運命を刻む針
「運命を刻む針_起動!」
その魔法が起動した瞬間、時間が、空間が、すべてが止まる。動けるのは、彼女一人のみ。
再び時間が動いた時には、彼女は視界から消えていた。
「消えた⁉逃げたのか?」
アトラーは周囲を見渡し、魔力により周囲を探知する。だがどこにも見つからない。
この空間から、彼女の気配だけが消えた。
「…まぁいい。逃がしたのは癪だが、あの小娘程度、脅威でもあるまい」
彼は玉座へと向き直り、警戒をこの場ではなく、部屋の外へと向けようとする。
だが、その意識は背後からの斬撃によって、その相手へとむけられる。その斬撃は、アトラーの腕を吹き飛ばした。
「___ばかな。何故そこにいる?」
そこには、丈に合わない剣を持った優火が立っていた。
「気が付かなかったのか?ずっとこの部屋にいたさ。間抜けか?」
「…舐めるなよ」
彼の足元から魔方陣が描かれ、動き出す。彼のどす黒い魔力が注がれ、起動する。
「【ナイトメア・ドリーム】ッ、奴を支配せよ!」
彼女を闇が包み込み、意識を奪い取ろうとする。意識を奪い取るどころか、下手すれば永遠に意識を手放してしまいそうなほどの深い闇が彼女を襲う。そしてさらに彼女の手足を固定しようと魔力をさらに練り直す。
だがその中でも、彼女は動く。正面から闇を突き進み、アトラーへと斬りかかろうと足を進める。
闇を突き抜けた直後、アトラーの魔方陣が起動する。闇と炎と水を合わせた高度な爆破魔法。
闇と優火がまとめて吹き飛んだ。まともに当たればただでは済まない。そう思い彼は爆破した地点をみると、そこに彼女の姿はない。
すでに彼女は背後にいた。そこから彼に斬りかかる。魔力による補正によって、その斬撃の威力は十分なはずであった。
魔力による防御壁、魔法障壁が彼の体を守り、斬撃を通さない。
「さすがに通らないか、厳しいな」
「あきらめろ。そして我に従うといい。それが賢い選択だ」
彼は私に哀れみの眼を向ける。
「私の傀儡になれば、何も考えなくていい。言う通りに動いていれば、幸福を与えてやる。かかわらなければ、自由に生きられる。その選択肢があるのに、なぜそうしない?」
「強いて言うなら、依頼だからかな。頼まれたらそれに全力で応える。それが私の生き方だからさ」
彼の眼は未だ変わらない。
「…そうか。つくづく理解できん人種だ」
彼は指を鳴らし、目の前に洗脳されたうちの一人を呼び出す。転移魔法の一種だろう。そうして呼び出されたのは、操られた私の親友だった。
「ならばその依頼主に殺されるといい。この魔方陣の硬貨が切れることはない。全力で応えるというのなら、殺せ。それが依頼主への、せめてもの弔いというものだろう?」
親友がもう二度と戻らない。そうとも捉えられる事実を伝えられ、優火は絶望で自棄になる、または自害でもするかと、アトラーは考えていた。
だが彼女はこの時、笑っていた。
「ああ、間違いない。その魔方陣を破る術が本当に無いのなら、だけどね」
「何?」
優火は一瞬で魔方陣を描き、起動させる。自身も含めた大幅な火炎魔法。彼女だけが脱出し、それ以外のものが焼き払われる。魔力すべてを使った最後のあがき。浮遊魔法を使い難を逃れたアトラーの眼からはそう見えた。
「馬鹿め、魔方陣を焼き払っても、肉体が生きていなければ意味がないだろう。気でも狂ったか」
だが、その炎の中で、一つだけ立っている影があった。
「…意味ならあるわ。この私がしょうもない術から解放されたのだからね!」
「馬鹿な、魔法耐性のある魔族ですら焼き払われているんだぞ⁉」
彼女はすべての炎を吸収し、自身の魔力へと変換する。
「私は特異体質なの。どんな炎でも耐えられる。私の魔力は、それ以上の温度で燃えているから」
彼女は剣をアトラーの方に向ける。
「よくもまあ私をコケにしてくれたわね。覚悟なさい」
王都最高峰といわれるその剣は、すべてを焼き払う。




