、人に頼る事を知らずに育って、そのまま大人になったみたいだけど、あなたは違うんでしょう!? だったら知ってるはず、人は一人じゃ生きていけないし、生きてちゃいけないのよ! 誰かに頼って、教えられて、守られて、それをまた同じ人でも、違う誰かでも、自分に受けたモノを返して、その繰り返しで生きるのが当然! なのにあなたときたら、ただ助けるだけで、誰かにはちっとも頼らない。あなたが引きついだ夢は、それは途方も無く大変な事なんだから、だからこそ余計に誰かに頼らないと駄目じゃない!
言い切ると、少女は彼を見つめる。
その言葉に、彼は言葉をかえす。
――だが、誰かに押しつけるということは、その誰かが全てを背負い込むことになる。
――馬鹿、たった一人に託しちゃったら、潰れるに決まってるでしょ! そして人間舐めんな!
彼の言葉を吹き飛ばすように、即座に少女は返答した。
――あ~もう! 聞いている限りみんな性格違うはずなのに、どうして考える事が一緒なのよ。頭痛くなってきたー!
やれやれと言わんばかりにため息をつき。
――あなた達には適材適所とか、助け合いとか、そういった周りに頼る言葉が頭の中にないのかしらね。あと自分の後釜=不幸みたいな図式もよくないし、全部をこなせなくたって、それは何も出来ないってわけじゃない。強大な力が無いからって、人間は決して無力なんかじゃないのよ。
そして声音に子供に諭すような優しさと、彼を思う悲しみが帯びる。
――きっと、あなた達は優しい心の持ち主なんでしょう。当り前に誰かのために行動できる人間はみんなそうだって私は思う。けどその優しさに自分を含まないから、こんなに苦労しても、その苦労を誰かと分け合おうとしない。それが周りがどれだけやるせなさを持つか、考えた事ある?
彼に近づき、そっと顔に手を触れる。
――全員じゃないだろうけどさ、あなたが”勇者”だと呼ばれて助けた人の中に「何か出来ることはありませんか?」 って言っていた人はいなかった?
――……いた。
――でしょうね、っで、あなたはきっと「何もいらない」って返したんだろうけど、それってある意味とっても残酷なことだから。
じっと彼を見つめた。
――少しでも、力になってあげたいと思っている相手に何もいらないって答えられたね、とっても傷つくの。そりゃあ……さ、出来る事が多い人間に比べたら、出来る事なんてゼロに等しいかもしれない。けどそのほんの少しは、精一杯のもの。そしてそれは”あなたのために”と向けられたものなんだから、あなたがそれを受け取ってあげなきゃ、本当にその人は何も出来ない人間ってことになるのよ?
彼にとって、それは初めて言われた事であり、考えた事もないものだった。
――誰かを助けることが決して間違いじゃないように、助けた人間から、何かを受け取るって事も、絶対に間違いなんかじゃない。だから誰かを助ける事を大切にするなら、ちゃんとその人を見て、その人の感謝から生まれたモノを受け取ってあげること。そのうえで、誰かに助けて貰うこともちゃ~んと考えれば、きっとあなたは1人で背負う事もなかった。
そこまで少女が言った所でで少年が口を挟む。
――それはそうだなぁ。どんだけ力があっても、世界を全部どうこうするなんて難しいし、1人だけで全部どうこうするのはどうかと思う
――う る さ い! あんたもその一人で何とかしようとするの筆頭だからね! 普段はぼーとして、面倒くさがりで、他人の事なんか知った事ではありません、って装いながら、魔物の襲撃に村全員で避難するって時に、勝手に祠に保管されてくる剣をとってくるわっ! 困難な旅になるだろうからって、誰にも言わず、夜中に一人で村から抜け出そうとするわ! 旅の途中でもあんなに言っていたのに、何にも言わずに一人で厄介事を解決しようとした事が何度あった事かっ! ――あんたも後で説教決定! けど今は別! そこで黙って聞いてなさいっ!
今話に入ってくるなと叫ぶ。
再び黙る少年。
少女は少年を見つめて魔王に向き直る
――仲がいいんだな。
――仲がいい……うんそうね、否定はできないかな。だからこそっていうのもあるし。
少女は魔王の言葉に否定しようとし、けれど今の状況で否定するのは良くないなと本音をこぼす。
――私はさ、誰かの幸福を願うなら、まず自分ありきだと思うの。自分が楽しく過ごして、その中に家族とか友達とか――自分にとって、大切な人間も含まれていく。それが自分が関わるみんなにとって、何より自分にとって幸せで、それでいいって思ってる。けど弟がこんなんで、無関係な人間ホイホイ救って、自分がそこにいなくてもいい、という訳のわからない性分だから、毎回引っ張り上げて説教してる感じ。
少女は苦笑する。
――そんなんだから、放っておけなくなっちゃった。私は全ての人間を助けたいとか、自分がどうなってもいいとか、そんな事ちっとも思わないけど、でも誰かのために頑張ってい人間がぼろぼろになっていくの、我慢できないわ。
――…………。
――ねぇ?
――何だ?
――あなたも出来るのよね?
少女が尋ねる彼は何を聞かれているのかわからず、何がだ? と聞けば、少女は笑みを浮かべた。
――力の譲歩、ってやつよ。
彼は見開く。
――何を……。
――んー、ちょっと考えたんだけど、あなたに誰かに頼れ! って言っても、めでたしめでたしになるとも思えないし、じゃあ弟が新たな魔王になっても、結局1人で抱えこみそうだし、じゃあ、私がなっちゃえばいいんじゃない?って思ったのよね。
この言葉に魔王のみならず、少年も「はっ?」声をあげた。
――何をいってる?
――みんなが幸せになる方法
困惑しながらの彼の言葉に、きっぱりと言い切る。
――あなたは、1人目の理想を叶えたい。弟はきっと口ではなんだかんだ言っても結局放っておけない。私はあなた達がボロボロになるのを良しとしない。なら、もう私があなた達の協力を受けながらその理想叶えてあげた方がいいよねって。
今からちょっと散歩してくる、そんな軽い口ぶりでとんでもない事をいう少女に、空いた口が塞がらない2人。
――我ながら名案ねっ。
いや、良くないだろ! と2人がシンクロする中で少女は陽気に笑う。
――大丈夫大丈夫、だって人に頼るの当然、助け合いしなんぼの精神だし、私は偽悪の精神でやる気もない。私は私なりのやり方でやっていくから――
だからこれからよろしくね2人共♪
この発言で、2人が「わかったこれからよろしく!」 となるわけもなく、長い長い話合いが行われた。
どちらも首を縦に振らないまま、延々と続く話し合い。
その結論を語るなら――。
『私が3代目の魔王になり、以後世界平和に貢献しようと思いますっ。現在勇者と呼ばれてる弟と、元魔王の側近と共に! 以後よろしく!』
黒をメインとした衣服に身を包み、2人の人間を引き連れて世界各国を巡り、自己アピールする少女の姿が。
少女はウキウキとノリ気であり、2人はとても疲れた顔をしていた。
世界の人々は混乱する。
今まで恐怖の元凶だった魔王という存在が、急にノリノリで街中を歩き回れば当然驚く。
当初は魔王を語る阿呆だと言われたりもしたが、敵意や悪意がある人間を遠慮なくぶっ飛ばし続ければ、偽物だと言う輩は徐々に消え失せていった。
更に破天荒な行動は続いていく。
ある国に喧嘩を売る事もあれば、ある国には恩恵をもたらす。
聖女と呼ばれる人間や、悪魔と呼ばれる人間を仲間にいれたり、時にはぶっ飛ばす。
ある国の王族をぶっ飛ばしたかと思えば、今度は別の国の王族を救いだしたり。
外側から見ているだけでは 、何がしたいのかさっぱりわからない。
そんな魔王に対する扱いも様々。
敵視する場合もあれば、これでもかと神聖視される場合もある。
なので、魔王という言葉は聞き手によって大きく変わる。
災厄の化身と比喩するものもいれば、救いの女神だと思うものも。
そんな人間達は、親しみのこもった声で”魔王様”と呼ぶようになっていった――――。
――何をしているんだ?
魔王が嘗て住処にしていた場所を開拓したことにより、多くの人間が住まう事にできるようになった場所の一角。
魔王は自室として割り当てられた部屋で、とある読みものにふけっていた。
そこに現れた側近。
魔王の様子を見に伺ってきた。
――んー、何か知り合いの作家が私の事を題材にしたいからって持ってきたモノを読んでるとこ。
――許可したのか?
――許可っていうか、当然納得いかなければ没にするけど、書くこと自体は条件をつけてOKにしたわ。
――条件?
――そっ。1人目と2人目の魔王について、きちんとかけていればOKって言ったの。
そこで扉の前にいる側近に向かって、部屋に設置されている椅子に座るように促す。
側近は促されるまま椅子に腰掛けて魔王を見る。
――なぜそんな条件を?
――みんながちゃんと”知らない”からよ。世界平和のために、尽力してきた2人の魔王の事を。
それを知るきっかけになるならいいと思ったという魔王の言葉に、側近は返答に迷った。
それを見た魔王は笑う
――これは私のワガママ。”身内”の努力があるお陰だからねってみんなに知っていて欲しいの。
目を丸くした後で、側近は魔王の意図を汲み取って、そうかと微笑んだ。
そして腰に帯びた剣の柄をそっと撫でる。
今ではうんともすんとも言わないが、それでも剣が――世界平和を願った少年が喜んでいるような気がした。
――うんうん、それでまあさ、内容は逐一確認していくからいいとして、その本のタイトルをね、考えてたの。
気を良くした魔王は側近に伝え、側近は納得して頷く。
――そうか、それで何かいい案はでてきたのか?
側近の言葉にそうねと言って、少し悩んだあと口にする。
――最近の流行の長文タイトルにちなんで――。
側近に微笑み。
――三人目の魔王様は面白く愉快に世界平和に貢献するっ! 周りにどれだけ苦労をかけても、最後はみんな笑っていれば全然問題ないよねっーーとかどうかしら?
自身の思い告げた。
側近はそのタイトルが良いか悪いかは分からないが、と前置きを置いてから。
きっと読んでいて、とても楽しいものなんだろうと微笑んで。
現代の魔王はそうでしょ? と言わんばかりに笑い返す。
――さぁ~てっ、ひと段落ついた所で、今日も明るく愉快に世界平和に貢献しますか~!
魔王は立ち上がり扉に向かい、側近である彼もその後をついていくーーーー。
嘗ての魔王と呼ばれた少年の願いは、まだまだ叶っていなし、もしかしたら叶う日はこないのかもしれない。
それでも、誰かのために、何かのためにと幸福を願う事は決して間違いではない。
間違いでないからこそ、一人目も二人目も、苦しみ、迷いながらその道を歩き続けた。
けれど、三人目の魔王は違う。
一人だけで、理想を追うことはしなかった。
それは彼女は知っていたから。
誰かのために、何かのためにと行動できる人間は、その中に自分を含まない。
それは明確な間違いだと言うことを。
何故なら、理想の中には当然、叶えようとする自分を含めてこそだと。
だから彼女は笑って理想を追った。
その理想を追う姿に、様々な人間が惹かれていった。
世界は、そんな彼女達によって、今日も彩られていく。
誰かの痛みや苦しみを打ち消して、救った人間と一緒に笑う。
そうやって今日もこの世界は巡っていく――。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。